61.75話 管理人達
二週間を超える長期休暇が急に来ました。理由はお察しください。
ここは管理人やその部下達が世界を管理するための言わば職場。その中のある一室に一人の男が入っていった。
その部屋の中央には円形の机とそれを囲む九人分の椅子、そして脇にはホワイトボードのような物が置かれている。要するに会議室だ。
「…私が一番最初ですか。時間的に他の方も来る頃あ「わーーっ!!」いっ!?……ラクノさんでしたか」
「うはは!良い驚きっぷりだった!十分前から準備したかいがあったな!」
ラクノと呼ばれた人物は驚かせられたことが余程楽しかったのか、オレンジ色の髪の一部を揺らしながら満面の笑みでいる。
と、そこにとても軽い挨拶をしながら一人の男が入室した。何かを面倒がる感情が顔に浮かんだ猫背の彼は、ファルト達、というよりすぐそばにいるラクノの姿を見ると露骨に嫌そうな顔をした。
「ちゃーっす。…ファルトさん、ラクノと何か企んでたんすか?」
「おや、テオドールさんですか。…何故距離をとるんですか、特に何も企てて無いですよ?先程はとても驚かされましたが」
「おう!今まででも上位に入る反応の良さだったぞ!」
「そういうのは聞いてないんすよ。じゃなくて、ファルトさんならノリノリでそういう計画乗っかりそうっすし…いや、そうでも無さそうっすね」
「人を驚かせるのは苦手ですからね。部下へのサプライズというものもどうやればいいものか、おや?この声は…」
ファルトの耳に微かに、だが少しずつ近付いてくる声は二人分あった。どうやら何かで揉めながらこちらに来ているようで、少しすると声の主達の姿も見えた。
「だーからー!ぜっったいこっちのが良いってー!」
「いーや絶対こっちのが良いですー!大体シェッツが提案するやつどこかしら抜けてるところがあるじゃないか!」
「それ言ったらくーちゃんの提案するのもそうじゃんかー!」
「「ぐぬぬぬぬぬぬ……!!」」
「あ、あー…お二人ともどうしたんで「「テオは黙ってて!」」…うっす」
「ふはっ!綺麗に玉砕したな!どんな気持ちだいテオ!」
「煽ってるんすかアンタ、つか絶対煽ってるっすよね」
「やるか?やるのかぁ?」
「まあまあ落ち着いて…シェッツさん、クニシナさん。おやつがあるのですがいかがですか?」
「「おやつ!?食べる!!」」
仲が悪そうなのに所々息ピッタリなこの二人は、ファルトがどこからともなく取り出したそれぞれが希望したものを食べて満足そうにしている。その様子からは先程のような刺々しい雰囲気は感じられない。
「おいしかったー!…そういえば、私たちなんでここにいるんだっけー?」
「忘れたの?今は会議するためにここにいるんだよ、まだ全員は来てないみたいだけどね」
「そっかー!ありがとーくーちゃん!」
「……まぁ、平和なのはいい事っすよね」
「上手いこと締めようとしても黙れって言われたことは消えないぞ!」
「忘れようとしてたのに思い出させないで欲しかったっすねぇ…!」
「おっすー。…仲悪しコンビが喧嘩してない、ってことはファルトが活躍したか?」
「邪魔するぜ、……ハッ」
テオドールが悶ていると、新たに二人の男女もやってきた。そのうちの女の方は、そんなテオドールを見て鼻で笑いながら彼の方に近付いていく。
「おめーよー、そのシケたツラ何とかなんねぇのか?ほら、シャッキリしろシャッキリ!」
「いっ、イダダダダ!!ちょっ、やめてくれっすスーシェンさん!?」
「あそこの二人は相変わらずだな。ファルト、そっちはどうだ?」
「まあ、これといった問題も無くといった感じですね。…アレ意外は、ですが」
「あー…んで、ラクノは?後ろから来ても俺にはお見通しだ」
「バレたか!少しはひっかかってくれても良いんだぞヤオネ!」
「だったらもちっとスキルを上げることだな。…お?リーネスと、あいつも一応来るんだな」
「どうやら伝えたいことがあるようなので。その件を初めにするか最後にするかで少し悩んでいますが」
「ん、到着。…私達が最後、かな?」
「そうみたいだねぇ、いやぁこの場所も懐かしい。…皆久々に見る気がするね、えーと…向こう換算で十年ちょっとかな?」
「……でぶしょう」
「ちょっと待ってくれないかなリーネス、わざと誤解を呼ぶ言い方をして「あー!おさぼりレミアだー!今回はどこ行ってたのー?」ないかって、シェッツちゃん!?私別にサボってるわけじゃ無いからね実際に降り立って異常が無いか確認してるんだからね!?」
凄まじい早口でそう捲し立てたレミアは、ここに来たことを後悔しているかのように溜息を付きながら天井を仰いだ。
「(やっぱラム君に任せた方が良かったかぁ…?いやでもこればっかりは私が伝えるべきか……)よしってうわっ何みんな!?」
「んや、特に何も無いっすけども」
「そうさな。うーし、会議始めようや。座った座った」
「シェッツ、君はここね」
「分かったー!お隣さんだねー!」
「ん、レミアはこっち」
「あぁ、ありがと……〘解除〙」
「バレた…もう少し、迅速にやるべき、だった」
「(毎度のことっすけど、隣にスーシェンさんが座るこの配置なんとかならんっすかねぇ…謎の圧が……)はぁ…」
「んぁ?どうした、なんかあったか?」
「いや、特に無いっすよ?えぇ、マジで」
「さて、全員座りましたね。会議を始めましょう、話すことは第一回イベント関連です。スーシェンさん、武具系はどうでしたか?」
「ま、ぼちぼちってとこだな。イベ専武器防具も作られてたし、いい感じに使ってくれてたぜ。…アサルトスライムへのヘイトは高まったがな、分かっちゃいたがなんてもん作り出しやがるんだファルトてめぇ」
「タンクなどからヘイトを集めやすいのは承知の上ですからね、むしろそう言って頂けた方が良いです。次は消費アイテムですかね、どうでしたか?ラクノさん」
「こっちもまあまあってとこだな!ファイナルフェーズ特攻アイテム作ったのに誰も気付かないで終わったのは少し悲しかったけど!次からはもう少し気付きやすくするよ!」
「…?ちょっと待ってください、そんなアイテムあったのですか?」
「おう!三つ使うだけであの魔法陣一層カチ割れるやつ!相当配分調整しないといけないポーションだから作るの面倒だったかもしれないな!」
「……そ、そうですか。(もしや、プレイヤーの方々が気付いてらしたらアガニのラストは相当なヌルゲーになっていたのでは…気にするのはやめますか)このことを知ってらっしゃった方は「誰にも言わずに秘密でやった!」……せめて、相談しましょうか」
「おう!次からはそうするぞ!」
ラクノの衝撃発言にほぼ全員が内心頭を抱えながらも、会議という名の反省会は続いていく。
「戦闘面はどうでしたか?」
「レイドは色々と想定外だったな。第二フェーズでプレイヤーもこっち側もが阿鼻叫喚だったけど」
「初手から容赦ねえって声が凄かったっすね。掲示板とかどこでもそんなような話題が出てたっすよ」
「魔術の発動、物体の諸々も特に問題は無かったみたいだね。ファイナルフェーズでの発動妨害に僧兵の拳が効きやすいのはなんとなく分かるけど短弓も効くのは何故?って声がどっかで上がってたみたいだけど」
「あぁ、それは…アガニの制作をしてる時に最後の最後は皆かなり煮詰まってまして。近距離は浄化的な意味で僧兵に、遠距離は光系魔術では普通すぎるのでは?となって話し合った結果、活躍の機会が他と比べて少なかった短弓になりました」
「……思いっきり裏話じゃないかい?」
「まぁ、そうですね…」
「そうだシェッツ、イベントとはちっとズレるけど進化の方はどうだい?」
「今のところは順調みたいだよー!アンデッド系の人達も頑張ってるし!でも、人型種族はまだまだかなーり先だね!」
「ま、そうだろうな。そんなすぐになられてもって感じではあるし」
「そういえばリーネス、時間関係は特に問題なかったのかい?」
「ん、ノープロブレム。特殊マップで時間の流れが変わる、とかだったらちょっと面倒だったかもしれないけど」
そのようなことを話し合って全員の感想が粗方出尽くしたところで、レミアが挙手をした。そろそろ終わりだろうと思って戻る準備をしていた者も、それに注目する。
「あー、今から話すことはイベント関連では無いんだけど、それでも重要な話ではあるんだ。……これ、何だと思う?」
「なんだいそれ、血溜まり…あぁ、そういうことかい」
「スーシェンは分かったみたいだね。まあ話を引き延ばす必要もないから言うけど、これは前に泥花の植園で確認、討伐された緊急討伐個体、憤激の薔魔人からドロップしたモノの言わば残滓だ。これの解析結果を言おうと思ってね」
緊急討伐個体という単語を聴いた瞬間、全員の表情が真面目なものへと切り替わる。唯一ラクノは笑顔を崩していないが、それでも普段とは明らかに雰囲気は異なっている。
「うだうだ説明しても仕方ないから結果だけ言うと、コレには元々世界に存在しなかった、しかも私達が作り出したものでもないナニカの因子が混ざっている。ぶっちゃけそんなことはあり得るはずがないんだけどねぇ…」
「ちょっと見せてもらってもいいかな?アイテム担当としては色々と気になるからね」
「?あぁ、ラクノ君か。はいどうぞ」
「ありがとう。………ふむふむ」
「ま、あっちは任せるとして。ファルト、何か心当たりはあるかい?」
「いえ、部門の者全員にも聞きましたが皆このようなものは見たことが無い、と。真偽看破の道具を使っても全て真と出たので確かです。私もこのような…ハッキリと言えば異常な個体は創った記憶がありません」
「そうだよねぇ…どうだい?ラクノ君」
レミアがそう聞くと、笑顔まで消した真面目な顔付きで見ていたラクノが顔を上げた。そこには困惑の表情が浮かんでいる。
「参ったね、僕もたまにこっそり作ることはあるけどこんな物質見たこと無いや。部分的には邪花木亜人だけどそれ以上に未知の物が多い」
「そっか。……とりあえず、現状分かってるのはここまでなんだ。そこまで力になれてないかもだけど、私としてもこれは何が何でも見過ごせない事態なんだ」
「確かに、プレイヤーが実際に死んでしまうかもしれないようなものを見過ごすわけにはいきませんからね。でも、レミアはこれから何をする予定なの?」
「これからは報酬を受け取ったプレイヤーから任意ではあるけど預けてもらって、そっちから何か分からないかも確認するつもり。じゃあ、私が言いたかったことはこれでおしまい。他に何か議題があったらごめんね」
「…そうですね、他に何かありますでしょうか?」
「あ!はいはいはい!プレイヤーの進化について少しー!」
シェッツがそう言うと、重かった雰囲気は再びとはまではいかずとも緩やかになり会議は再開される。
そんな面々を見ながら、ファルトはとある人物と会話していた。無論声に出さないように念話用の特殊なアイテムを使って、ではあるが。
【……ということです。どうですか?】
【はー、予想はしてたけどアイツエグいやつだったんだねぇ。どうしよっかなー、こっから先また出たらサクッとぶっ殺しちゃった方がいい?】
【可能ならばぜひお願いします。こちらとしてもプレイヤーの方々が亡くなるという最悪の事態は何が何でも避けたいので】
【ほいほい。処刑担当、任されましたよっと。…もしかしたら、また彼がその場に居合わせるかもねぇ?】
【……悪い冗談は止めてください、彼は私の友人なのですから不幸な目にあってほしくないのです。贔屓をするわけではありませんが】
【おっとそうだね。んじゃま、これくらいで話も終わっとこうか。今会議中なんだろ?またねー】
「…(再びその場に居合わせる、ですか。そのようなことがあってほしくは無いのですが……こればかりはどうなるか分かりません、ならないことを願うばかりです)」
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「…だってさ、エリくん。君には何か視えてるかい?」
〚少々お待ちを。…そうですね、件の彼、ルヴィスでしたか。彼がマスター他数名と共に戦っている光景は視えますが、何と戦っているのかまでは。ですが、以前の憤怒と似た何かは感じます〛
「おっけーおっけー、それだけ分かれば十分さ。……これからまた会えるのか、そしてどれだけ強くなったか、楽しみだねぇ……」
本編には来週に(多分)戻りますので…




