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沐浴する②

 廊下を抜けると、茶ローブは講堂のような広い部屋を突っ切って、その奥にある小さな扉を開いた。するとまた、薄暗い階段が現れる。でも今度は昇る方。


 緩やかならせんを描く狭くて急な石の階段を昇っていくと、バルコニーのような場所に出た。


 ここの床は石ではなく、木でできている。中央に正六角形の湯船があり、浴室というよりホテルのテラスなんかで見かけるジャグジーのような雰囲気だった。その上には、シンプルな天蓋がついている。シャワーはない。足枷を付けたままでは洋服が脱げないと訴えたら、茶ローブが鎖を外してくれた。


「じゃあ入るから、出てってくれる?」


 早く温まりたいのに、茶ローブも大狼も私を睨みつけたまま動こうとしない。イラつきながら声をかけると、茶ローブは厭らしい笑みを浮かべて答えた。


「ここから出るわけにはいかないなぁ。見張り役なんだから。そばから離れてはいけないって命令だし、その鎖も外しちまったからそばにいないとな」


「じゃあせめて背中を向けて――」


「それじゃ見張ってることにならないじゃないか」


 私をブスと呼んで蔑んでいる割には、裸は見たいようだ。このスケベおやじ。


 こんな奴にただで見せるのは……いや、お金をもらったとしても、絶対に嫌だ。


「ロウが見てるからいいでしょ。あなたより断然有能で、あの白いローブを着ている人の信頼も厚いようだし。――それともブスな私の裸に興味があるっていうの?」


 ばかにしたような口調に、茶ローブは気色ばんだ。


「んなっ――お前の体になんて、興味あるわけないだろ! ……じゃあロウ、こいつから目を離すなよ」


 凝りもせずにまた命令口調で言ったせいで大狼に唸られ、茶ローブは出てきた扉の辺りまで飛び退った。ばかな奴。


 ――というか、狼にも少し離れてもらいたい。


 獣の前に生身を曝け出すなんて、喰ってくださいと言っているのと同じようなものではないか。


 まぁ喰うつもりなら、とっくの昔に喰われているだろうけど。


 そう思っても、金色の目がひたと自分に据えられていると、服を脱ぐ指の動きがぎこちなくなってしまう。


 過ごしやすい気温だった昼に比べ、日が落ちた今は少し肌寒かった。しかし地下に比べれば断然温かい。狼の視線に耐えながら着ていたものをすべて脱ぎ捨て、お湯の中に足を入れた。


 冷え切った足にはひどく熱く感じられ、最初は痛いほどだったが、構わず腰まで沈める。薬っぽいような、青くさいような、何かの臭いがする。草餅の匂いにも似ているような――よもぎ?


 肌が湯温に慣れ始めたところで、肩まで浸かる。至福のため息がこぼれた。


 燭台の淡い灯りの中でも、自分の体のところどころに痣が残っているのが見える。指で軽く押すと、鈍痛が走った。


 軽くメイクをしていたから石鹸で顔を洗いたかったが、そういったものは周囲に見当たらない。仕方ないので顎まで湯に沈み、そのぬくもりを堪能した。


 しかし体が温まるにつれて、怪我をした頭の痛みも強くなっていった。耐えられなくなる前に――と、急いで顔をバシャバシャと湯だけで洗い、体も手の平で軽く撫でて汚れを落としていく。


 のぼせたのか、頭痛のせいなのか、眩暈がした。限界だと思って湯から上がろうとしたが、そこではたと気づいた。


――体は何で拭けばいいんだろう? 


 濡れた身体のまま服を着たら、地下でまた冷えて風邪を引いてしまう。


「体を拭くものを貸してもらえる?」


 入口付近で座り込んでいた茶ローブに尋ねたら、面倒そうな顔をして端に置いてあった木の箱の元へ行き、中から白いタオルを取り出した。


 こちらに来て渡そうとしたとき、湯の中の私の体をじろじろと見る。


胸は腕で隠していたし、体育座りをしていたから、それほど見えないはず。


しかし茶ローブはしつこく眺めまわし、下唇とペロリと舐めた。


 ――気持ち悪い。



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