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優しい世界の歩きかた  作者: 狐面
深淵にて
18/41

悪魔を憐れむ歌

「まったく、なにが『加護』だよ。ただ取り憑いているだけじゃないか。それで? 魂と人格の定着は済んだかい?」

「お、おれは――」

「びっくりしたよ。魔王だった僕を倒した時、勇者が自殺するんだもん。あれ、僕に取り憑こうとしたんだよね? 何かおかしいと思った。僕は憑依も経験者だったから気付けた。こいつに、何か取り憑いてるってね。だからお前を見つけられるように、とっさに世界中に『カルマ』をばら撒いた。神々も君に気付いて、僕を急遽『神』へと引っ張り上げた。だから君は、魔王城に潜入していた暗殺者に、やむなく取り憑いたんだろう? で、その子だ。君も驚いただろう? 目の前に『伝心ゾーイ』を持つ子が現れるなんて。正直、僕らも驚いたよ。でも、反応はまったくの逆だ。君は、『伝心ゾーイ』があれば、今度こそ魔王に取り憑けるなんて喜んだだろう。しかも、僕がダメだった時のために、自分が仕組んで、高レベルにした魔王にだ。だから、その子を育てた。だが、僕らは違った。『伝心ゾーイ』があれば、君をその魂に縛り付けられるんじゃないだろうか、って思った。時間を稼がせてもらったよ。結果は予想通りだ。君の魂は、その子と結びついてしまった。もう、他の人に転生できないよ? その子が死んだら、君は死ぬ。まったく、自分から肉体を捨てたんだ。さっさと死んでおけば良かったものを。欲を出すからだよ」 

おれは――」

「なんだい? もう自我も取り戻しただろう? 言い訳があれば聞こうか?」

「ちがう!」

「ちがわないよ。『スキルの神』が、どうして神になれたと思う? 『邪神の加護』って、スキルを設定したからだよ。ようするに、君を見つける方法を創ったからだ。まあ、師匠は君に敬意を払って『加護』って名付けたけどね。『加護』って言葉もおぞましい。ただの呪いだろうが。自分が死んだ時、邪神の魂を他の者に憑依させるなんて」

「貴様!」

「やっと本性が出たか。残念だったね。その子の師匠が死ぬ時、魔王が来たのは嬉しかったでしょ? バーカ。行かせたんだよ。勇者が近くにいるんだ。魔王が人払いをしなきゃ、その子だけにならないだろうが。魔王には、あらかじめ『スキルの神』が、『純潔たかねのはな』を付けておいたよ。可愛い娘の魂を、君の魂で汚す訳にはいかないからね」

「ぐ――ぐぐ――」

「さて、青年。そろそろ起きたでしょ? 出てきてよ。君には、僕の『加護』を付けさせてもらったって言ったよね? 邪神を跳ねのけた僕の加護――それは、『任意に邪神の人格を封じ込めることができる』だ」


 ゆっくりと、俺の心が浮かんでいくのを感じる。

 俺は目を閉じて、再び開けた。


「大丈夫?」


 周囲が明るい。何も無い空間に、俺と神が座っている。


「ごめんね。君の中に邪神を封じ込めちゃった」


 口調は軽いが、神が深々と頭を下げた。


「頭を上げて下さい。師匠が文字通り己の中で生きているのなら、こんなに頼もしい事は有りません」


 俺が言うと、上目遣いで顔を見た神が、大袈裟おおげさな身振りで胸を撫で下ろす。


「良かった。君がそんな人だから、僕らも動きやすかったんだ。ただ、充分気を付けてくれよ? 相手は人格になりさがったとは言え、神だからね」

「こらあー!」

「げ」


 俺達が見つめ合っていると、手を上げた女性が、何処どこからか現れた。

 果ても見えない空間だぞ。本当に何処から入って来たんだ?


「師匠!」

「またみんなを困らせて!」


 殴る振りをする女性に、神は両手で頭を覆う。

 

「師匠? では、このお方が――」

「スキルの神だよ」

「そうです。えっへん」


 少し幼さを残した女神が、可愛らしく胸を張る。見目麗しい。


「あー、この人に騙されちゃダメだよ。人の頃から年齢不詳だったんだから」

「殴るよ!」

「ひえー」


 夫婦漫才を繰り広げる二人に、俺は微笑んだ。


「さて、シンくん? で、いいのかな? 君のこれからの道は、大変なものとなるでしょう。そこで、わたし『スキルの神』が、君に『勇者』スキルを授けてあげます」


 女神が快活な笑顔で俺を見る。


「え? 良いのですか?」

「いいのです。他の神さまにも許可をいただいてきました」


 彼女は、座る俺の頭に手をかざす。


「きらりーん! シンは『勇者』を手にいれた! たまっていた経験値が加算されます。レベル100を突破しました。スキルがランクアップします。『跳梁跋扈ワン・プラス・ワン』が『超越跋扈キングダム』に変化します。『伝心ゾーイ』が『伝承クローム』に変化しました。えー、その他もろもろ、変化します」


 あ、端折はしょった。


「ちょっと? 師匠? ちゃんと説明してあげなさいよ」

「なに言ってるんですか。これからの道は、君のフォローでしょう? 君が――」

「僕の『カルマ』は、元々師匠の尻拭しりぬぐいです」

「お尻だなんて、はしたない!」

「なに猫かぶってるんですか。このロリバ――」

「あとでお話があります」

「すいませんでした」


 この二人、師弟と言うより夫婦に見えるな。


「あー、そういうの止めてね」

「まったくです」


 神が揃って俺を見る。


「あ、そうでした。テレパシー持ってるんでしたね」

「変わったみたいだよ? 後で確認してね」

「はい」

「さて、君にはもう一つ。旅の仲間を与えよう」


 男神が手を挙げると、今度は黒い鎧が入って来た。


「ノワール!」

「シンさん!」


 互いに駆け寄って手を握る。


「無事だったか!」

「シンさんこそ!」

「彼女は魔王軍に拾われてね。幹部まで上り詰めてた」


 流石『暗黒騎士』だ。強さは折り紙付きだし、魔王軍でも一目置かれただろう。


「取りあえず二人旅――他のメンバーも無事だけど、合流するかは任せるよ」

「有難う御座います」


 本当に、無事で良かった。


「ノワールさん、だっけ? 仲間を悪く思わないでくれ。勇者パーティは、行軍にけっこう切羽詰せっぱつまってたし、彼は人格を乗っ取られていたんだ」

「俺が弱かった所為せいだ。申し訳無かった」

「いいの。大丈夫。魔王さん、優しくしてくれてたし」

「魔王が?」

「ほらぁ! あの子、良い娘なんだよ!」

「親バカもたいがいにしなさい」


 急にテンションが上がった男神を、横の女神がたしなめた。確かに目は優しかった、ような? 良く覚えとらん。


「じゃあ、ぼちぼち外に送るよ。気を付けてね」


 神が手を挙げる。


「感謝します。神様にこう言うのも可笑しいんでしょうが――」

「なに?」

「お二人も、息災で」


 俺が言うと、二人の神が目を合わせた。


「あっはっは!」

「ぷっくく」

「いや、本当に変な事を――」

「いやいや、大丈夫。気持ちは伝わったよ。ありがとう」

「君たちも元気でね」


 何となく、俺とノワールは手を繋いだ。

 白かった視界が、更に白く消えていく。


「その旅路に、幸多からんことを」

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