5話 素材採取の時間
クエストを受けなければということをすっかり忘れていた二人は、走ってギルドに行きなんとかクエストを受注した。流石に一日たったからか、ギルド内はプレイヤーと思しき人で溢れかえり、受付に行くのにも一苦労だった。
そんな二人は、クエスト達成に必要な素材を集めるため再び森に来ていた。集める素材はニヘル草と呼ばれる薬草で、これを十五本採取で250G、五本追加採取ごとに更に25G追加だ。
討伐クエストでも来ていたこの森はアニスの森と呼ばれ、街の人はここで様々な素材を集めているようだが、モンスターと遭遇する危険もあるので基本は採取クエストとしてギルドに依頼しているらしい。
「さて、またこの森に来たわけだが……ステータス欄になんか増えてたんだよな…」
「あぁ、お前の称号とかあの人との関係とかでなんとなくありそうだとは思っていたが……」
「「何故『鑑定』スキルが増えているんだ……」」
二人のスキル欄には新しく『鑑定』Lv1が追加されていた。シオンはルヴィスと同じ称号も同時に取得していたので、なんとなくレミアの仕業だと思っているが、何故スキルが貰えたのかが分からずにいる。
ルヴィスも何故スキルが貰えたのか疑問に感じていたが、今の状況を考え何かを思いついた。
「なぁシオン、むしろこれはチャンスじゃないか?」
「チャンス?……あー、そういうことか」
「そう、いくら依頼の紙に参考の絵が描いてあってもいちいちそれを確かめてたらキリが無い。ならこの『鑑定』を使ってすぐに、いや、できるだけ沢山ニヘル草を集めて金を稼ぐぞ!」
ルヴィスは、『鑑定』スキルを使えばわざわざ確認のために依頼書を見なくても、それっぽいものを見つけ次第鑑定すれば楽にやれるだろうという雑な作戦でいこうと思っていた。
―――だが、当然そんなに上手くいくはずもなかった。
まず、素材採取だからといってモンスターとエンカウントしないわけが無く、探し回るうちにゴブリンやフォレストウルフなどと何回か戦闘にもなった。当然戦ううちにレベルも上がりはするが、それなりのダメージや疲労も蓄積し、その分休憩も挟まなければならなくなる。
更に、『鑑定』スキルを使うとたまにMPを消費してしまうことが判明した。戦闘後にシオンがステータスを確認していると、使った記憶の無いMPが4になっていたのだ。これを知ってからは、気になるものがあっても『鑑定』を使ったりという無駄遣いを控え、慎重に使うハメになった。それでも日が暮れる頃には五十五本ほどが集まった。
「あーキツかった……でもこんだけ集めれば宿には困らない…はずだ!」
「確証を持てや…でもまぁ、戦闘にある程度慣れることも出来たしレベルも上がったしでいい結果にはなったな」
「よし、じゃあギルドにいって報告だ!」
ギルドに行き報酬を受け取った二人は、手頃な価格で泊まれる宿は無いものかと街の人に聞くと、一泊100Gの宿があることが分かった。どうやら昨日泊まった宿は高級宿だったらしく、若干もったいないことをした気がする中二人はその宿を見つけ、泊まることにした。
「……腹が減った、どうしよう」
「それなら良いものがあるぞルヴィス、ほれ」
「うおっ!?急に投げ…あー、これがあったな」
「お前も拾ってただろ?鑑定したら食用だって分かったから食おうと思ってたんだ」
シオンが投げたのはリンゴのような形状とサイズをした果実で、食べてみると若干酸味は強いが見た目通りのリンゴの味だった。二人はよほど空腹だったのか、二つほど食べきって満足した。
「結構美味かったな。そういえばシオンはさっきから何を見ているんだ?掲示板?」
「正解。なんとなく見てたら攻略班スレっぽいのがあってな、それをずっと見てたんだ」
「二日でもうそんなのが……どんな情報があるんだ?」
「気になってみてた順から言ってくから、なんかしらにメモっとけ。後で役立つだろうから」
「ほい、じゃあ始めてくれ」
「まずは………」
シオンが調べたのは、スキルのLvに関してのこと、MP回復の条件、ステータスにある運がどう関係してくるか、そして称号の取得条件についてだ。
称号は持っている者がほとんどいないので情報が無いに等しかったが、恐らく何か特別なことをすれば称号が貰えるだろうと推測されている。
スキルLvは、二人は種族スキルでおおよそ察しはついていたが、Lvが上がるにつれ性能が上昇していくようだ。例えば剣術や魔術ならば使えるようになる技が増えたり詠唱が早くなったりして、気配察知などの探知系スキルは効果範囲が拡大したり細かい情報が分かるようになるらしい。
MPは、非戦闘時に使い切ってから一時間ほどで完全回復するが、戦闘時には回復しない。一時間で完全回復というのも、この先更にMPが増えていけばどれだけ時間がかかるかは不明だが、その時になればまた検証するだろう。
一応戦闘時の回復手段としてMPポーションがあるが、普通のポーションが一つ100Gほどなのに比べ、これ一つで250Gという驚きの値段なので検証もしにくいようだ。それでも一つにつき大体7くらいMPが回復するという結果が出ているようだ。
ステータスの運は、まだ極端な差が無いので分かりにくいらしいが、戦闘ならクリティカル率やアイテムドロップ率に影響して、商談なら契約の成功率にも関わるだろうと言われている。
「……と、こんなもんだな」
「ありがとうシオン、お礼にこのリンゴっぽいやつを一つあげよう」
「俺もそれ結構持ってるんだがな……まぁいいや。さて、もう外も暗いし寝るか?」
「いや、今日集めまくったアイテムがごちゃごちゃしてるから整理をしようと思う。お前もどうだ?」
プレイヤー達は、動物以外なら大体入れることが出来るアイテムボックスをアバター作成時に貰える。武器以外はスタック可能なこのアイテムボックスだが、自分で整理しないと拾った順に溜まってしまい、アイテムを出したいときにとても面倒なことになってしまうのだ。そのため、アイテム整理はとても重要になる。
「あー、確かに良いかもな。今日ほぼ一日中森で採取だったし、色々ボックスに入ってるわ」
「今やらないとやる時間なさそうだからな、さあアイテムボックスの中身は……うわぁ、木の実やらモンスターの素材やら、ホントに拾った順になってるんだな」
「それでもステータスみたいな感じで開けて、しかも位置替えしたいやつ同士をタッチするだけでいいだけマシだよな。一旦出して空き作ってそこにいれて、ってやるよか十二分に楽だ」
雑談をしながらも整理し終えた二人は、疲れが溜まっていたので、備え付けの寝間着に着替え寝ることにした。
朝になり、二人がクエストを受けるためにギルドに向かっていると、どこかから聞き覚えのある声がした。
そちらの方を見ると、レミアが良い人材を見つけたと言わんばかりの顔で近づいてきた。
「やぁ、二人とも。早速だが私からの依頼を受けてくれないかな?報酬も良くするからさ」
「ホントに急ですねレミアさん。……依頼は受けますけど、なんか嫌な予感がするのは気のせいですかね?」
「それは言うなルヴィス。まぁ、どっちみち受けるクエストも考えていなかったのでありがたいですけど、どんな依頼ですか?」
「それはだね……アニスの森にしか生えない植物を一緒に探してほしいんだよ。一人でも良いのだけど、二人を見つけたんだ。人数が多いほうが暇しないし、『鑑定』もプレゼントしたからね。どうだい、管理人との共同作業なんて滅多にないチャンスだぜ?」
「やっぱりあんたか……どうする?シオン」
「いや、受けるってお前が言ってたんじゃん。てことで、お願いします」
「よし、じゃあついてきておくれ。………ふっふっふっ、これはまたいいことがありそうだ」
レミアは後半の言葉を小声で言ったため、二人の耳には入らなかったが、こうして二人は不安感を拭えないままアニスの森へと向かっていった。