表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しい世界の歩きかた  作者: 狐面
深淵にて
9/41

いざ決闘

 俺達は、村の端に在る広場へと移動していた。遊んでいた子供達は目を輝かせ、ギャラリーと化している。

 

「が、頑張ってください!」

「気を付けてねー」


 俺に声援を送る聖女と魔性を、乾いた目で見返す。どうしてこうなった。


「おっしゃ、ボコボコにしてやるぜ」


 目の前では、甲冑を身にまとった屈強な大男が、指をポキポキと鳴らしている。

 そうか、お前の所為か。っていうか誰だ。


「お前、冒険者でもEランクなんだってな。俺は手強いぜ?」


 自分で言うな。


「相手は剣術の師範よ!」

「おう、今は武者修行中よ」


 それはニートと言うのではないか?


「ボッコボコにしてやる」 


 何故か、相手の怒気が膨らんだ気がした。どうしたニート。


「へっ、そんなナヨナヨした体型なんだ。先手は取らせてやるよ」

「――有難い」

 

 俺は一礼し、口元に布を括る。戦いにおいてマスクは重要だ。言葉を、唇を読めなくする。まだ発声が無いと術を発動出来ない俺は、特に注意を払わなければならない。

 さてどうしようか。実力は相手が上だろう。初手は貰えているのだから、出来れば決着まで持ち込みたい処だ。

 

「どうした? すくんじまって動けねえのか?」


 煽りプレイまで発揮するとは、あなどれんな。

 俺は棒立ちのまま、相手に見えないよう右手に苦無くないを持った。手は真っ直ぐにして、包み込むような形だ。それに合わせ、下ろしたままの左手で印を作る。


「――木遁」


 スナップを効かせ、右腕を跳ね上げる。右手に雷を宿し、包まれた苦無が凄まじい勢いで発射された。レールガンの要領だ。

 音速の苦無は男の頬を掠め、近くの木に突き刺さる。俺はまだ未熟だ。一度に複数の術を使えない。このまま金遁でも出来れば良いが、苦無も一本しか操れない。これは目眩めくらまし――思惑通り、奴の視線が横に逸れた。


「水遁!」


 左手の形を変える。血液を操り、身体能力を爆発させて一気に近付く。


「うお!」


 視線は逸れていたはずだが、男は直ぐ剣を抜いた。反応が早い。流石だ。この強さなら、俺も抜刀した方が良いのかもしれないが、今は印を変える余裕が無い。速さ重視で進める。接近して判る。奴の鎧は薄い。皮より防御力は高いかもしれんが、剣で敵を捌く前提で造られた物だろう。構造も見れ取れる。魔物の身体と一緒だ。これも修行の成果か。


「ふん!」

 

 厚みが薄い箇所に拳を放つ。


「おお!」


 一撃入れ、二撃目を入れようとすると、男の剣が滑り込んできた。だが、俺は腕の軌道を変え、同じ部分を拳で叩く。


「ぐ!」


 鎧が凹んで、男が呻いた。しかし、剣筋は衰えず速いままだ。印を変えなくて正解だった。水遁を解除すれば反応出来なくなる。火遁は使えない。それならば――

 俺は胸の紐を解く。刀を背に結び着けている紐だ。そのまま腰を捻って屈み、右肘で剣先の鞘を叩いて上下を反転させる。一回転しながら刀を抜き、男の剣にぶつけた。


「お前! 強いな!」

「まだまだ未熟!」 

「片手で俺と戦ってる時点で異常だっての!」


 いや、片手で身体能力を上げなければ――ん?

 そうか。別に、水遁を解除しても、直ぐ血流が消える訳では無いな。刹那に賭けるか。


「往くぞ!」

「あ?」


 俺は刀を離し、足で蹴り上げる。男が顔に回転しながら迫る切っ先を躱している最中、両の手で印を作った。


「水遁」


 鎧の腹で、一際ひときわ薄い部分に拳を打ち込む。


「ぐはっ!」


 狙うは内腑。両手で印を作ったのには理由が有る。片手でおのが身体を、片手は拳に乗せ、鎧を通し相手の内臓にダメージを与える為だ。


「おおおおおお!」


 一発、二発、寸分違わず同じ部分に拳を打ち込む。


「おおおおおおおおおおおおお!」


 そのまま両手で二十発、一瞬で男の腹を凹ませた。鎧は裂け、男が吹き飛ぶ。


「ちょっと! 兄さん大丈夫!?」

「――え?」


 ルーシーが、倒れた男に駆け寄る。


「いや、ははは。強いな、お前。ホントにEランクなのか?」


 男が半身を起こし、豪快に笑った。流石お兄さん、鍛え方が違いますね。


「いえ、それより、兄さん?」


 クロエさんも驚きながら近付いて来た。


「あー、そうよ。ウチは六男二女の大家族なの」


 ルーシーはバツが悪そうに言う。


「じゃあ、色んな男って――」

「ルーシーほどの美人なら、他にも働く方法はあるだろ? 兄ちゃんや弟達としては、家族を危険な目に合わせたくなくてな」

「じゃあ、勇者パーティって」

「なに! 勇者パーティだと! 魔王と戦うなんて、お兄ちゃん認めないぞ!」

「子供8人に両親、両祖父母、14人家族なのよ」

「無視するな!」

「生活の為でしたかぁ。言ってくだされば、ギルドとしても、なんらかのお手伝いを……」

「言える訳ないじゃない。ギルドにも一人いるのよ? 居場所バレちゃうでしょ」

「なかなか居場所が掴めないから、兄ちゃんも放浪するしか無くてな」


 何だ、只のニートじゃなかったのか。


「お兄ちゃんは戦いたいだけでしょ」


 お前もう帰れよ。


「ま、まあ鎧も買い直さなくちゃならんしな! もう少し旅を続けるよ」

「――で?」

「なんだ?」

「はぐらかさないで! この人は合格なの?」

「う、ぐ、ご、合格」

「やった!」

「え、別にパーティを組むと言ったつもりは」

「そうですよ! あなたのパーティ試験が、まだ終わってません!」

「なによパーティ試験って! 聞いたことないわよ!」


 ルーシーとクロエさんを苦笑いで見ながら、俺は拳を撫でた。血は出てないが、青く変色している。内出血してるな。まだまだ修行が必要だ。


「シンさん。手は大丈夫ですか?」

「ええ」


 クロエさんが気付いて手を取る。


「治しますね」 

「え? 治せるんですか?」

「ええ。冒険者のお役に立てるよう、回復魔法を少しだけ」


 俺は、そんな相手に気功を使ったのか。自分が恥ずかしい。


「私、自分を治すのは下手なんですよ」


 気持ちを察してか、クロエさんが優しく微笑んだ。


「ほら、お兄さんも治しますから」

「なんと! 君は聖女か!」

「そうだ」

「シンさん!?」






「――え? あの聖女、受付嬢だったの?」


 再び、邪神が目をつぶらかにする。


しかり」

「出たよ、しかり。そっちだって何度目の『しかり』なのさ」

真似まぬるな」

「はいはい」

「――『召喚者』とは、如何いかなる者か?」

「読んで字のごとし、だよ。こちら側で『勇者』たる者の数が足りなければ、『世界神』に召喚されるのさ」

「世界の神とは、神をべる者か?」

「いや、世界のバランスを調整してる人かな。最高神は別にいるよ。で、召喚された者が見つかったら、国に報告される。手厚く教育を受けて、魔王討伐の一人になるのさ」

「討伐の後は還れるのか?」

「元の世界に? 当たり前さ。元の世界、元の時間に、元のままで戻れるよ。召喚された勇者は普通死なない。魔王が死ななくても倒せるように、勇者の数とレベルが調整されるのさ。例え死んだとしても、元の世界に還るだけ」

「芝居なり」

「そう、これは出来レースさ。勇者と魔王はシステムなんだ。人々が争わないための、ね。でも、今の魔王には死んで欲しくない。せっかく生み出した娘なんだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ