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優しい世界の歩きかた  作者: 狐面
深淵にて
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からさわぎ

 ルーシーとパーティを組んで、更に三月が経過した。


「ひいぃぃぃ! こ、来ないで! ファイアーボール!」

「無傷だな」

「ファイヤーボール!」


 俺達は洞窟に来ていた。

 

「きゃあああああ!」


 先程からルーシーが騒いでいるのは、巨大な百足ムカデを相手にしているからだ。

 大きさは人を超え、赤黒く不気味な色、そして思わず怖気おぞけを誘う、無数の細い足。『武者百足』という、何とも呼びにくい名前のこの生き物は、特に女性冒険者から嫌われている。明らかに見た目からの迫害である。自分の容姿を考え、俺は少し哀しくなった。


「だから! 火を出してるでしょうがぁ!」

「火は効かんと説明したはずだが?」


 背中の部分はとても頑強で、鉄の刃は通らず、大きな個体は魔法も防いでしまう。それを知っているのか、この魔物は弱点の腹を見せようとしない。

 何故、俺達がそんな魔物に対峙しているかと言えば、その甲羅のような皮が欲しいからだ。この百足の皮は売れる。軽く、丸みをびているので防具に最適なのだ。素材として売るのもそうだが、俺は勇者との戦いに備え、額当てと手甲を手に入れようとしていた。そして――


「ルーシー、お兄ちゃんに任せとけ!」


 こいつの為である。一向に鎧を買おうとせず、俺と師匠の家に転がり込んだニート。ルーシーはルーシーで、宿に泊まらず、ごく自然にクロエさんと一緒に帰り、そのまま居候いそうろうし始めた。『宿泊費すら家族の為に浮かせたい!』と、涙ながらに訴えたらしい。三か月付き合った今なら判る。泣き叫ぶ瞳は渇いていただろう、と。誰か、この兄弟どうにかしろ。


「うお! 剣が効かねえ!」

「鉄も通らんと言ったろうが!」


 兄の装備は鉄剣だ。鎧は剣技の為に薄く造ってあると思ったが、何の事は無い、金が無くて見てくれを整えただけだった。腕が泣くぞ、ちゃんと鎧を買えと言ったら、食って飲んだら金が消えるそうだ。あまつさえ「草って、意外と食えるんだぜ」と言い出す始末。親が見たら泣くぞと言えば、「親も草食ってた」と返した。雑草では無いと信じたい。


「なんでアタシにばっかり寄ってくんのよ!」


 懐かれてるんじゃないか?

 そう見ると、何となくルーシーに擦り寄っているかのようだ。今だって、顔を寄せて口を必死に動かし、自分に害は無いと訴えているように見えなくも無い。まあ、眼前で虫がカシャカシャ口を動かしたら、余り良い気分では無いだろうが。


「いやー!」


 矢張やはり駄目だったようだ。

 見た目から誤解され易いのだが、この百足は人を食べない。正確には、生きた人を、だ。あごが余りにも発達しておらず、人の皮膚を貫けない。食べるのは腐肉、植物、小さな虫――要するに洞窟の掃除屋なのだ。


「シン!」 

「シンーなんとかしてー」


 やれやれ。

 俺は背から刀を降ろし、地面に置いた。鞘の先を蹴って、刀だけ百足の腹に滑りこませる。


「金遁」


 腹の下で刀が縦横無尽に回転し、瞬く間に大きな体が肉塊と化す。俺はこの三か月で、やっと刀を操れるようになっていた。それでも腕の延長である、自身の刀だけだ。これは気を通し慣れていて、イメージもし易いからだろう。


「きゃあああああ!」

「ぎゃあああああ!」


 兄妹が虫のシャワーを浴びて叫んでいる。騒がしい二人組だ。


「水遁」


 体液を身体から剥がしてやった。


「はー、心が死ぬかと思った」

「なに! 大丈夫かルーシー!」

「お兄さん」

「貴様のような弟を持った覚えはない!」

「いやいや、剣技ちゃんと使えば良かったんじゃないですか?」


 兄は『剣技』と呼ばれるスキルを持っているらしい。らしい、と言うのは未だ見た事が無いからである。


「鉄剣じゃもたねえよ」


 じゃあ買えよ。お前の金は何処に消えていくんだ。


「まだ少し狩って行きましょう。お金稼ぎたいんでしょ?」

「「えー」」


 お前ら……。

 

 巨大な百足数匹を担いで戻ったら、出迎えたクロエさんが卒倒した。






「――兄って、名前で呼んであげなさいよ」


 目の前の神が溜息を吐いた。


の頃は名を知らん」

「ひどっ! お兄さん悲しむよ?」

あたかも妹がるような口振りよ」

「妹? いたよ?」

まことか?」

「戦争で死んだけど」

「む」

「いや、気にしなくていいよ。だから戦争は嫌いなんだ。特に、同族で殺し合うなんて馬鹿だよね」

「むむ」

「ああ、ごめん。地雷踏んだかな? 君の過去を、とやかく言いたかった訳じゃないんだ。僕の過去だよ。僕が愚かだっただけさ。だから、さ。僕は世界を呪ったんだ」

空言そらごとか」

「いや、本当に。だから神になった。僕は『魔王』の時に、世界に呪いをばらまいた。目に見えず、ただ確かに、身を滅ぼす呪い――『カルマ』をね」

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