8話 レミア薬局にて
「今度こそ、今度こそは謎の薬屋の正体を突き止めるぞ……!」
ある建物に隠れるように、一人の男が何故か壁を監視するかのように見ていた。
彼は掲示板で話題になっていた謎の薬屋の第一発見者で、他のプレイヤーは早々に運営のバグだと思って存在を諦めるなか、たった一人でその存在を追っているのだ。
「と言っても、何か実在する証拠が無ければ意味が無……うん?あの三人組、薬屋があるはずの壁に向かってる…まさか!?」
彼の思ったとおり、その男二人に女一人の三人組は謎の薬屋があるはずの場所に存在する壁をすり抜けて消えた。そのうちの女はこちらを少し見ていたのだが、ついに薬屋が存在するという証拠を発見した喜びで彼は気づいていない。
「よしよしよし、この動画を掲示板に上げれば入る条件とかも分かるし何よりこの三人ともコネができるはずだ……!そうと決まれば早速…」
そのまま彼が撮影していた動画を掲示板にあげようとした瞬間、謎の衝撃が彼を襲いそのまま意識を途絶えさせた。
「レミアさん、今何かしてませんでした?あとテンションも戻りましたね」
「ん?あぁ、近くに不審者がいたから『ショック』を使ってそいつを気絶させといたんだ。ついでに申し訳程度の管理人権限を使って記憶も弄っといた」
「それ、他の管理人から怒られません?それかペナルティとか」
「大丈夫さルヴィス君。どうしても使わざるを得ない状況なら使っても良いようにはしてあるからね。あと、今更だけど私相手ならタメ口で話してもいいんだぜ?出会ってすぐの頃にも言ったけど」
「いや、レミアさん一応管理人だし……分かった、これでいいでしょ?」
「うぅむ、まぁそんなもんか。っと、そろそろ入ろうか。たっだいまー」
「……大変だな、ルヴィス」
「いや、お前も一緒だからな?」
二人が店内に入ると、既にレミアは奥の方にある階段の前にいた。早く来なよ、と呼ばれたので二人も二階へと上がった。
「お邪魔しまー……うわぁ」
「部屋を見て早々うわぁとはなんだいシオン君!いやまぁ確かに客観的に見たらそんな声が出るのも分かる気がするけども!」
「いや分かるなら掃除しなよ……ほら、ルヴィスも来い来い」
シオンが上がって早々にこんな声を出した理由がルヴィスも二階に上がったことで分かった。汚いのだ。
正確に言えば、薬品やその素材と思われるものは丁寧に棚に仕舞ってある。しかし、大量の書物がその丁寧さを台無しにするかのように積み上がっていたり本の山が崩れたりしているため、これのせいで足の踏み場が見当たりにくくなってしまっている。
「あぁ……うちの姉さんを思い出す部屋の汚さだぁ。あの人家事はほとんどこなせるのに掃除だけ全然出来ないんだよなぁ………」
「ぐぬぬぬぬ……こうなったら掃除だ!流石に第一印象が掃除しないズボラ女だと思われたくはないからね!」
「……色々言いたいことはあるけど、綾芽さん、掃除できないんだな」
「あぁ……掃除出来ればオールパーフェクトなのに一番大事なところがな…」
どこか遠くを見つめるルヴィスとシオンの前で、レミアは全力で掃除兼書物整理をしていた。何故か三人ほどに増えているように見えるが、それも魔法の一つなのだろうと思うことにして二人はしばらく待つことにした。
「ぜぇ、はぁ………や、やっと終わったぞ二人とも!まさかここまで時間がかかるとは思っていなかったがね!」
「だからここをこーして……あ、終わったみたいだぞシオン。すごい時間かかったな?」
「すぐ終わるかと思ったが、今が十八時だからー…結局二時間くらいかかってたな。そんなに大変だったのか?」
「いやぁ、懐かしいものが出てきてはそれを見たりしててね。それでどこまでやったか忘れたりして何回もやり直す羽目に……」
「「いや、集中してやれよ」」
二人の無慈悲だがその通りな言葉に、レミアは何も言い返すことが出来なかった。なにせ分身する魔法を使っていたのに、四人の分身も本人と同じようなことをしていたのだ。
「うぐぅ……そ、それはともかくだね!時間もあれだしそろそろ晩ごはんにしないかい!?というかさせてくれ!慣れないことをしたせいで腹ペコなんだ!」
「はぁ、分かった。で、流石に料理はできるよね?」
「流石にとはなんだい!百四十六年間ずっとぼっちだったんだ、自炊くらい嫌でも覚えるさ!」
「じゃあ、任せた。さてルヴィス、さっきの続きをするぞ」
レミアが張り切って一階にあるらしいキッチンへ向かったのを確認すると、二人は暇つぶしにアイテムボックスに余っていたもので作ったオセロモドキを再開した。
「ごちそうさまでした。うん、ここで謎の物体α的なものが出てこなくて良かった。なんかドタバタしてたみたいだけど」
「あー、この人数分の料理を作ることを考えてなくてね。皿とかを魔法で作り出していたんだ。そしたら今度はしまう場所とかにも難儀してね、色々拡張したのさ」
「拡張って、魔術で?よくある空間魔術的な?」
「そうそれ、………あっこれ言ってもいいやつかな…まぁいいや、他言はしないでくれよ?『空間魔術』は『無属性魔法』を色々やってなんやかんやしたら使えるようになるものだ。私も研究部屋を拡げたいがために十年以上かかったものだよ…」
「取得条件が曖昧だ……で、それは部屋の拡張以外にどんな使い道が?」
ルヴィスにそう質問されると、レミアはそういえば考えたことが無かった。という顔をして紅茶を飲んでいた手を止めた。どうやら本当に部屋の拡張だけが目当てだったようだ。
「うーむ、他の使い道かぁ……二人とも、使い道で思いついたものをてきとーに言ってみてくれないかい?私なら多分できると思うからね」
自信満々なその言葉に、二人は思いついた分だけ用意された羽ペンと紙に書いていった。
十数分後、二人は全て書き出してレミアに渡した。その間彼女は別属性の魔法球の合体を試していたようだ。
「はい、じゃあこれが出来そうなこと一覧。ホントにやれるの?」
「出来らぁ!……おっと、もちろん出来るだろうとも。明日にでも森…は今ダメなんだった。人目のない広い場所でやろう」
「そんな都合のいい場所知ってるか?シオン」
ルヴィスがシオンに尋ねるが、シオンも知らないというように首を降った。それを見たレミアはまた見た人が不安になる怪しい笑みを浮かべて、まぁ、明日になれば分かるから楽しみに待ってなよ。と言った。
「あぁ、また今日の朝みたいな不安感が……よし、不安になりすぎる前に寝よう。時間もちょうどいいくらいだし」
「あー、二十一時くらいか。なら俺もそうするか……では、おやすみなさい。………まともな場所ですよね?そうですよね!?」
「大体まともだから安心して寝たまえよシオン君。じゃ、私も食器片して寝ようかな、おやすみー」
ルヴィス達が完全に寝た午前零時頃、レミアは薬屋にある地下の空き部屋に来ていた。
手には一見ただの棒に見えるが、近くで見ると謎の文字がびっしりと書かれた短杖が握られている。それを持ちながらレミアは精神を集中させはじめ、大幅に短縮した呪文を詠唱した。
「〈我は狭きを拡げる者。妨げる者は此処に無し。『エクステンション』〉………ふぃー、流石に疲れるね。じゃ、この部屋にこれをかけてっと…権限発動、〘アンブレイクプロテクト〙」
権限を使ってまでして作成した部屋の壁に試しに魔法をぶつけて傷一つつかないことを確認したレミアは、流石は権限だね、これなら大丈夫だ。と満足気に言いその場を離れていった。
来年もよろしくお願いします。




