第16話 いらすと(紫乃)
イラストを描くのは結構好きだ。
人物や動物を描くと、今にも動き出しそうな感覚がたまらない。
ファンタジー世界のキャラクターも、現実世界を舞台にした架空のキャラクターも、アニメ映像で再生される。
そんな、キャラクターに命を吹き込んでいる感覚が大好きなのだ。
「わー……すごい……」
「〜〜!?」
声にならない声が出る。
絵を描くことに集中していて、誰かが近づいてくる気配に気づくことができなかった。
これは非常にまずい。
自分の絵を他人に見られるなんて、全裸になるぐらい恥ずかしいのに。
「ねぇ、これ自分で描いたの……?」
「えっ? あ、まあ……そうだけどぉ……」
咄嗟に嘘をつくこともはぐらかすこともできず、正直に肯定した。
すると、その子は目を輝かせてずいっと顔を近づけてくる。
「すごいね……! なんて言うか、上手く言えないけど……これ、まほなれの主人公の結衣ちゃんでしょ!? なんて言うか……すごく生き生きしてる……!」
イラストをまじまじと見ながら、饒舌に話す紫髪の少女。
その少女はハッとした表情を浮かべると、気まずそうに顔を逸らした。
どうやら、興奮気味に話していたことが恥ずかしかったらしい。
そして、少女は申し訳なさそうに顔を伏せる。
「ご、ごめんね……素敵な絵だったから……つい……」
「いや〜……別にいいけどぉ……」
――“素敵な絵”。
そのフレーズで、緊張と警戒が解けた。
少女のその言葉に嘘がないことは、すぐに見てわかるから。
「あ、私の名前は美久里。その……もし嫌じゃなければ……よろしく」
何か一言自虐のように聞こえるものがあったが、気のせいだろうか……
「……僕は紫乃。こちらこそよろしく〜」
紫乃はおおらかに笑いながら思う。
(この子……あの子に似てるな……)
遠い昔――嫌な記憶に光をあててくれた人物。
顔も声もおぼろげで、気がつくとなくしてしまいそうなほど脆い記憶だが、なぜか今は……それが鮮明に見えた気がした。
紫乃はそんな暖かい記憶を忘れないようにと、真剣な表情で絵を描き始めた。