第19話 すらんぷ(紫乃)
蒼輝のような青く澄んだ瞳を真剣に揺らして、紫乃は絵を描く。
だが、どうにも納得がいかない。
(んー……ちょっといまいちかな〜……)
紫乃は今、いわゆるスランプに陥っている。
自分の描いた絵に自信が持てなくて、モチベーションが下がる一方だ。
肩まで伸びた青い髪を指でくるくると弄り、顔を険しくさせる。
「おー、聞いてた通り上手いな」
「でしょ? すごく上手だって言ったじゃん……!」
「すごいですね……私には絵心がないので羨ましいです……!」
急に自分の周りに集まってきたクラスメイトたちを見て、紫乃は肩が跳ね上がった。
普通に絵を見られるだけでも逃げ出したい気持ちになるのに、よりによって自信のない絵を見られるなんて……死にたい!
紫乃は顔を真っ赤にさせて椅子を引こうとするも――
「これ、どうやって描いてるの……?」
「……へ?」
知っている声に呼び止められ、おそるおそるそちらに顔を向ける。
紫水晶のような穢れのない紫色の瞳を輝かせている美久里。
「すごい! 私もこんな風に生き生きとしたキャラクター描いてみたいよ……!」
美久里は目どころか、顔全体を輝かせて紫乃のイラストを見つめる。
描かれているのは、『まほなれ』の主人公である結衣が持つ魔法のステッキ――ガーネット。
ガーネットはギャグキャラで、いつも結衣たちを振り回す。
「ガーネットの明るさや面白さが存分に滲み出てる……!」
「たしかにガーネットはこうじゃなきゃな」
「ガーネットって『まほなれ』には欠かせない存在ですよね……!」
美久里が興奮気味に感想を述べていると、朔良と萌花も笑顔を浮かべて言う。
その様子を見て、紫乃は自分がなんの為に絵を描いているのかを思い出した。
(そうだ……僕は、みんなに元気を届けられるような……そんな絵が描きたいんだ……)
そして、紫乃は美久里たちに近づく。
「……今度、絵の描き方教えてあげるよ〜」
「え……! ほんと? やったぁ!」
美久里が笑うと、紫乃も自然と口角が上がった。