30話 少年は望む、禍々しき薔薇の蠢きを 4
「お、おぉぉぉ……」
正直死んだと思ってたけどギリギリ生き延びたらしい。とりあえず回復するためにポーションをガブ飲みしておこう。うわHP2しか残ってねぇ…
「そういえばなんか人っぽい叫び声になってた気がしたけど、どうなったんだろ。これでまだ形態残し「死ネェエ!」てえぇぇええ!?」
あっぶな!?えっ何今の、短剣?いやその前にさっきの声はなんだ?ロミナの声では無いのは確かだ。
「何だ……?巨人、みたいなシルエットだけど――オイオイオイマジかよ」
「殺ス、殺ス殺スコろスゥぅゥア!!」
さっきの爆発の影響での土煙が晴れると、そこには全身が植物で出来た巨人が立っていた。しかも殺意を全開にしてこっちに向かってクラウチングスタートの姿勢を取り始めてってあれこれヤバくね?
「『縛レ魔蔓栄光ヲ』ァアアァア!!」
「ヤッバ逃げ…っ!嘘だろオイ!?」
急に蔓が出てきて体をその場から動けないように固定しようとする。咄嗟に逃げようとしたがまさかのホーミング性能搭載してやがった、どうなってんだこの蔓。しかも植物巨人は縛りつけられてる俺に向かってやけに綺麗なフォームでダッシュしてきている。えぇい離せ!こんなことなら除草剤を……おっ?
「意思持ってるなら痛覚もあるだろ多分!オラァ!」
何でか知らんけど固定されるのが上半身だけで良かった。巻き付いてる蔓の地面に近い部分を思いっきり何回か踏みつけると痛がるような素振りをして拘束が解けた。そして植物巨人が振りかぶった拳があと少しで当たりそうだった所を寸前で回避する。
「オ゛オ゛ォ゛ァ゛ァァァ゛!!!」
「どうしたどうしたぁ!ご自慢の蔓を踏んづけられてしかも脱出されるとか案外大したことねえんじゃねえのか!」
攻撃の回避ついでに煽ると対人なら相手がキレて冷静に判断できなくなりやすいんだよな、ソースは俺だけど。
そんなことより改めて観察。見た感じレイドボスの…何だったかを二回り小さくしたみたいだな、全身植物で構成されてる。なお『鑑定』も使ったけど名前は変わってなかった、これで良いのか運営よ。
「薔薇要素見当たらねぇ…あぁ、あの頭についてるやつか」
「ウオぉォぉオォおオ!!」
「変身前より動きが分かりやすいんだよなぁ!」
再び走りながらこちらに迫りくる巨体を躱してついでにダメージも与えておく。いややっぱり今の方が対処しやすいって、某先生リスペクトで走りながら種バラ撒かれると途端にキツくなるけどな。
「いやぁチョロいもんだ…な?」
ふと辺りを見回すと、今立っている場所から三メートルも離れていない場所で集中して絵を描いているロミナの姿があった。なんてこった、知らないうちにめっちゃ危険領域にいるじゃねぇか。あっ、植物巨人くんもこっちに混ざりたいみたいだね!
「んなことさせるかクソッタレェェェ!こっち来いやオラァ!」
「死ネエェェェエ!」
それくらいしか発言できるマトモな言葉無いのかと言いたくなったがそこは抑える。急にロミナの方へ方向転換されたりしても困るので『デコイ』も発動させてこっちしか向けないようにしてやる。
「すれ違いざまの切りつけにはご注意くださいってなぁ!ついでにもう一回!」
「ア゛ァ゛ア゛ア゛ァァ゛ァアア゛ア!」
脚を攻撃され少しバランスを崩したところを更に追撃していく。にしてもなんでこんな簡単に……あぁ、でも思い違いかもしれないからもうちょっとこのまま戦ってみよう。
「そら起きろ起きろ!このままちっぽけな人間一人に負けていいのか!」
「ヴォォオアアァァア!」
人型になってから戦い始めて十五分くらいが経過した。途中でロミナの方に突撃しそうになったのをギリギリで阻止したりと問題もあったが、確信したことが一つある。
「殺意バリバリな割には花のときみたいに蔓使いながら攻撃してきたりしないのなお前。そりゃさっきに比べたら楽だわな、短剣飛ばして来たりもするけど避けられないわけでもないし」
「グウゥォオ……ォォォオアアァアア゛ア゛ア゛!!!グアァ!?」
「うわめっちゃうるせえ!」
なんか最初よりもしっかりした言葉使わなくなったなー、とかのどうでもいいことを考えながらも警戒していると、急に頭部にダメージを受けたかのように植物巨人が座り込んだ。何事かと思ったがよく聴くと何か言葉を発しているらしい。
「―――〈私ハ憎ム、全テヲ恨ム。牢獄ニ閉ジ込めタ者共も何モカも殺し尽くしテやル。おォ同胞ヨ、我等はそノ身体だケデは無く、持ちうル全てヲ用イ敵を滅ぼス者也」
「んん?……なんだ?何かへの宣言…?」
何か嫌な予感を感じ更に耳に意識を集中させていく。何かしら妨害した方が良いのだろうが、何故か体は動くことを許さない。しかも妙なオーラを纏いながら徐々に植物巨人は立ち上がろうとしてきているというありがたくないオマケ付きだ。
「然らバ我に枷ナど不要、今力をこコに……!」
そこまで聴いてやっと気付いた、力がどうこうって言ってるときは大体この場合が多い。
「詠唱…?って、だとしたら結構ヤバいことにな―――」
「今こそ目覚め、我等の憤怒、憎悪を解き放つ時。『轟醒・魔薔〉」
轟、という音と共に暴風が襲いかかる。思わず顔を背け、もう一度視線を戻すとそこには先程とは似ても似つかぬ光景が広がっていた。
「あぁ、同胞の嘆きが聴こえる…そう、そうだ。貴様ら放浪種などという存在にどれだけ我が同胞が命を落としたか!死すらも、痛みすらも無とする者共よ!我等の憤怒に呑まれよ!」
★緊急討伐個体出現!特殊個体"憤激の薔魔人"が発生しました。遭遇した者は黒ランク未満の場合即座に逃走を推奨します。(討伐推奨Lv97)
警告!この個体との戦闘では死亡時復活不可能となりますので十分に注意してください!
「…………おいおい、いくらなんでも嘘だろう…?どうしろってんだよ」
あぁ、これが俗に言う詰み状態ってやつか。体中に絶望感が広がっていくのが分かる。前にも遭遇した特異種ブラッドオーガでもこんな警告は出なかったぞ?しかもなんだよ死亡時復活不可能って、ここでだけガチのデスゲーム…いや、生きる者としての戦いを強いられるってことか?
おまけに討伐推奨Lv97?バカ言え、俺のLvはまだ32なんだぞ?トリプルスコアだぞトリプルスコア。
「…なんだ?つまらん、履いて捨てる程もいる雑魚…いや、貴様からアイツらの残滓を感じるな?であれば今ここで殺してやろう。我等の怒りの贄となるが良い!」
直後にテレポート、いや見えないくらいの速度での移動か?とにかく目の前まで移動してきた憤激の薔魔人…長いな、薔薇野郎でいいか。死ぬ前にこんな事考えてても仕方ないけど…あぁ、拳が振りかぶられて―――
憤激の薔魔人
その薔薇は同胞の声を聴く。そして聴く原因となる者への強い怒りはやがて凶悪な力へと変貌していくことになる。対峙した者は如何なる手段を持ってしてもその怒りに魂を打ち砕かれ、蘇生することは不可能となってしまうだろう……




