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優しい世界の歩きかた  作者: 狐面
深淵にて
14/41

誕生日

 マリアとの闘いから大凡おおよそ二週間が経過し、俺は村を訪れていた。


「お前、そろそろ勇者の責務はどうした?」

「休暇よ、休暇」

「それは前も聞いたが、長くないか?」

「大丈夫よ。最近は、ギルドを通して近場の処理してるし」


 そう、俺の横にはマリアが歩いている。なびく金色の髪から、美しい笑顔が見えた。鎧は胸と肩、足を包んでいるのみで、履いたスカートからは二ーソックスに包まれた脚線美を見せている。まさに『今どきの勇者』といったコーディネートだが、彼女も年頃だ。戦乙女たるファッションも気になるのだろう。

 などと考えていると、当のマリアが前に立って、俺の顔を覗き込んだ。


「何だ?」

「ん、別に。なーんかジジ臭いこと考えてるんじゃないかと思ってね」


 失礼な奴だ。そんなに言うなら、俺も年相応の事を考えてやろう。

 マリアの全身を見る。うむ。 


「お前は変わらんな」

「なっ! ちょっと、今どこ見て言ったのよ!」


 頭に拳骨がめり込み、俺は地面に叩き付けられた。


「何をする」

「アンタが何してんのよ!」


 やれやれ。成長したのかもしれんが、まだまだ筋肉が足りんと思っただけなのだが。矢張やはり健全に鍛えられんと、内に秘める心も成長せんのか。


「――なんか殺意が湧いてくるわ」

「迷惑千万」


 今日は初の休日だ。昨日、世間話をしていたら誕生日の話になり、「いつ?」と聞かれたから、「知らん」と答えたら、皆に「じゃあ、明日にしてお祝いしよう」と言われ、今に至っている。

 言われてみれば、俺はぼちぼち十九に成っただろうか。この世界に来てから日々が濃密過ぎて、誕生日などかえりみる暇が無かった。まあ、聞かれたところで正確な日付も判らんのだが。


「マリア」

「なに?」

「お前の誕生日は過ぎてしまったが、何が欲しいんだ?」

「――え」


 彼女が固まる。正直、俺には女性の好みなど解らん。面と向かって聞くのが一番だ。


「無いのか?」

「どうしてそうなるのよ!」

「じゃあ何だ?」

「あー、でも、アンタには『眼』もらったしなあ」


 彼女は自分の眼を指差す。マリアの眼は、片側があおく、片側がみどりへと変わっていた。

 元々は両目が蒼かったのだが、闘いにおいて『水遁』を撃ち込んだ折、防御魔法が瞳に定着し、『魔眼』へと変質したらしい。以降、彼女には常に防御魔法が張られている状態と成ってしまった。しかし、攻撃されて成長するとは、『勇者』と言うのはどれだけ際限が無いのだ。俺は襤褸雑巾ぼろぞうきんと果てるだけだと言うのに。少し分けて欲しい。


「うーん。もう名前で呼んでくれてるしなあ」


 再び歩き出す。


「友ならば当然だろう」


 マリアの耳が赤く染まる。どうした。今日は一段と起伏が激しいな。

 『友人になる』と決めてから、まず改善したのは呼び名だった。どうやら、マリアは『勇者』と呼ばれる事がほとんどで、余り名前で呼ばれてこなかったらしい。


「それより! アンタは決めたの?」

「――何が?」

「プレゼントの話してたでしょうが!」


 振りかぶる腕を両手で押さえ、俺は逡巡する。


苦無くないが欲しい」

「武器はナシよ」

「何故だ? 俺はお前に貴重な二本を砕かれて、補充したいのだ」

「乙女が『砕いた』とか吹聴するな!」

「事実だ」

「もう! でも、実際無理なのよ。アンタの苦無も刀も、たぶんオリハルコンだろうし」

「オリハルコン?」

「最高峰の鉱石よ。アタシの鎧とか、剣にも使われてる。アンタの師匠に聞いてみたら、『青生生魂アポイタカラ』って言ってたから間違いない。たしか東方の呼び名だもん」

「そうか」


 『青生生魂アポイタカラ』は聞き覚えが有るな。オリハルコンもゲームで見た気がする。


「加工だって、この村じゃ無理よ。生産してる東方に行くか、ドワーフじゃないと」

「ドワーフ? 居るのか?」

「いるわよ! アンタ、ホント知らないのね」

「俺は無知だ」

「自分で言うな!」

「俺は無知だが、これだけは言える」

「なによ!」

「マリアが騒がしい」

「きー!」 

「ゴリア」

「――殺す」

「冗談だ。で、プレゼントだが」

「アンタが死んだ後で聞いてやるわ」

「死んだら言えん」

「だからなんなのよ!」

「これをやる」

「は?」


 俺は懐から首飾りを出し、マリアに渡した。


「え、あ、これ、え? いつ?」

「落ち着け」

「え? でも、あれ? え? え?」

「落ち着けと言っている。お前を宿に迎えに行く前に買っておいた。いきなり聞かれても答えられんだろうと思ってな」

「じゃあ聞くなよ! ムダに困っちゃったじゃん!」

「要らんのか?」

「アンタ会話できないの!? そんなこと言ってないじゃない!」


 手を差し出すと、マリアは庇うように胸に押し付ける。


「タリスマンのお守りらしい。戦闘に役立つかもしれんし、邪魔にもならんだろうとな。安物だから、他に欲しい物が有れば言ってくれ」

「そう」


 俺の言葉をろくに聞いてない様子で、彼女はお守りを日にかざしている。そして向き直り、恥ずかしそうにうつむいた。


「あ、ありがとう」

「いや、安物だから気にするな」

「そんな意味じゃなくてね。で、アンタは? なにが欲しいの?」

「俺は――」


 今度は、俺が空を見詰めて首を傾げる。


「要らんな」

「えー」

「いや、真面目にな。こうして休暇を取れたし、皆が祝ってくれるなら、それで十分だ。誕生日として特別な価値を貰った」


 休みなど要らんと思っていたが、いざ『何もしない』となると、それはそれで良いものだと思えてきたのだ。


「そっか」


 マリアが、ふっと口の端を持ち上げた。良かった。首飾りは気に入ってくれたようだ。


「これ、どこで売ってたの?」

「向こうの小物屋だ」

「そう。ねえ、買い出しはアタシが済ませて行くから、先に帰っててよ」

「女一人に荷物は持たせられん」

「いいから!」

「そもそも、それでは俺は、お前を起こしに来ただけでは無いか」

「は? 起きてたってば! むしろ早起きしたっての! 人をお寝坊さんみたいに言わないでよ! いいから! 先帰ってて!」

「何故だ?」

「いいから帰れ!」


 仕方無く村を出る。

 確かルーシーとリアムは、夕方にクロエさんとケーキを持って来てくれるんだったな。手作りすると息巻いていたが、世界の聖女に迷惑を掛けていないだろうか。


 ――これは、何だ?


 森に入ると、異様な空気が渦巻いていた。

 獣も、風も、木や草も、何も動いていない。何も無い、居ないとしか思えない程、ただ只管ひたすら、静寂に包まれている。いや、包まれているという言葉すら烏滸おこがましい。これは静止だ。森の中に何か居て、全てが動けず、じっと固唾かたずを呑んでいる。

 師匠は無事か! 

 俺は駆けた。木を避け、草を掻き分け、自分でも信じられないスピードで駆けた。


「師匠!」


 師匠は家の前に居た。

 家の前で、血溜まりに沈んでいた。


「ししょお!」


 その横に、見知らぬ女が立って居る。


「きさまぁぁぁぁ!」






「――まさか、誕生日に魔王が来るなんてね」


 神は、何処どこ居心地いごこち悪そうに目を伏せた。


「吐いてみよ。魔の王とは如何いかなる者か」

「ああ。魔王は、魔族が生まれた時から設定された、文字通り『魔族の王』だよ。『勇者』はスキルだけど、『魔王』は神が創る。人に対するアンチ・アイコンだ」

れど、勇者も古よりったぞ」

「あー、そうだね。魔王を倒すのが、勇者なのは変わらない。『スキル』に変わったのは最近さ。魔王に対抗する者が手を挙げなくても、魔族と拮抗できるよう、それなりのスキルに『スキルの神』が設定したんだ。『勇者』の特性は、レベル上限突破、ステータスの倍化、そして素質を持つ者が集まること」

「集まる?」

「『勇者』のレベル上限は、『魔王』のレベルを人数で割った数になる。だから、『勇者』は『集まる』までスキルに設定されているんだ。そうすれば、実力伯仲して拮抗状態が続くだろう? もちろん、誤差はあるけどね。それが『倒す』か『倒される』かの違いさ」

うぬらは、何処どこまで人でたわるのだ」

「でも、君の師匠は、それなのに、単独で魔王を倒したよね?」

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