0.5話 始まり
なんとなくで始めることにしました。
色々拙いところもあると思いますがよろしくお願いします
「ありがとうございましたー」
家電量販店から聞こえる声を後に一人の男が歩いていた。
「やっと買えたぞ…朝早くから並んだ甲斐があった」
「おー、良かったじゃん。それで、こっから奏夏はそれにのめり込むのか?」
「そうしたいんだが…課題全然終わんねぇからなー。手伝ってくれないか?紫音」
「えぇー、そんくらい自力でやったら?まぁ手伝うけどさ」
「マジ助かる」
二人は少し肌寒くなってきた街中を歩きながら話している。課題がやれていない男は御月奏夏、手伝うほうは秋月紫音だ。
彼らは新発売のVRMMOである『ファトゥムオンライン』というゲームのために発売日の早朝三時頃から並んでいた。
このゲームは五感をほぼ完全再現!や、もうNPCだなんて言わせない!高性能AI搭載!などの今までは技術的に不可能と言われた二つの壁なぞ知らぬと言わんばかりに大々的に売りに出し、九割ほどの疑念と一割にも満たないような期待を込めたβプレイヤー達にそれが嘘ではないと分からせた。
その結果、サービス開始前から話題沸騰となったゲームを入手した二人は、まず学校から出ている課題を終わらせるために奏夏の家に行くことにした。
「まだやるべきものが残ってると集中できないだろ?」と紫音が言ったのでさっさと終わらせることにしたようだ。
そしてVRと言うからには当然専用の機器も必要となるのだが、二人は以前からオフラインタイプのVRゲームなどをやっているため既に持っている。クソゲーやバカゲーの類を掴まされて嘆いた事もあるようだが、それもまた醍醐味ではあるのだろう。
「ただいまー」
「はーい。あら、紫音君じゃない。勉強を教えに来たのと……なるほどね。早く終わらせなさいよ?奏夏」
「わかってるよ姉さん。多分あれくらいすぐに終わる終わる」
「ホントかねぇ…あ、お邪魔します。綾芽さん」
なんだかんだで二時間以上かけて課題を終わらせた二人は早速始めることにした。ちなみに奏夏の両親は別々の仕事で他県へ行っているのでしばらくはいない。紫音のほうは親に許可をとったので問題はないそうだ。
「さて、始めるか…えーっと、これをセットして…よし」
「準備はいいか?奏夏」
奏夏はそれに頷き、始めるための言葉を口にした。
「「ダイブ!」」
「ようこそ、ファトゥムオンラインの世界へ。ここはメイキングエリア。あちらの世界、通称セリフォトで活動するためのアバターを作っていただきます」
目を開けるとそこには執事のような姿をした男性がいた。見た目は二十代前半で銀髪に同じ色の瞳だ。
周りを見回してみると、今立っている場所は草原のような場所のようだ。遠くの方ではファンタジーの王道的存在であるドラゴンのような姿や、それを捕食せんと襲いかかるどうみてもバナナにしか見えない巨大な何かなどが見える。
「…バナナ?明らかにドラゴンよりデカいバナナ?」
「あちらが気になりますか?実際にセリフォト内にも生息しているので見る機会があると思いますよ。申し遅れました、私は管理人の一人であるファルトと言います。以後お見知り置きを」
「はい、俺の名前は…どうしようか」
「どうしようか、とは?」
「いや、こちらでの名前はもう決めてるからな。そっちを名乗ったほうがいいかな?」
「どちらでも構いませんよ」
「じゃあ…元のほうでは奏夏、こちらではルヴィスだ。よろしくな、ファルト」
「はい、ルヴィスさん。では説明に戻りますね。アバターはまずあなたの姿をそのまま見せますのでそこから自分で設定してください。変えられるのは髪に関する全般、顔のパーツ、身長になります。性別に関しては変更出来ませんのでご注意ください。髪は最長でもアバターの身長までです。ここまでで質問はございますか?」
「いや、大丈夫だ。とりあえずどんな感じか見てみないと分からないしな」
「分かりました。では、お好きなように設定してください」
ファルトがそういうと奏夏、もといルヴィスの全身像が彼の前に出てきた。どう変更するのかと悩んでいると近くにタッチパネルのようなものがあらわれた。どうやらこれを使い変更するようだ。
「どうするかな…髪色をこうして、顔は…まぁ目の色変えるだけでいいかな。背丈は変えないで、うーん……まぁこんなもんかな」
そうつぶやきながらも、十五分くらいでルヴィスはアバターを完成させた。
「できましたね。次は種族選択です。人間、獣人、森人、通称エルフですね。それとドワーフ、そしてランダムがあります。ランダムでしかなれない種族もあるのでそれ狙いならランダムもありです」
「へぇ…具体的にはどんな種族があるんだ?」
「そうですね……比較的当たりやすい種族だと機人、精霊種、鬼種などですね」
「なるほどね。それじゃあ…ランダムにしよう」
「ランダムでも人間などになる可能性はありますがよろしいですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
ファルトの目に一瞬金髪の紙装甲の男がルヴィスの後ろに見えた気がしたが、気のせいだと思うことにして次の説明に移ることにした。
「次は基礎職を選んでいただきます。これには大雑把にまとめて戦闘系か生産系のどちらかから選んでいただき、そこから更に細かく分かれるのでまずはどちらにしたいかを選んでください」
「生産系もいいけどなぁ、うーん……どうせだから戦闘系にしよう」
そう言ってルヴィスが戦闘系を選ぶとそこから更に物理系、魔法系と書かれたパネルが分裂するように出てきた。
「説明をしますね。物理系は剣士や弓士、拳士などの職があります。魔法系は魔術士や召喚士などがあります。後々説明しますが物理系は攻撃力が、魔法系は魔力が威力に繋がります」
「どうしようかな…剣とか弓もいいけど魔法も使ってみたいし……よし、定番の剣士にしといて魔法は縁があったらにしとこう」
ルヴィスは剣士を選択した。
「次はステータスの割り振りです。ステータスにはHP、MP、攻撃力、防御力、魔力、精神力、敏捷力、そして運の八つです。最初からHPは10、MPは5振られていて、そこからSP、つまりスキルポイントをこちらからまず60プレゼントしますのでお好きなように割り振ってください。ステータスを開くときは念じながら『オープン』と言うだけで開けます」
「わかった。…『オープン』」
そうルヴィスが言うと目の前にパネルが出てきた。今までは薄い緑色だったが今回は薄い青色だ。
ルヴィス 男 Lv1
HP 10/10 MP 5/5
攻 0 防 0
魔 0 精 0
敏 0 運 0
スキル 初級剣術Lv1
称号 なし
SP 60
「なるほど、こんな感じなのか。さて、剣士だから攻撃力をこうして………」
ルヴィスはあーでもないこーでもないと悩みながらもステータスを割り振り終えた。
「お疲れ様でした。以上でアバター作成は終了です。向こうの世界をどうぞお楽しみください!」
「あぁ、でもその前に一つ聞きたいんだけどいいかな?」
「なんでしょうか?」
「あー、管理人のアンタに言うことではないんだろうが……また会えるか?この世界で一番最初に接した人だからさ、またどこかで会えたらいいなって」
そうルヴィスが言うとファルトは少し驚いたような顔をしたがすぐに笑い、そうですね、また会える日があるかもしれません。と言った。
「そうか、じゃあ今度こそ行くよ。またな、ファルト」
「!……えぇ、また会いましょう」
そうしてルヴィスは用意された扉のような場所からファトゥムオンラインの舞台であるセリフォトへと旅立った。
「……面白い人でした。本当にまた会えるといいのですが」
★ルヴィスは称号"管理人の友人"を手に入れた。