2話 ギルドと薬屋
「よし、これからの方針も決まったし改めてギルドに行くぞ!」
「その方針がだいぶ適当なもんだけどな。まぁそれくらいの緩さでいいか」
「…で、ギルドはどこらへんだったっけ?」
「おい。あ、やべぇ俺も忘れかけてる」
二人は先程の出来事で忘れかけていたルートをなんとか思い出しギルド前に着いた。
「そういえば冒険者になるときって登録するための費用とかいるもんなのかな?だとしたら所持金も見とかないと」
「ちょっと待ってくれ。……一応必要らしい。つっても100Gくらいだけどな。あ、元々は1000Gあるぞ」
「なるほどね。じゃあ疑問も無くなったし入って登録するか!」
中に入ると、時間が昼だからか人は少ないがクエストを受けるために依頼ボードを見ている人や、備え付けの酒場のような場所で楽しそうに酒を飲んでいる人達がいる。恐らく皆冒険者なのだろう。
そんな様子に若干気を取られながらもルヴィスは受付と思われる人に話しかけた。中性的な顔なので性別はよく分からない。
「あの、すいません」
「はい、なんでしょうか?あっ、分かりました。新しく冒険者になる感じの人ですね?」
「はい、そうです。どうすればいいですか?」
「では、最初にこの紙に名前と年齢、性別を書いていただきます」
そう言われて渡された紙はリアルでの用紙のようなものではなく若干表面がざらついた紙だった。恐らく羊皮紙なのだろう。二人は近くにあった羽ペンで記入した。
「これでいいですか?」
「はい。では次に、ここにある台にこの針で指を刺して血を付けてください。多少の痛みは我慢してくださいね」
針を刺すと聞いて二人とも少し躊躇したが、これからはこんな痛みはいくらでもあるからこんなの屁でもないと暗示を掛け合いながらどうにかした。
出されていた台は血を付けるとぼんやりと光を発してそこに受付員が先程の紙を乗せると、紙がその台に吸い込まれるように消え、数秒経って何故かサイズがクレジットカードのようになり出てきた。色は白色だ。
「はい、これで登録は完了です。では登録金の100Gをそれぞれいただきます。……ありがとうございます。さて、ここからはギルドに関しての様々な説明をさせていただきますね」
そうして説明された内容は、冒険者ランク、クエストの受け方と依頼の仕方、そしてギルドの規則についてだった。
冒険者ランクは下から白、緑、黄、青、赤、金、そして最上位が黒。この黒ランクは一国に一人か二人いるかもしれないというレベルらしい。
ランクはそのクラスで受けることが出来るクエストを一定数クリアしたり相応の功績を残すと昇格でき、過去には黄から一気に金にまで上昇した英雄的存在もいるようだ。
クエストの受け方は簡単で、依頼ボードに貼ってある紙からやりたいクエストを選び、それを剥がして受付に持ってくれば受けることが出来る。依頼の方はまず専用の紙を貰いそこに依頼したいこと、その達成条件、そして報酬を書いて渡す。
ギルドの規則としては、冒険者同士のゴタゴタには基本関与しないが、故意ではない殺人は罰金、故意ならそこに資格の五年間剥奪が追加される。大体はその時点で盗賊になったりして国の騎士団に討伐されるらしいので、復帰する者はほぼいない。
そして、数年に一度の頻度で発生するスタンピードなどの国の非常事態には特定ランク以上の場合カードが光り強制招集がされる。応じない場合は高額の罰金が待っているので受けないという冒険者は大体が特別な事情を持つ高ランクである。
「………と、こんな感じです。何か質問はありますか?」
「いえ、よく分かりました。じゃあ、早速クエストを受けたいと思います」
二人は依頼ボードの方に向かい、ルヴィスが何がいいかと選んでいるときにシオンが奇妙なものを見るような表情をしながら声をかけた。
「なぁ、ルヴィスよ」
「んー?なんだシオン、受けたいのが見つかったか?」
「いや、お前もあんな話し方が出来たんだなって」
「いやちょっとまって、流石に酷くない?俺でも丁寧な話し方くらいは出来るわ」
「はーん…あ、こんなのとかどうだ?」
「おい、適当に流すのはやめろ…あ、確かにこれいいな。よし、それにするか」
落ち込みながらもクエストを決めたルヴィスとシオンはそのまま受付にその紙を持っていき、受注した。
「さて、クエストを受けたけどどうする?」
「どうするって…あー、そういうことね。流石にこのままじゃヤバイよな」
「てことで薬屋?的なとこに行くぞ!」
「それがある場所は知っているかな?」
「あー……教えてシオン先生」
「オッケー、貸し一つな」
二人は流石に回復系アイテム無しだとキツイと判断し、薬屋に行くことにした。メニューからマップを開けるのでそれを見ながら歩き回ること二十分ほど、二人はやっと薬屋に着いた。
「いらっしゃーい、おぉ?……ふむふむ、君達は新人さんだね?だとしたらこれとこれと…この薬を持っていくといい。値段も良心的にしとくよ?」
入って早々、眼鏡をかけた女性に一目で新人だと見抜かれ、更にオススメのアイテムまで用意してくれた。髪と目は翡翠色で、なんとなくザ・薬屋といった雰囲気を漂わせる。
察しは付くがこの女性は何者なのかと思い、とりあえずシオンが声をかけた。ルヴィスは何を渡されるのか確認中だ。
「あの、あなたはこの薬屋の店主、なんですよね?」
「ん?あー、そんなかしこまった口調じゃなくていいから、ふつーに話しかけておくれ。いかにも、私はここの店主のレミアだ。これからもよろしく」
「あ、はい。で、何故一目で新人だと分かったんだ?」
シオンがそう言うとレミアはニヤリとしてそれを聞かれるのを待っていたと言わんばかりに話し始めた。
「フフフフ…そりゃ簡単さ。何かを殺した、そんな雰囲気がほぼ感じられないからね。冒険者になるとモンスターなり盗賊なんかを殺す機会はいくらでもあるから、その分何かを殺した経験とそういうものをすぐに殺せるという度胸は身につく。私はその雰囲気的なものが分かるのさ。直感ではあるけどね」
「それはまたすごいな…なぁルヴィス、そこには何があるんだ?」
ルヴィスは薬が入っている小瓶を見ながら答えた。
「ここにあるやつは普通の回復薬、毒消し、麻痺治しだな。丁寧に瓶に紙も貼られてる。」
「言っただろう?新人にはオススメのセットをそこに用意しておいたのさ。値段はそうだな……それぞれ五個の合計十五個セットで600Gなんてどうだい?他所だと1.5倍から2倍はするよ?」
「おぉぉ…ありがとうございます。でもなんで安くしてくれるんですか?こんな新人二人組に…」
ルヴィスがそう尋ねるとレミアは先程とは変わって優しい笑みを浮かべる。
「そりゃあ簡単さ。君達には可能性を感じる、それも何かとてつもないことを成し遂げる英雄的なモノだ。私はその勘を信じて君達に良くする。違っていたら百四十六年ここで薬屋をやってる私の勘が外れたってことでこれもまた面白いことになるだろう?」
「面白いって……ん?ちょっと待って、百四十六年?」
「あぁ、言い忘れていたかな。どうやら私は森人と魔人のハーフらしくてね。身体は魔人の、寿命は森人のを受け継いだようだ。あ、森人は二十代から死ぬ十数年前まで見た目が変わらないんだよ。知っておいたほうがいいだろう」
「なるほど…瞳の中に不思議な模様?があるのも種族的なものなのか?ずっと疑問に思ってたけど」
「そっちはまた別だね。昔に薬の素材を集めるために森に入ったら祠のようなものを見つけてね、そこで自分に一つ好きな魔術を使えるように出来るアイテムを見つけたのさ。でも身体のどこかに術式を刻まなくてはならないからどうせだからということで瞳にやったのさ。超痛かったがね!」
その話を聞いて二人はドン引きしたが改めて礼を言うことにした。
「薬をこんなに良い値段で売ってくれてありがとうございます」
「正直この安さでこの量を買えるとは思ってませんでした。ありがとうございます。代金はここに置いておきます」
「気にしなさんな。さ、君達も何か受けているクエストがあるんじゃないか?早く行きなよ」
そう言われ二人はもう一度礼を言って店を出て依頼された場所に行った。
「……さて、と。私もまた素材集めに行くとするかなぁ、『ワープ』」
そう言い残しレミアも店から消え、中には誰もいなくなった。
魔人種は普通の人間種と同じ寿命で、森人は大体4、500年生き、20代の身体になるまでに140年程かかります。彼女は今大体276歳らしいのでちょっと故郷を出るのが早めです。
そして両種族とも魔法の扱いに長けているので彼女はかなり強いです。ランクで言うと金より少し下くらい。