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落ちる

 ふわりと体が宙に浮き、そして頭から下へと落ちていく。


 痛かったのは最初に頭を打ったときだけで、後は何も感じなくなっていた。


 耳に入る音はフィルターを通しているかのようにくぐもって聞こえるし、景色もゆっくりと流れていく。


 私を突き飛ばした女は、アホみたいに大きく口を開いて目を剥き出して私を見送っていた。


 後ろにいた人たちは端に寄って私を避け、そして一様に驚いたような顔をして見おろしている。


 彼らの後ろには清々しいほどに青い空が広がり、飛行機雲が爽やかな白い模様を描いている。


 ――なんてシュールな光景。


 ちなみにこのエスカレーターは、けっこう距離が長い。しかも私はけっこう上まで来ていたと思う。


 このまま下まで落ちていったら、死んでしまうのだろうか。


 まるでコメディアニメのようにエスカレーターにリズミカルに頭を打ち付けながら落ちていく途中、ゆっくりと流れていた景色がぼやけ、そして消えた。


       ★


 ……頭がずきずきする。


 コンクリートの割には柔らかな地面に背を預けながら、私はゆっくりと目を開いた。あの青い空が広がっているが、人の顔が見えない。


 あんなに派手に落ちたのだから、施設の誰かが看病してくれていてもいいようなものなのに。病院に運んでくれるとか。


 あ、ちょっと待って。


 アメリカの病院って、医療費がすごく高かったような気がする。


(格安だから卒業旅行に参加したのに、これじゃ医療費で通常よりぜんぜん高くなってしまうかも)


 裕福な婚約者は大学が企画したものよりもっと優雅な旅に連れていってあげると言っていたけど、優雅な旅は新婚旅行まで取っておきたかった。


 学生最後の旅行は、友人たちと行きたかったというのもある。これでも一度友達になった相手は、大事にする方なので。それにこの旅行のためにモデルのバイトもしてきたわけだから、自分のお金で気兼ねなく楽しみたかった。


 意識がはっきりするにつれて、ロスのテーマパークとは違う場所にいることに気づいた。


 それとも、テーマパーク内の広い公園だろうか。一般的に運動公園と呼ばれるレベルで広く感じるが、ここはアメリカだし、なんでもビッグなのかもしれない。


 ――なわけないでしょう


 私は自分の記憶を懸命に探る。


 こんなに大きな公園は、さすがに施設内にはなかった。


 それにいくら何でも、誰もいないなんてありえない。


 あんなにたくさんの人がエスカレーターを落ちる私を見ていたのだから、まるでフラッシュモブのように一斉に消え去るなんてことはないはず。


 起き上がって周りを確認しようとしたら、後頭部が激しく痛んで動くことができない。それに動こうとしたとたんにひどいめまいも感じた。


 痛む部分にそっと指先で触れたら、髪がベトベトしたもので濡れていた。不安になりながら指先を見たら、真っ赤に染まっている。


 割れてるいるのだろうか。


 もしかして、縫う必要が? 


 傷ついたのは頭だけ? 顔は大丈夫だろうか。


 脳震盪も起こしているかもしれない。


 どれだけ医療費がかかるのだろうと思うと大きな不安に襲われたが、よくよく考えてみれば、私が医療費の心配をする必要なんてないと思い当たった。


 故意に私を突き落としたあのブスに、全額請求すればいいのだから。

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