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優しい世界の歩きかた  作者: 狐面
深淵にて
17/41

潰える心

「戻ったぞ」

「遅えよ、このグズ」


 魔王城から少し離れたキャンプに戻った俺を出迎えたのは、リアムの罵声だった。


「収穫は?」


 冷ややかな目でマリアが言う。


「残るはわずかなり」

「まだなの?」


 マリアの横で、吐き捨てるようにルーシーが呟く。クロエも居るが、彼女に至っては俺を無視している。


「もう夕方よ。食事の準備しなさいよ」

「知らえぬ」

「じゃあ、さっさと始めなさい」

「応」


 力無く呟き、食事の支度を始める。

 俺のレベルは、99で頭打ちと成ってしまった。対して、パーティの仲間は目に見えて強く成った。マリアは言わずもがな、兄妹は鋭い剣技と強大な魔法、クロエも支援と回復に多大な貢献をした。

 付いて回るのに、俺は罠の解除、探索と暗殺、魔物の駆除、各員の回避補助、身代わり、敵の注意を引く行動、荷物持ち、夜の見張り、家事、健康管理を行っている。現在は魔王城に潜入し、実に一月近くを費やして地図の作成中だ。


「遅い」

かたじけなし」


 魔族との激戦の最中、ノワールの行方が解らなくなった。その頃から、皆は無能な俺をさげすむようにっていた。


「何よ、文句でもあるの?」


 在るはずが無い。皆、俺の仇に手伝ってくれているのだ。足を引っ張る自覚こそあれ、皆に不満など無い。

 

「おら、酒つげよ」

「ああ」


 夕食後、リアムの晩酌の相手をする俺から、無言でクロエが瓶を取った。珍しい。彼女は自らも酒を注ぎ、俺へと戻す。その時、少しだけ手が触れた。 


「なんだ、どうしたウスノロ」

「い、いや」


 言葉を何とか返したが、俺は激しく動揺していた。

 嗚呼、この者らは、何と良き同胞はらからなのだろう。

 俺に辛く当たっていたのは、本心では無かった。

 俺が必死に食らい付き、旅を続けているのだと理解している。

 俺が旅に無くてはならない存在だと、ちゃんと想ってくれている。

 だからこそ。だからこそ。

 このままでは、この仲間が壊れてしまうと危惧している。ノワールを失ってから、独り能力の低い俺をかんがみ、これから起こりくる激戦から、俺を死なすまいと、遠ざけようとしているのだ。復讐にかれた俺は説得を聞くまいと、後顧こうこの憂いを抱かぬよう、皆で口裏を合わせ、自ら抜けるように仕向けていたのだ。

 何故かは解らない。解らないが、そんな気がした。

 決して俺の願望では無い。決して幻想では無い。俺と彼等の間には、そう信じて疑わない絆が、確かに存在している。

 しからば、俺の成すべき事は一つ。

 

「皆、そろそろ眠かろう? 今夜もおれが見ておくから、ゆるりと休め」 


 皆が寝静まった後で、俺は揺らめく火を見詰めていた。

 兄妹とクロエはテントに、マリアは横で毛布にくるまっている。

 俺は、マリアの顔を見た。

 安心した顔で、静かに寝息を立てている。火の色は、何処どこと無く出会った時の血の色を思い起こさせた。彼女は変わらず美しい。

 マリア、俺と友になってくれてありがとう。俺を強くしてくれてありがとう。

 クロエ、ギルドの右も左も解らなかった俺に、親切にしてくれてありがとう。命も救ってくれたな。これからも、その力を世に役立ててくれると嬉しい。

 リアム、お前とは共に男で、朝まで酒を酌み交わした事も有ったな。またいつか、馬鹿騒ぎをしたいものだ。

 ルーシー、家族を想う心を、俺にも向けてくれてありがとう。婚期が遅れていると嘆いていたな。お前なら、きっと良い相手が見つかるだろう。

 ノワール、はぐれてしまったが、お前程の実力者だ。きっと無事で居てくれていると信じている。叶うならば、お前を探す旅をしたい。

 懐から今までの地図を取り出し、そっとマリアの横に置いた。そして、一つだけ、魔王城の内部の地図を、燃える火にくべた。記録と罠の解除係が居なくなり、地図も無ければ、勇者らは撤退を余儀なくされるだろう。

 俺は、ゆっくりと立ち上がる。


「皆――達者でな」


 独り魔王城の前に立つ。

 初めて正面に立つ俺に、門番と思わしき魔族が近寄って来る。


「誰だ、お前? 一人でノコノコと、殺されに来たか?」


 口の端を持ち上げて冷笑せせらわらう。

 対する俺も、顔を上げ、胸を張り、力の限り吠えた。 


「笑止!うぬらがごとき魔なぞ!有象無象うぞうむぞうが畜生と共に!おれと共に!地に沈むのが御似合いよ!」


 両腕を前に突き出し、手を広げる。俺の全てが、世界に届くように。


「技能顕現」


 もう、己以外の全てが、何も失わないように。


「――跳梁跋扈ちょうりょうばっこ


 そして、俺の意識は途絶えた。






「――事実、君以外は『勇者』だったから、仕方ないよ」


 目の前の神が言う。 


まことか?」

「そうさ」

おれの意味は無かったか」

「いや――君は、立派に『勇者たち』の橋渡しをしたじゃないか」

「ふん。さあ、終えたぞ。往こうではないか」

「待ちなよ。最後に一つ質問だ。君の師匠は、先代の魔王を倒したんだよね? どうして『暗殺者』と呼ばれているんだい? どうして『勇者』と呼ばれていないと思う?」

「今はべちなりし者が居るからであろう?」

「違うよ。君の師匠は勇者であって、勇者じゃないんだ」

おぼめかしい」

「シンプルに言おう。君の師匠は勇者だった。けれど、その時は別人だったんだ」

「お、れは」

「ステータスの『3ページ目』を見てみなよ」


 俺は、眼前に出した膜に触れる。


「ちゃんとあるだろう? 『試練の神の加護』が」

「あ? ああ?」

「最後のピースはまったかい? じゃあ、いい加減、その青年を表に出してあげなよ。バレてないと思ったのかい? 目覚めた時から『カルマ』が真っ黒なんだよ、この邪神が」

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