0 裏から表へ
月が黄金色に輝き,形は何一つ欠けることの無い、満月と呼ばれる日。
それが照らしていたのは、幼い少女と成熟した二十代の姿だった。その女性たちは日本国発祥の美しい和服を着用しており、それを大きく揺らしながら鬱蒼とする森の中を後ろから迫りくる狼たちに追いつかれないように必死に走っていた。
だが、少女の小さな足が木の根の出っ張りに引っかかり転んでしまい、その際に少女が手に隠し持っていた真っ白の石をゴクンッと飲み込んだ。
「ゴホゴホ、お姉ちゃん、いたいよ~」
「ッッ!!」
和服の一部と一緒に膝の一部を擦りむいてしまい、少女は痛みを我慢できずに涙がポロポロと泣いてしまう。
姉はすぐに少女の体を抱えて近くの木の後ろに滑り込んだ。姉は和服の内側に入れてある手拭いを取る出して傷口の部分に当て出血を抑える。
『『『ワオン!ワオン!ワオン!』』』
周囲にはすでに少女の泣き声と血の匂いのおかげで耳が良い複数の狼が続々と集まりつつある。
その中には、ひときわ背が高い白狼がおり、背中には木箱と黒髪を後ろに束ねた吊り目の女性が乗っていた。
「近くにいるのはわかっている。さっさとでてこい!」
乱暴な言動をする吊り目の女性は、狼の鼻が犬並みに匂いを探知する能力が高いのを知っているため、地面に落ちた新鮮な血を嗅がせ少女達の位置は完全に把握していた。それから数分待つ。
「結構、待ったつもりだけど。まだ出てこないつもりか……今すぐに出てくれたら、命だけはとらないでやるぞ」
男っぽい言動をする女性は狼に背に置いてある、《《火縄銃》》を取り遠方から攻撃しようと弾を込めて準備を始めた。
(クッ、もうどうすることはできないのか……)
「お姉ちゃん……」
苦虫をかみつぶしたような顔をしている姉を心配して少女は姉の袖をギュッと握りしめた。
姉は、妹の行動により冷静さを取り戻して、この窮地を抜け出すための糸口を見出し、妹の名を呼んだ。
「《アゲハ》……良く聞いて、これから私は囮として奴の前にわざと出ていく、だからアゲハ、あなたは一人でこの裏の世界から脱出して」
「いやだよ、お姉ちゃん――だって、いつも一緒にいるって言ってくれたよね?」
少女の問いに姉は下を向き黙り込み、静かに敵の前へと出ていく。
バンッ!
敵の女性が脅しに火縄銃の弾を彼女達がいる木の打ち込む。木の影にいた姉が頬をかすめ、出てくる。
「ほう?本当に出てきたのか」
「命まではとらないと言ったでしょう?」
「ああ、いったな、それにしてもいい筋肉だ。さすがは私の狼達から逃げられただけあるな、まあ今からおまえは、裏の世界の王、喰城様のものになるのだけどな、ハッハッハ」
女性は高笑いをして喜びんだが、隣にいる白狼が狼が彼女を尻を鼻でつついたことにより、目の前に出てきた女がどこからも血が流れてないことを確認した。
もう一人が木の後ろにいることに気づいたが、狼たちの反応を見た限りもういないだろう。
妹はうまく逃げだすことができた。
「フッ、どうやら今頃気づいたようね」
「まんまと作戦に引っかかったってわけか、おい!お前ら今からでも遅くはないはずだ。お前たち、追いかけていけ」
敵の女性は草木に隠れている手下の黒い?狼たちに指示を出した。
それを見た姉は目の前にいる女性と白狼だけは行かせない強い意志で、心の奥底に眠る力を振るう。
「あんたを決して妹の元になんていかせなんてしない!【影縛り】
勢いよく腕を殴るように空気を切ると同時に、周囲の影が火縄銃を持つ敵の彼女と狼達に纏わりついていた。
「あんた……まさか 、神の力を行使できるんだったなんてね、おどろきだね」
「黙って」
影が敵の女性の口を塞いだ。
(アゲハ……絶対に元の世界に帰りなさいよ!)
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「はっはっは……」
姉の行動によりうまく逃げらえたアゲハという少女は、狼が来てないか確認しながら走っていたが、
突然、目の前に出現した黒い壁が立ちはだかり激突した。
「いたた……」
アゲハはぶつかった個所の額を抑えた。
(休憩しちゃおうかな……)と脳裏によぎるが、『ワオーン!』と後ろから狼の鳴き声が聞こえ、焦る彼女。
(こんなこと我慢しないと、お姉ちゃんに怒られちゃう)
いつまで経っても成長しない自分に腹がたち、目の前にある黒い壁に向かい拳を握り締めて何度も叩いた。
(お願い……ここから出して)
黒い壁を必死に叩く手が鬱血して血が出てきた。
後ろを振り返ると狼が迫り来ていたが流れ出た血により立ち眩みがして、壁によりかかった。
「ここから出してよ!」
狼に首を搔き切られると思った、その時――
『わかった、出してあげるでも代わりに、大切なものをもらうね……』
「え?」
頭に聞き覚えのない自分とは違う少女の声が聞こえた。
その後すぐに、
《《黒い壁》》が突然、《《白い渦》》に変わり着物を着た少女はそのまま飲み込まれた。――
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気づいた時には周りは長方形の石が重なり合う見知らぬ場所にいた。
そこは表の世界、現代の日本の路地裏。
少女はそれよりも空から降ってくる冷たい雨に懐かしさを感じ涙を流し泣いた。
だが、狼達から逃げれてという安堵感からは疲れ果てた彼女はその場で気絶した。
「大丈夫か!?」
気絶する直前に透明な布を被り、紺色の帽子を被る男がうっすらと見えた。
彼は現代の警察官だ。