27話 少年は望む、禍々しき薔薇の蠢きを 1
「『スウィフトステップ』、『朧突』!」
「yrryyya!」
禍々しくも美しい蠢く薔薇を微かな月光を宿す刺突が穿つ。その攻撃は茎を貫通せんとするがその進みは途中で止まる。
「やっぱり防御するよか避けたほうが楽だなあばぁ!?」
並の金属でも切り裂く花弁を避けた直後に蔓に打ち据えられて男が吹き飛ぶ。そして吹き飛ぶ方向にさらなる攻撃を仕掛けるために薔薇は準備をする。
「今に限って火炎放射はやめて欲しかった!おあぁァァ足があるって素晴らしいわ『アクセルダッシュ』ゥ!」
「glbosyrraaaaa!」
吹き飛んでいた男に向かって放たれる火炎放射は、寸前で男がその力を走力に変えて更に瞬間的に加速したことにより躱される。今度は捕まえて地面へ叩きつけるべく蔓を伸ばすも、これも跳躍されて失敗に終わる。そして男は仕返しと言わんばかりに先程よりも強く月光を纏う剣でその蔓を切り飛ばす。
「どうしたどうしたぁ!そんなんじゃ捕まえられねぇぞあっちょ待って棘飛ばさないで『四ノ剣-上弦』!」
男が慌てて剣をDの字に振るいながら発動したスキルにより、彼の前に先程振った軌跡の形をしたシールドが発生する。直後に無数の棘が全方位にばら撒かれたが、突破できずに勢いを失いポトポトと地面に落ちていく。
「うっわ怖え…だがチャンス!『鬼化』ァ!そして……」
走って薔薇に接近しながら発動した鬼種の種族スキル『鬼化』によって額の角が三倍近い長さになる。
更に先程まで何度か月光を纏っていた剣は怒りに燃える鬼の如き朱色を纏っていく。それに危険を感じたのか薔薇は今まで使っていなかった蔓や麻痺させる花粉などを総動員するも、その尽くを避けられついに至近距離への接近を許してしまう。
「今まで受けた攻撃と受けるかもしれなかった攻撃の分の仕返しだクソ花!理不尽最高『癇鬼討斬』!」
「qkuvaaaahhhhhrr!?」
『朧突』によって付けられた傷に丁度重なるように振り切られた理不尽極まる反撃は、大木ほどもある茎を断ち切らんと押し込まれる。
「ふおぉ意外と硬ぇ!でもすっげぇ楽しいFooooooooooo!!!」
その硬さに更に高揚して奇声を発しながらより強く力を込める。薔薇もこのままでは切り飛ばされ死んでしまうためあらゆる手段をもって妨害しにかかる。そして―――
「発動中に攻撃されても威力上乗せされるんだよ不思議だなバーカ!どっせぇい!」
「gyaa゛a゛a゛a゛a゛………」
怒り狂う理不尽な鬼の斬撃はついにその茎をも切断する。それによって今まで活発に動いていた蔓なども全て急に動きを止めそのまま枯れ落ちていき、そして薔薇も萎れていった。
「…お、おおおぉぉぉっしゃあぁぁぁぁぁ!すっげぇ疲れたぁ!」
「うわ、マジでやったなアイツ。てか発狂モード吹っ飛ばしてそのまま倒してたな」
「というか何あの最後のやつ。受けるかもしれなかった攻撃の分もカウンターするってえげつない理不尽さじゃないの……」
「ちなみにかかった時間は一時間半だね!よくもまぁこの長時間動き回れるもんだよねぇ」
「ゼェ、ゼェ、ゲッホウエェ…あ、三人ともいたの?てか一時間半ってマジ?二時間くらいかかったと思ってた」
そう言いながら達成感に満ち溢れた顔をしてその場に仰向けに倒れているが、実はまだこの挑戦には先がある。
「ふー、よいしょっと。さぁて次は実際にアイツと戦うぞぉ……今回みたいにやればいけるはずだ」
そう、今しがた撃破したのはあくまでもレミア謹製の高性能カカシであり本物の邪花木薔薇ではないのだ。そしてこの勢いで挑もうとするルヴィスに待ったの声がかけられる。
「その前に今日は休めよルヴィス。もう大分遅い時間だからな」
「挑戦開始から十四回目、一つのことに夢中になるのはいいけど程々にね?シオン君の言う通り今日は休んどいたほうが良いよ」
二人の言葉に若干抵抗しようとはしたが、冷静になってみると自分が今とても疲れていることにルヴィスは気付いた。おまけに武器も最後の攻撃が原因なのか、至るところにガタがきている。
「にしても一人で倒せちゃうもんなのね。最初見学したとき麻痺ってから火炎放射直撃してたから不安だったけど」
「あれ実戦だったら間違いなく死んでるんだろうな…全力で避けるわ」
回復ポーションを飲んだことで、細かい傷なども癒えていく。そしてHPが完全に回復したのを確認して改めて時間を見ると、既に夜十一時を超えていた。普段寝るのが十時頃なので完全にオーバーしている。
「うわ、もうこんな時間か。皆は先に寝てても良かったのにごめん」
「謝る必要なんて無いさ。私達もどうなるのか気になったからね、あと普通に見てて楽しかったし」
「変な声出しながら戦ってるのはちょっとアレだったけどな。……あー、なんか急に眠くなってきたわ」
「なんだかんだこっちも緊張してたのかも知れないわね。じゃ、私は先に寝るわ。ルヴィスも早く寝たほうがいいと思うわよ?」
その後、カカシとはいえ倒せたことに興奮して結局ルヴィスはあまり眠れなかったらしく、翌日若干隈ができていた。
「装備よし、その他諸々よし。じゃ、行ってくる!」
「おー、行ってらー」
「一人なんだから死なないようにね。と言っても、戦い始めたら勝つか負けるかのどちらかだけども」
「忘れそうだから言っとくけど、料理とかでバフつけときなさいよ?HPリジェネとか」
「親かアンタは。でもありがとう」
そう言うとルヴィスはネレモアに繋がるポータルへと足を踏み入れる。そして一瞬の違和感が無くなってそのまま出るとそこはネレモアの方の検証場だった。
「…よし、ひとまずは道中でやられないようにすることだな」
外に出て泥花の植園での立ち回りを考えながら向かう。そのまま歩いていると、ルヴィスは何か自分に向けての声らしきものが聞こえることに気付いた。
「……さん、お兄さん!」
「んー?うお近っ!?」
「あぁ、やっと気付いてくれた」
ルヴィスの背後にいたのは、十三歳程に見える少年だった。ただし頭にはベレー帽、腕に抱えているのはキャンバスボードらしきもので、まるで絵描きのようである。
「どうしたんだ?何か落とし物でもしてたかな?」
「いえ、実はお兄さんに頼みたいことがあるんですが、大丈夫ですか?」
少年がそう言うと、ルヴィスの目の前に半透明のウィンドウが表示された。
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難易度 黄++ unique!
魔花へと愛を込めて
報酬 ??????
※このクエストはユニーククエストとなります。
拒否することも可能ですが受注しますか?
‹はい› ‹いいえ›
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普段受けるクエストとは違い最低限の文章、しかも報酬は不明という怪しさ満点の、だがユニーククエストという単語が興味を引くウィンドウを前にルヴィスは一瞬で考えを纏めようとする。
(どうする?格好を見るに絵描き、しかもなりたて?いや、他種族の可能性もある。となると、求められるのはアイツを描き終えるまでの耐久レースか?いやでも―――)
「あの、どうしましたか?やっぱり駄目、ですかね?」
「えっ!?あ、あぁごめん、全然大丈夫!……ぁっ」
普段の癖で肯定の生返事を返すと、よりにもよってウィンドウ上で‹はい›を選択したことになり、それっきり表示されなくなってしまった。
「(おああァァやらかしたァァァァ!!?ヤバい、何がヤバいってこれでアイツの強さが跳ね上がったり特殊行動かましたりされるとヤバい!てか描き終えるまでの防衛+そこから発狂移行した姿も描きたいとか言われたらマジで死ぬ!いやでも報酬……)」
「ホントですか!?ありがとうございます!実はこっちに行く人に声をかけても皆に断られてしまって、今回も断られちゃったらどうしようかと……」
その言葉にルヴィスは考えることを遥か彼方へ投げ捨て―――
『四の剣-上弦』は発動しながら描くDの形にバリアを展開するスキルです。範囲は使用者の半身が収まるくらいなので使うときは自分の右半身へのダメージを抑えるなどが有効です。




