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捕まる①

 その人影が近づくにしたがって、アトラクションのスタッフらしき服装をしていることに気づき、ホッとする。


 やっぱりここはテーマパークの中なんだな、と思ったから。エスカレーターから落ちてどうして何もない広場にいるのかは分からないが。


 ずんぐりとした体つきのその男性はえんじ色のとんがりハットをかぶり、膝丈の茶色いローブ、山吹色のタイツを履いている。足元は履き古された茶色いブーツ。ところどころ色が剥げている。


 倒れている私の横に立つと、顔の中央で存在感を放つ大きな団子鼻をひくひくさせながら、小さな茶色い目で見おろした。


『頭を怪我して動けません。救護センターみたいなところに連絡してもらえませんか? それか、館内放送のようなもので、引率か友人を呼んでいただきたいんですが』


 英語で話しかけたら、男はひきつった顔をして一歩後ろへ下った。おかしい。ここはアメリカなのに、英語が通じない。


 試しに同じ台詞を日本語で言ったら、通じているのかいないのか、いきなり

「ひー!」

と叫んで走り去った。


(なんで怯えるの? 私はただのけが人なのに。――もしかして、血がすごく苦手な人?)


 たまに、他人の怪我を見て異常なほどに怯える人がいる。血が苦手だというのだ。もちろんホラー映画を観るなど言語道断と言っていた。


 自分はちっとも痛くないというのに、どうしてそんなに過敏に反応しているのだろうと不思議に思ったことがある。


 今逃げていったスタッフの人も、そういうタイプなのかもしれない。自分で触って確認しただけでも、けっこう出血していることは分かったし。見た目も壮絶なのだろう。


 いずれにしてもこうして私の意識ははっきりしているから、命に別状はないと思う。


 しかしあんなに頭をエスカレーターに打ち付けながら落ちたのだ。脳震盪を起こしているかもしれないし、さらに頭蓋内出血を起こしていたら非常にまずいと思う。


 早くCTスキャンで確認してもらわなくては――と焦り始めた頃、先ほどのずんぐりした男性が、数人の男を引き連れて戻ってきた。


 ああ、良かった。彼は助けを呼びに行ってくれたのだ。


 トランシーバーなり携帯電話なりを使えばもっと早く病院に行けたのではないかと思ったが、このまま放置されているよりはずいぶんましだ。


 きっと血を見て動揺したため、彼の判断力が鈍ってしまったのだろう。


 彼らに向かってまた手を上げて合図を送った私は、近づくにつれその背後に見えた動物を見て固まった。


(う――牛?)


 救急車をここに入れることはできないとしても、けが人を運ぶのなら、担架とかストレッチャーを使うものではないかと思う。決してあの牛が引いているような、ガタゴト大きく揺れる荷車ではない。


 それにあの男が連れてきた人たち――救護センターの人ではないように見える。踝に届く丈の黒いローブを着た三人の男性は皆、厳しい表情を浮かべていた。まるで敵を見るような、そんな目で私を見ている。


「この人です。もしかして、言い伝えに出てくるあの人ではないかと――」


 ずんぐりとした男が、黒いローブの男の一人に言った。


「黙れ。判断するのは長老だ」


(日本語で話している。良かった、私が日本人だから、合わせてくれたのかな――というより、長老? ここ、アトラクションの一部なのかな。だとしても、けが人を巻き込まずに早く病院へ――)


 違和感を覚えつつもやっと助けてもらえると喜んでいたら、剣を持っている三人のうちの一人にいきなり乱暴に腕をつかまれ、体を引き上げられた。衝撃で視界が揺れる。


「おい、怪我をしているぞ。丁寧に扱え。長老に会わせる前に死なせてしまっては事だ」


「いっそ死なせたほうがいいのでは?」


「ダメだ。それはそれで、どんな厄災が訪れるか分からん」


「仕方ない」


 そんな会話が交わされた後、私の腕をつかんでいた男に優しく抱え上げられた。死なせたほうがいいといった物騒な言葉も聞こえたが、ここは一応――


「ありがとう」


 礼を言っておこうと思っただけなのに、返ってきた言葉は

「こっちを見るなブス。黙ってろ」

だった。


 はい? ブスって――まさか、私のことを言っているのだろうか。

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