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52ヘルツの悲鳴  作者:
1/1

いち、

窓の外から鳥の声が聞こえる。いつしか聞こえる鳥の鳴き声は、ひどく単調に、毎日同じ音色を奏でるようになった。カラスやすずめはもちろん、今まで都心にはいなかった鳥の鳴き声が様々にミックスされ、朝日が昇ると同時に人々の耳に心地よい音色を届ける。いわゆるヒーリングに近い音色、それらを現代人は強く求める傾向にある。少し滑稽な話ではあるが、ストレスフリーをできるだけ実現するために、政府がとった些細な施策の1つだ。無論、それらの鳴き声の持ち主は生き物ではない。日々、私たちの気づかないところで自然のモノはどこかへ隔離され、代替品ーAIにオリジナルのパターンを記憶させた、 いわゆるロボットーにすり替えられるようになった。私たちの認識の外で、文明は着実に自然からの離脱を進めている。自然との共存を決別するのと裏腹に、自然への愛護を訴えるように変化していった。


「今日こそは家に帰れるといいな」


大きなあくびをしてデスクの下からごそごそと這い出てくる、僕はそう、昨日もこの雑多としたデスクの下に寝袋を敷いて仮眠をとった。今の時代、こんな劣悪な環境で働いているのなんて僕ぐらいに違いない。


「ロボットが作る朝飯は、こんなにも美味くて均一で温かいなんて、100年前の人間が聞いたらどう思うかな」


何もかも、自動化した社会。人々は働くことを忘れたかのように、自然活動に勤しむようになった。生命の保全、これが今一番の人類のトレンドらしい。生命の保全とは、人間の生活という意味ではない。自然、あらゆる生命、自分たちの子孫繁栄、そういったところだ。

また、衣食住が満たされた社会で人々が選択しはじめたのは、今までの戦争社会で時に必要性が低いと考えられていた、芸術やスポーツ、ガーデニングや言葉遊び、、、

生きることへ直結しないコト。

そんな中で僕はエンジニアとして、人々を管理し生活を支えるロボットたちのケアをする職についている。今や働かなくとも生活に困らなくなった社会で、エンジニアを続けようなんて奴はよっぽどの物好き扱いをされる。そのためエンジニアの人口も減少傾向、ひと昔前のブラック企業だったか、それらに匹敵する忙しさだ。

ただ、エンジニアは一般の人々と画一した特権を与えられる。働かずとも困らないといっても、人間みな暇には耐えかねるようで、誰かしら従来から残っている仕事には就いているが、エンジニアはそれらとは違う。昔の人間国宝みたいなものだ。必要な知識、技術、様々なテストに合格しないとエンジニアになることは許されない。過酷な仕事にリタイアするものも多く、志願者も少ない。エンジニアはそういった理由から人々の中では特別な存在となっている。


「僕は好きでやってるんだけどね」


とある人から依頼されたプログラムの構築。僕の売りは報酬の高い政府からの依頼にこだわらず、一般人からの依頼にも格安で応えるところ。

その仕事に誇りも持っているし、やりがいも感じている。今構築しているプログラムは、亡くなったペットのコピー、アンドロイドを作ってほしいという依頼だ。これはなかなか難しい。いっそのこと、脳みその記憶をデータコピーでもできればいいが、実際にその技術はまだ確立されておらず、僕がやるのは生前のペットの行動に関するありとあらゆるメモ、動画などをパターン分析してアンドロイドへ読み込ませる方法だ。割と精度は高く、依頼者からの評判もなかなか上々。

今の社会でも、生き物を家族として迎え入れ、ペットにする人はそう少なくはないが、ペットを飼うにも登録が必要で一家に1匹まで、という定めがある。絶滅しない程度に生産・保護されているので、ペットと共に生きるということは、ペットの飼い主資格者という登録をする面倒な手続きも伴うこととなる。そして、そうした手続きの末、1匹を家族として迎え入れるわけで。その後、何年か経ったあと、その大切な家族を失うことに耐えられる人間はそう多くはない。なので、大抵の人は、最初は生きているペットを迎え入れるが、そのペットが寿命を迎えた後、そのペットの生き写しのようなアンドロイドを家族として迎え入れるというケースは多くある。ちなみに、アンドロイドのペットを迎え入れる場合、登録制度も資格も不要である。


「ほら、サクラ、お前はご主人のことちゃんと覚えるんだぞ」


プログラムも然り、見た目も実物そっくりに仕上げる。外見を作ってくれるのは、この仕事のためだけに改良を重ねた3Dプリンターだけどね。この精密さも、なかなか好評。今回はこのサクラという名前の柴犬。人懐こく、かしこく、主人に忠実…飼い主から得る情報だけではなかなか正確な再現は難しいので、映像やペット登録されるときの潜在的なデータを基に性格を作っていく。

このサクラは人懐こく愛嬌があるが、どうも賢さという点ではなかなか難点がある子だったようだ。飼い主からすると目に入れても痛くないほど、すべてがよく見えていたものだから、今回は行動パターンを再現するのにかなり時間がかかった。


「サクラ、引き渡しの時までにちゃんとご主人のこと、()()()()()()()()


サクラは、ワンッ!となんとも犬らしい返事をくれた。この仕事をはじめてからもう6年ほど経つが、引き渡しの時にはいつもドキドキする。ちゃんと分析がうまくいって、本物と同じように動くだろうか。飼い主が違和感を覚えないだろうか。その不安は依頼を受ける度についてくるもので、今まで1度たりとも自信を持って引き渡せたことはない。僕が作るのはオリジナルのコピーでない、あくまで人の記憶、映像、様々な情報をつなぎ合わせた模造品にすぎないからだ。

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