35話 少年は望む、禍々しき薔薇の蠢きを 9
後輩と一緒に誰のかすら分からない弁当箱を開けたら部屋中に広がる腐敗臭、中指先端に付いた謎の液体、慌てて洗ったにも関わらず落ちない納豆のような臭い、少しだけ見えた白いナニカを纏う椎茸らしき物体……地獄でした。夏場に弁当箱を放ったらかすのはやめましょう。
サバフェス一番くじがどこも終了していた悲しみと怒りを込めての投稿です
「わガ…り………こデ潰え…、…カ?」
「嘘だろまだ生きてるのかよ……」
薔魔人になる前の聴き取りにくい声になってはいるが、それでも薔薇野郎が未だに生きている事に変わりはない。刺しが甘かった…?いや、全力でぶち込んだのにまだ足りないとか勘弁してほしいんだが。
しかもあんな感じで独り言を言っているのには嫌な記憶しかない。アレが中断できたのかは不明だが、放っといたら薔魔人に進化しやがったからだ。武器は無いが、トドメを刺しにいかなきゃまた何かしらあるかもしれない。
〚ルヴィスさん、動かなくとも大丈夫でございます。奴めはもう瀕死、今口にしているのは詠唱の類では無く独り言でしょう〛
「そういうこと。流石にあの状態からさらに強くなるなんてことは無いから安心しなよ?」
動こうとしたところで二人に止められる。嘘では無いのだろうが、何かあったら困るので多少の警戒はしておく。
「……ノ罪は…こニ処…レル。……忘……ナ、…様等……ハ未だ………。妬ミ、…り、貪…、…ケ塗れ…う。………負エ、虚……ル双樹ノ……種、ヨ」
「双樹の……なんだって?種…?」
飛び飛びではあるが、最後の双樹の種というところだけはしっかりと聴き取ることが出来た。妬みやら塗れやらはハッキリしないが憤怒以外の七大罪なのかもしれないが、どうなのかは不明だ。
双樹ってのは多分この世界の名前なのかもしれないな。セリフォトって名前自体が生命の樹であるセフィロトと邪悪の樹であるクリフォトが混じったような名前だし…種はこの世界の人々ってことだと思えばそれで納得がいく気がする。
「うん、やっぱりもう死ぬねアイツ。枯れ始めてる」
「あ、ホントですね…手足の先から少しずつ……」
見ると、片腕を未だ黒い空に向けて伸ばしながらも四肢の先端から徐々に茶色く枯れていくのが分かる。やっぱりこれ以上何か進化したりのイベントは無いっぽいので、漸く安心できる。
と、今まで一度しか聴いたことのないアナウンスの音が再び色彩を取り戻す世界に響き渡る。確かこの音は全プレイヤーに届く類のやつのはずだが……ちょっと待て、このタイミングでこれってまさか…?
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《魔薔薇の憤怒は裁かれた》
《罪は裁かれど、生命在る限り罪は消えず》
《現時刻を以って、特殊個体"憤激の薔魔人"は討伐されました》
《討伐参加者及びNPCはルヴィス、リネア、ネルガルの三名となり、報酬が与えられます》
〘特殊処理発生、報酬は全てルヴィスに与えられます〙
《参加者は称号"怒リヲ裁キ討チシ者"を獲得します》
《心輪花の破壊者は称号"穿憤"を獲得します》
《特定条件を満たしたため双樹が一段階成長しました。それに伴い一部システムを解放します》
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前言撤回、やっぱ安心出来なかった。いやでもプレイヤーとしてそこまで、というか全く名は知られていないはずだから誰がプレイヤーなのかはシオン達以外には分からないだろう。
あとしれっと混じった個人向けの運営からのアナウンスもヤバかった。リネアとネルガ………あれ?ネリアとリガースじゃなくて…?
「あちゃー、名前バレしちゃったねぇ。改めて自己紹介、私はリネア。見てたから分かると思うけど何でも使えるオールラウンダーって感じかな」
〚勘付いていたようですが、取り敢えず私も。戦争と疫病を司る神、ネルガルでございます。一部では太陽神としても扱われるようですがそれはそれ。黒棘、大事に扱ってくださいますようお願い申し上げます〛
うん、戦疫の偽黒棘の説明で少し疑ってたけどやっぱりリガースの正体がネルガルだった。いやだとしたら何で神様が人間よりも下の関係に…戦った結果仲間にしたとかでもおかしくなさそうだから恐ろしいし、ホントにそうだとしたらマジで敵に回したくない。
「これって、僕もお二人に自己紹介した方が良いでしょうか?ロミナです、一流の画家になるために頑張っています」
「うん、宜しくね。……動きにくいし落ち着かない!『装変』!」
「ファッ!?」
刺さってる黒棘を抜いてこようかと思っていたら、リネアがいきなり令嬢っぽい姿から元の軍服に戻った。チェンジってのが服装変更のトリガー的な言葉なのだろうが、にしても急すぎて思わず変な声が出た。
あとネルガルも気付いたらいなくなっていた。どこに行ったのか分からないが、せめてロミナに挨拶していけば良かったのにとも思う。子供嫌いとかの事情があったらまぁ仕方無いけど。
「ふぅ、さてルヴィス君。こっからロステマに向かうんだろうけど、武器も無しで大丈夫かい?」
「武器なら一応黒棘があるけど…あー、そういうことか」
確かに剣を失ったのは大分キツいが、黒棘さえあればと思い込んでいた。だが俺にとっての黒棘は持てないほどではないが重いため、マトモに取り扱うことは主人公補正的なやつで急にスキルが生えてくるとかじゃ無い限り不可能だろう。
このダンジョンを抜けた先にはロステマに向かう街道があるのだが、そこまでの道中でも普通に敵が出てくる。逃げれば良い話ではあるのだが、今の状況でもし敵に囲まれたりした場合どうしようもなくなってしまう。
「大丈夫じゃなさそうだねぇ。よし、私が護衛になってあげよう!それなら安心安全に進めるだろう?」
「良いのか?リネアが護衛をしてくれるのはとても助かるが、報酬とかは…」
「無くても大丈夫大丈夫、って思ったけどタダより怖いものは無いだろうから……そうだ!」
自分から報酬云々の話を出したはいいが、どんな要求をされるか少し身構えてしまう。しかし、リネアの口から出た内容は予想に反するものだった。
「君、ビーフジャーキー持ってないかい?丁度ストック切らしちゃってね、出来れば五つくらい欲しいかな」
「え…?それなら十個くらい大丈夫だけど、ホントにそれで?」
「うん、一定の味じゃないってのがまたいいんだよね」
この世界にも保存食は存在するが、その中でも当たり外れの差が大きいものがビーフジャーキーだ。何せ売っている店によって味から何から全て違うらしいため、この店のは激マズだっただのここのは特にオススメ!などの情報がいつもそれ専用の掲示板で飛び交っている。
俺が今持っているのは比較的安くて味もそれなりに良いと言われていた店で買った物だが、思いの外食べる機会が無くてアイテムボックスにずっとしまっていたのだ。ロステマで買ったものなのでまた買えば問題は無い、破格の条件では?口に合うかが問題だが。
「じゃあ、コレを。ハズレでは無いと思うけど十個」
「これで契約成立だね。さて味は……おっ、中々良いじゃん?」
「ルヴィスさん、あれって何ですか?乾燥したものなのは分かるんですが」
「ん?あぁ、簡単に言えば保存食かな?肉をある程度乾燥させてから塩やらなんやらに漬け込んだやつらしい。一ついるか?」
ビーフジャーキー、というか未知の何かに興味を示したのだろうロミナにも一つあげる。十五個買っといたので残り四つ、自分で食べるなり料理に……料理に使えば良いのか、盲点だったな。後で掲示板にレシピが無いか見てみよう。その前に帰らなきゃだが。
「そろそろ行くか?ここでずっとビーフジャーキー食ってるわけにもいかないし」
「むぐむぐ……それもそうだね。よーし、しっかり守るから安心してね」
「い、意外と硬いんですね……えいっ!」
「ロミナー、行くぞー?」
ビーフジャーキーに悪戦苦闘しているロミナも連れ、俺達は再びロステマに向かう。もう一度枯れ果てた薔薇野郎のいた方を見ると、そこには既に何も無かった。黒棘も回収済みなので戻る必要もない。
こうして、長かったような短かったようなガチの死闘は終わり、何事も無くロステマに行けることをどこか願いながらダンジョンを後にした。
ロミナ君がいた謎空間ですが、時と○神の部屋みたいな感じで時間の流れが変わっていたのでしっかりと描き終わっています。凄いですね処刑人って




