4話 噂の薬屋
「………知らない天じょっ!?」
「昔の主人公みてーなこと言ってないで起きろ。もう日は出てるぞ」
起きて早々言おうとしてたセリフをシオンの枕投げにより阻止されたルヴィスは、そのことに文句を言いながら寝るとき用に部屋にあった寝間着から着換えて宿の食堂に行った。
朝ということもありほぼ人で埋まっている机からどうにか空いている場所を見つけて二人はそこに座り、朝食を注文した。
「ふぅ、やっぱり沢山人がいるな。ここを見つけるのにも一苦労だ」
「ちなみにだが今は午前七時二十分くらいだ。正確な時刻を言うとお前は二度寝しそうだからあえて言わないでおいた」
「ひでぇけど反論できない……あ、そういえば昨日メニューに掲示板があるのを見つけてな、ちゃんと使えるっぽいぞ?」
「へぇ、見落としてたな。どれどれ、『メニューオープン』……確かにあるな。みんなログアウト不可能について騒いでるみたいだけど」
シオンの言うとおり、掲示板では様々なスレッドが立てられていたが、ほぼすべてがログアウト不可能についての事だった。見てみると嘆いていたり楽しもうとしていたりと、反応は様々だ。
「あー、やっぱこうなるわな。ルヴィス、今もログアウトは不可能か?」
「ああ、まだ出来ないっぽいな。シオンが言ってたみたいに数時間で直るような不具合だったオチを少し期待してたんだが、まぁそんなうまく行かないよな……おっ、朝飯が来たぞ。まずは食べよう」
一旦話を切り上げ、二人は朝食を食べることにした。この世界ではどうやら味覚もしっかりと再現しているらしく、満足して食べ終えた。
「あー旨かった。そういえば昨日から何も食べてなかった気がする」
「昨日は色々あったからな…さて、こっからどうする?またギルドに行ってクエストを受けるか?」
「まぁそうだな。昨日やらなかった素材集め系もやってみたいし、そうするか」
二人が今日やるクエストを決めて席を立とうとした時、二人の耳に気になる話が聞こえてきた。話している三人組の男達はこのゲームでの初期装備を着ているので恐らくプレイヤーだろう。
「なぁ、お前達は掲示板で噂になってる薬屋のこと知ってるか?」
「薬屋ぁ?掲示板は不可能スレでいっぱいだから見る気無くしたな……」
「あ、俺知ってる!マップに表示されてんのにそこに行っても壁しかないって場所だろ?運営のバグだって皆言ってるけど俺はそうじゃないと思ってるんだよな、その話」
「ふーん?じゃあなんだ、特殊な条件満たしてねぇと薬屋は現れねぇぞ!みたいな感じか?」
「そこもスレで噂されてるんだよ。つってもこっちの世界の人じゃなきゃ入れないとかのよくわかんねぇ噂だけどな」
その話を聞いてルヴィス達は自分たちが行った不思議な薬屋を思い出し、再び座っていた席を立ち宿を出た。そしてそのまま数分歩いて他にプレイヤーらしき存在がいないことを確認して、同時に口を開いた。
「「あの薬屋…そんなヤバそうな噂立ってるの?」」
「いや、待てシオン。まだあの薬屋だって確証はないはずだ。……多分」
「取り敢えずもう一度行ってレミアに話を聞いてみよう。もしかしたら違うかも知れない……違うよな?」
二人ともあの店主はどこか怪しいと思っていたが、まさかあの薬屋では無いだろうという淡い期待を込めてもう一度薬屋に行くことにした。
その後再び例の薬屋に来てみると、そこには変わらず一軒の薬屋があった。改めて外装を見てみると扉の少し上に"レミア薬局"と書かれた看板があったが、それ以外に目立つ物はない。
特に異常は無さそうだと思った二人がそのまま店内に入ると、そこにはカウンターで暇そうにしているレミアと並べられた様々な薬があった。頭上では魔法と思われる球体が八つ高速で回転していた。
ただ、その魔法の色はそれぞれ違い、それだけで細かいことは分からないがとにかく目の前の彼女が凄いことだけは二人に理解できた。
「てーってれてーっててーっ……ん?おぉ、ルヴィス君とシオン君じゃないか。どうしたんだい?私の暇つぶし相手になってくれるのかな?」
「いや、そうじゃなくて…まぁ、多少の暇つぶしにはなると思いますけど」
「ほほぅ?何か面白いことがあったのかな?さぁさぁ、聞かせておくれよ」
「最近…といっても一部の冒険者内での噂なんですけど、地図にはあるのにそこに行っても壁しかない薬屋があるらしいんですよ。で、ここはその噂に関係があるのかなと思って来たわけです」
ルヴィスがそう言うと、レミアは話している最中にも回していた魔法球の動きをぴたりと止め、その後魔法球で丸をつくりながら笑った。
「へぇ、そんな噂があるのか。面白い面白い。さて、早速ネタバラシをするとこの場所が恐らく噂の薬屋だろうさ、君たち大正解だ!」
「マジか……でも僕達は普通に認識できたり入れたりしますよね?この店に何かしらのフィルターでもかかってるんです?」
すると、レミアは魔法球を更に出現させ、丸を二重丸にした。
「おぉー、中々鋭いじゃないか。それも正解、ここにはある称号を持っている者とその仲間以外は認識することも出来ないような魔術をかけてある。まぁその分暇な時間が多くて、いつもこんな感じで暇を潰そうとしているがね」
「特定の称号……ん?ルヴィスよ、俺達が持ってる称号って、お前の一つだけじゃないか?」
「……え?もしかしてあれなの?管理人の友人っていう称号?」
「そう、その称号を持つことがここに入る条件さ。とは言っても、悪意を持つ人間は即座に排除するがね!」
「てことはつまり、レミアさんも管理人と繋がりを持っているって事ですよね?一体どこで?」
「話は単純さ。私も管理人の一人で、暇だったからここに降り立ってこうして暮らしている。でも面倒ごとは嫌いだからこうしてフィルターをかけたら結局暇になってしまった。そして君たちは、そんな特別な薬屋のお客さん第一号ってわけだ。誇ってもいいんだぜ?」
「なるほど、管理人……管理人!?それ大丈夫なの!?」
唐突に明かされた事実に二人は驚きを隠せなかった。
そもそもこの世界を管理するはずの管理人の一人が暇だからと言う理由で降り立ってしまっていいのかなどの疑問が頭に浮かんだが、どうにかそれを抑え込んで話を続けることにした。
「あー、その、レミアさんも管理人って事は他にも管理人はいるんだよな?僕が出会ったファルトも含めて」
「あぁ、管理人は合わせて……えーっと、そうだ、九人くらいいたはずだ。一応全員から降り立つ許可は貰ってるから大丈夫。ところで、出会った管理人は二人ともファルトだったのかい?」
「いえ、俺の方は別の管理人でした。確か、リーネスだったかな?すごいやる気なさそうな感じでしたけど」
「ははぁ、あの面倒くさがりと当たるとはね。まぁいいや、というか君たちもこの為だけに外に出たわけでは無いだろう?例えば、クエストとか」
「あっ、そうだった。急ぐぞシオン!これで受けたいクエスト軒並み取られてたら二人楽しく文字通りの路上泊だぞ!」
「それは嫌だな。よし、急ごう。あ、話を聴いてくれてありがとうございました」
「いいさ、ちょうど暇つぶしにもなったからね。薬が切れたらまた来なよ、少しだけ安値で売ってあげるから……って、もういないじゃないか。よっぽど急いでるんだねぇ」
再びレミアだけになった店内で、また魔法球を回しながら彼女は何かを思いついた。
「そうだ、管理人からの餞別としてこれを二人にあげよう。シオン君には称号も忘れずにっと………よし、これで良いだろう」
★シオンは称号"管理人の友人"を手に入れた
★ルヴィスはスキル『鑑定』を手に入れた
★シオンはスキル『鑑定』を手に入れた
掲示板ではよくあるようにファトゥムオンラインがFOと略されているようです。