捕まる②
生まれて初めて投げられた、ブスという言葉。
物心ついたときからずっと綺麗だと言われ続けた私にとって、まさに青天の霹靂だった。
聞き間違いに違いないと思ったが、再びその言葉がまっすぐ私に向かって放たれる。
「くっそ重いな、このブスは」
確実に私に向けられたものだと分かって衝撃を受けたし、頭も割れるように痛い。目頭が熱くなり、頬を涙が伝う。
身長は高いが、私は細身なほうだ。それほど重くはないはずなのに。
「まったく。泣きたいのはこっちだよ。災いを運ぶかもしれないって女を運ばなくてはならないんだから」
――災いって、何のことだろう。
災いの元は、私を突き飛ばしたあの女なのに。私は何も悪いことはしていない。しかもけが人だというのに、どうしてこんな扱いを受けているのか。
再び空を見上げる。
嫌味なほどに、美しい青。
飛んでいる鳥が、まるで染みのように見えた。
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荷車にはクッションと毛布が置いてあり、私はその上に横たえられた。三人の男は一様に、私を汚物を見るかのような目で見ている。
(なんでそんな目で見るの? これでもミスコンで優勝したし、モデルのバイトもしていたのに。なのに、なんでまるで汚いものを見るような目で――)
海外だからという訳ではないと思う。実際、アメリカに来てからも何度もナンパされている。
牛が動き始め、荷車がガタゴト揺れた。
ゴンゴンと痛む頭の中に、なぜかドナドナの曲が流れ始める。
この荷車は今からきっと、救護センターに向かうはず。長老という役職は、救護センター長とかそんな感じの人をテーマパーク風にそう呼んでいるだけなのだろう。
膨れ上がる不安を少しでも落ち着かせたくて、横たわったまま動けずにいる私はそう思い込もうと努力していた。
しかし街並みが見えてくると、どんなに努力してもテーマパーク内にいるとは思えなくなっていた。
テーマパーク用に作られたというより、地元の人々の生活感そのものが溢れている。
アメリカのロスというよりは、以前訪れたイタリアの小さな都市、いまだルネッサンス期の面影を残しているコリナルドに雰囲気が似ているような気がした。
「目立たない道を行くぞ」
「承知した」
ずっと無言だった黒ローブが、そんな会話を交わしている。
しばらくすると人々のざわめきは消え、牛車の音と、鳥の声しか聞こえなくなった。周囲に人の気配もない。
そのままどれだけ移動したのか。ほんのりピンクがかったベージュの大きな建物の前で牛を留め、再び黒ローブの男に抱え上げられて中へと運ばれた。内観は荘厳な雰囲気が漂っている。白とベージュの漆喰の壁、同じく白とベージュで統一された家具には金の模様が施されている。
教会かな――と周囲に視線を走らせていると、黒ローブの一人が大声を上げた。
「黒の騎士団より、長老へ。かの女を連れてまいりました」
声が反響して、本来のものより大きく聞こえる。思わず耳をふさぐと、私を抱えていた男が不機嫌な目で見下ろした。
薄い茶色の目。茶色の髪。たらこ唇に太い眉。
どう見ても不細工な部類に入るこの男に、どうしてブスと言われたのか理解しかねる。
睨み返していたら、凛とした声が響いた。
「その女か」
どこから現れたのか、ひな壇のようなところに若い男が立っていた。プラチナブロンドの髪に、色白な肌。こちらは白いローブをまとっている。
長老という割には、若すぎるような気もする。が、確か長老という役職もあった気がするし、そういうものなのかもしれない。
黒ローブと茶ローブの四人が一斉に頷くと、白ローブは無表情に淡々と告げた。
「その女を、地下牢へ」
――地下牢……って言った? 病室じゃなくて?