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地下牢に囚われる④

 食事は非常においしかった。


 スープは香りから想像したとおり、トマトソースをベースにした少しピリ辛の味わい。ほんのり甘味のあるピアディーナっぽいものにソースを乗せて食べると、さらに味わいが増した。


 フルーツはカットされたオレンジ、リンゴ、細長い形状で皮ごと食べられるぶどう。


 どれも甘くジューシーで、あっという間に食べ終わってしまった。そしてオレンジ色の飲み物は、オレンジリキュールだった。


 甘いがさっぱりとしたのど越しで、これもお代わりしたくなる。


「――女性にしては、食事が早いですね」


 すべて平らげて満足のため息をついた私に、白ローブが呆れた顔をした。


「とてもおいしかったです。ご馳走様でした」


 いろいろあって混乱していたせいで気づかなかったが、どうやらお腹も空いていたらしい。


 訳の分からないこの状況と相まって、よけいに頭が働かなくなっていたようだ。おいしい食事を食べたおかげで、少し落ち着けたような気がする――わけないよね。お腹は満たされてもやっぱり鉄の足枷を外してほしいし、ここから出してほしい。


「では、私たちはこれで。話し相手が欲しくなったら、ロウにどうぞ。あれでけっこう聞き上手なんですよ」


 白ローブが合図をすると、茶ローブがトレイを持ち上げた。牢を出ていこうとする二人に、慌てて声をかける。


「あの――どうして私がここに来るだけで罪なんですか? ただの観光客なのに。二日後にはマンハッタンに移動する予定だったし、こんなところに閉じ込めなくても、私はすぐにいなくなりますよ」


 閉所恐怖症でも暗所恐怖症でもないが、相当な引きこもり気質の人でない限り、こんなところに一人きり置かれたら精神を病んでしまうのではないか。


 おまけに本もテレビもラジオもない。ただぼんやり壁と大狼を眺めて、幾日過ごせば良いのだろう。


 不安で仕方がない。


「外に出すわけにはいかないのです。一日に一度、沐浴の際にこの建物の中を移動できるのですから、それまで我慢なさい」


 無情に言い放つ白ローブ。


 いわれのない嫉妬からエスカレーターから突き落とされたうえ、こんな目に合うなんて――

 

  一体、私が何をしたというのだろう。


「……私の罪ってやつを教えてもらえませんか。どうして怪我をして地面に転がっていただけで、地下牢に閉じ込められなくちゃいけないのか」


 突然、強い怒りが沸々と湧きあがってきた。さっきまでは怪我が痛いし状況が把握できずに混乱し通しだったが、食事をして少し頭が働くようになってきた。


 ――私は何も悪いことをしていない。少なくとも、牢に入れられるような罪は。


「おやおや。食事をしたとたんに元気になりましたね。しかし私たちにはまだ大事な務めが残っていますから、これで失礼しますよ」


「ちょっと待ってよ。理由を教えてって言ってるでしょ?」


 しかし白ローブは質問に答えることなく、鉄格子の向こうへ出ていく。茶ローブは扉の手前で私をチラリと振り返ったが、目が合ったとたんにびくりと身をすくませ、そそくさと白ローブの後に続いた。

 

 白ローブが近づくと、大狼は行儀よくお坐りをして、甘えた声を出している。


 茶ローブが鍵をかけている間、白ローブは狼の頭を撫で、

「あの女をきちんと見張っているんだよ。頼りにしているからね。そうしたら、明日の朝にはおまえの好物を持ってくるとしましょう」

と話しかけた。


 答えるように、大狼は白ローブの手の甲をそっと舐めている。


 ガチャリと鍵がかかった音がすると、白ローブはポンポンと狼の首筋を軽く叩き、茶ローブとともに去っていく。


 そしてまた、重い静寂が訪れた。

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