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個性派JK☆勢揃いっ!  作者: M・A・J・O
幕間 様々なイフ
54/238

もしも紫乃が男の娘だったら

「にゃあ」


 何処からか猫の鳴き声が聞こえる。

 おおかた、近所の公園やら家やらからだろう。

 いちいち気に留める必要などないのだが、今日は何故か耳に入ってきた。

 それよりも……


「明日は入学式か……」


 ため息をつく。胸なんて躍らない。

 だって今年から二年生なのだから。

 入学式には在校生として出席しなくてはならないのだ。


 夜の闇に同調するように考えも暗く淀む。

 流石の不良でもサボる事は許されない大事な学校行事。


 ――ただ退屈なだけの学校行事。

 そこで起こる出来事によってこれからの人生に大きな変化が生まれるのだが、この時の少女はまだ知る由もなかった。


 ☆ ☆ ☆


 朔良。現在高二の不良少女。

 陽に照らされてキラキラ輝く茶髪と同じく茶色の瞳を持った、不良という点を除けばごく普通の少女だ。


 その少女は、男勝りな性格と男みたいな言葉遣いをしているので、男と間違われやすいがれっきとした女である。


 その少女……もとい、朔良は坂道を歩いていた。

 少し気だるそうに、ブレザーのポケットに手を突っ込みながら学校へと向かっている。

 朝日を鬱陶しそうに睨みながら、周りの人を威圧しながら進む。


 ――ドンッ。


「っ! いってぇ……!」


 曲がり角を曲がろうとしたら、何かにぶつかった。

 朔良は普通に歩いていたが、向こうが急いでいるのか走っていたのだろう。勢いよくぶつかった弾みで朔良は尻餅をつく。


「おい! てめぇ!!」


 お尻をさすりながら、細い目を更に細めて転ばされた相手を睨みつける。

 相手は朔良の叫びと睨みに怯えているのか、真冬の外に半袖で出ているように体を震わせている。


「ご、ごめんなさい〜っ……!」


 声も震えている。そしてその目には涙を浮かべている。

 朔良はそれを気に留めるでもなく、ゆっくりと立ち上がる。

 朔良は改めて相手を見た。と言うより睨みつけた。


 ミディアムロングの青色の髪に、全てを見透かす蒼輝のような瞳をしている。

 華奢な体つきをしていて、背は朔良より少し低めで、恐らく年下だろう。


 年下の――“女の子”なのだろう。



「ふん、よかったな。女に生まれて」


 男だったら速攻殴りにかかっているところだった。

 朔良は颯爽とその場を立ち去る。

 相手は何か言いたそうに口をぱくぱくさせていたけど、ついにその口から言葉が出てくることはなかった。


 ☆ ☆ ☆


「うげ、またお前とクラス一緒なのかよ……」


 朔良の学校では入学式と同時にクラス替えの発表があるのだが、とある人物とまたもや一緒のクラスになってしまい、それがとても嫌そうだった。


「“うげ”ってなんですかぁ……そんなに私と同じクラスが嫌なんですか?」

「だって、てめぇいっつもわけわかんねぇ臭いがすんだもん……嫌ったらねぇわ」

「えー、ひどいです。わけわかんない臭いってなんですかぁ?」

「わけわかんねぇ臭いはわけわかんねぇ臭いだよ」


 朔良と話しているこの少女の名は、萌花。

 明るい小麦色の長い髪に、太陽をまるごと閉じ込めたような澄んだ橙色の目をしていている。


 そして、いかにも男ウケしそうないやらしい体つきをしている。

 胸はでかいし、背は小学校高学年ぐらいだ。

 しかも、無垢そうな顔つきをしていて、いかにも小動物という感じのキャラだ。


「あ、ねぇ。一年生の教室見に行きませんか?」

「なんだよ、突然……」

「年下って可愛い子いっぱいいそうじゃないですか……」


 と、萌花が舌なめずりをする。獲物を狩るような鋭い目つきにもなった。

 朔良は「程々にしろよ……」と、仕方なさそうに萌花の後に続いた。


 ☆ ☆ ☆


「おい! あの朔良先輩たちがこっちに来るぞ!」

「嘘だろ!? 帰りてぇ……」


 朔良は学校では有名な人物であった。

 悪い方の意味で有名――すなわち、“不良”としての朔良のあまりに横暴な態度が、一年生にまで伝わっているのだ。


「やっほー! さて、私好みの子はいますかねぇ?」


 ものすごく可愛らしい声のトーンで、萌花が一年生の教室に入る。

 朔良は教室のドア付近で腕組みをしながらドアにもたれかかって、萌花の様子を見ているだけだ。


「お、この子かわいいです!」

「え……? あ、あの〜……」


 萌花が目を輝かせて獲物の腕を掴むと、朔良のそばへと駆け寄る。

 朔良はその獲物に見覚えがあった。

 朔良にとってその獲物は少年と言うより、“少女”だ。

 つまり――


「お前、どっかで会ったような……?」

「ひっ……! ごめんなさい〜っ!」


 その少年は声も顔も中性的だったが、どっちかと言うと女よりだった。

 なので、朔良が女だと勘違いしていた――あの朝に出会った“男の子”のようだ。


「ん? あなたたち面識あるんですか? 知り合い?」

「いや、知り合いっつーか……」


 なんと言えば良いのか分からない。朔良はそう思った。

 それもそのはず。

 今朝ぶつかった人が同じ学校で、しかも女だと思ってたのに男だったとあっては、混乱してしまうのは当然の事だ。


「あ、あの……今朝はすみませんでしたぁ……しかも誤解を与えたままお別れしてしまって……なんとお詫びすればいいのか〜……」


 少女……いや、少年はそう言いながら頭を下げた。全身が震えていて、顔も青ざめている事だろう。

 絶対絶命のピンチに見えた。しかし――


「あー……いや、別に……忘れてたし……」

「朔良って忘れっぽいですもんね」

「うっせ」


 朔良は気まずそうに顔を人差し指でポリポリと掻くと、萌花があははと笑いながら言う。

 すると朔良が萌花の頭を軽くコツンと叩く。


「……え? え?」


 少年は何が何だかと言う顔をした。……無理もない。

 今朝は獅子の怒りの如く今にも殺さんとする雰囲気を纏っていた朔良が、今は兄弟や仲間とじゃれ合う無邪気な猫のように見えたからだ。


「ところで、あなたの名前は?」


 朔良とじゃれ合っていたはずの萌花が、少年に突然質問をする。

 蚊帳の外だった少年は突然質問を投げかけられたので一瞬戸惑ったが、もう考えるだけ無駄だと悟ったのか、息を整えながら答えた。


「紫乃です〜……」


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