地下牢に囚われる①
目の前のこの細い男は、私を地下牢へ連れていってどうするつもりなのだろう?
怪我の手当ては?
友人への連絡は?
カルト教団のような組織に捕まってしまったのだろうか。
一連の出来事を振り返っても、何をどう解釈すれば良いのか分からない。しかし私にとって非常に不利な状況に陥っているということだけは分かる。
しかもエスカレーターに打ち付けたのは、頭だけではなかったらしい。膝やら腰やらあちこち痛んで、逃げたいと思うのに体が動かない。
どちらにしても黒ローブは二人とも大きくて強そうだし、頭から流血している私がどんなに頑張って走ったところで逃げ切れるはずもないだろう。
――この人たちはきっと、テーマパークのスタッフではない。
なぜ私は人気のない場所に倒れていたのか。
最初に出会った男はなぜ私を見て怯え、黒ローブたちを呼びに行ったのか。
私に口にナッツを押し込んだあのリスもどきは一体――。
ぐるぐるぐるぐる。
疑問が浮かんでは、回答を得ないまま頭の中を回り続けている。
★
抱えられたまま連れていかれた場所は、絵に描いたような地下牢だった。
石を積み重ねて造られた通路は湿っぽくてかび臭く、寒い。
ところどころに置かれたランタンの明かりが、揺れながら怪しく辺りを照らし出していた。
何となく、漂う空気はカタコンベに似ている。
――生の終わりの匂い。死者の空間。
「ひどい怪我をされているようですね。後で治療師をよこします……と言いたいところですが、あなたを人目にさらすわけにはいきませんからね。薬で我慢してください」
呆然と周囲に目を走らせている私に、長老と呼ばれた青年が声をかけてきた。
(治療師? 医者とか看護師じゃなくて、治療師? しかも診てもらえないなんて……。それになんの薬? 頭の怪我なんだから、怪しい民間療法は勘弁してほしいんだけど)
やはり、この人たちはカルト集団なのだろう。
ということは、生贄にされたりするのだろうか。ベッドに括り付けられてナイフで刺されたり、逆十字架に張り付けられて喉を切られたりするのだろうか。
ホラーやサスペンス映画などで観た映像が、頭の中で再現された。あれは創作だと分かっていても、現実でも同様の、またはもっとひどいことが起こっている。
大学で企画した卒業旅行なら、個人旅行よりは安全かと思っていたのに。
(やっぱり、立志さんと一緒にバリに行けば良かった)
そしたら今頃は、ビーチでのんびり横たわっていたかもしれない。もしくはエステを受けていたかも。
現実逃避でバリのビーチで恋人と抱き合う自分を想像していたら、ガチャリと鉄の音がした。そして、暗い部屋へと連れ込まれる。
シングル以下と思われる幅の古いベッドに横たえられ、白ローブと三人の黒ローブに見下ろされた。茶ローブはいつの間にかいなくなっている。
「怪我をしているから逃げ出すことなどできないかとは思いますが、念のため、足枷を付けます」
白ローブは私に淡々とそう告げた後、黒ローブに合図を送った。
すると一人が壁際に置いてあった黒っぽい鉄の輪を取り上げ、私の足首をつかんだ。
「なっ…なにするんですか!」
足だけなら何とか動かせる。必死に黒ローブの手から逃れようとばたつかせたが、もう一人にがっしりと膝を押さえつけられ、あっけなく冷たい鉄が足首に触れた。
ガチャン、ガチャンと音がして、両足首に鉄の輪がはめられる。
「いや! 何してるの! 私はただの旅行者なのになんでこんなことしてるの。身代金目当て? お金なら払います。
足りない分は婚約者が立て替えてくれると思うしだからお願い、逃がして。病院に連れていって。CTで確認したいし――」
恐怖のあまり、錯乱状態になっていたと思う。思いつく言葉を次々に投げつけていたら、黒ローブに口を押さえつけられた。
「あなたは外の世界に出すわけにはいきません。人々の目を欺き、厄災をもたらす女なのだから」
白ローブは訳の分からないことを言いながら、ハンカチのような生成の布を黒ローブに渡した。黒ローブはその布を私の鼻に押し付ける。
口を抑えられているし、布で鼻が覆われれば呼吸が苦しくなる。思い切り吸い込んでしまった。
吸入麻酔のようなものだろうか。呼吸するにつれて、だんだん視界がぼやけていき――