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深淵のアリス  作者: 沢森 岳
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4 人類統一機構UN

説明的な文章です。

書かずに済ますわけにもいかないのです…。

 人類が、太陽系外に居住可能な惑星を得てから既に数千年。

 光を超越する速度での移動手段をして、人類の探査した領域はこの天の川銀河の二割に及ぼうとしている。可住惑星は百を超え、いまや人類の総人口は推定で千億以上。正確な人口動態などは、もはや誰にも分からない。


 科学技術の進歩により核融合のエネルギーを得て、人類は先ずその存続のためのエネルギー問題を解決した。

 地球上に偏在していた化石燃料等のエネルギーは、その偏在性と共に有限であるが故に人類に諍いの種を蒔いたが、技術革新により得られた圧倒的なエネルギーは、地球環境への負担を軽減しつつ、奪い合うことを過去の過ちへと変えていった。


 ただし、西暦時代の産業革命時にも全ての人にメリットばかりがあったわけではないのと同様に、あらゆる進歩は、過去へと追いやられる側をも作る。潤沢なエネルギーは様々な問題を解決すると同時にまた新たな問題を生み出し、それがまた更なる技術の進歩を催促する。

 そうして人類は持てる技術を発展させ、擬似的に重力を発生する機構、エネルギーを推進力に変換する機構、究極のエネルギー源となる対消滅機関、そして超光速での移動を実現する技術を得て、ついには太陽系外への進出を果たしたのだった。


 宇宙進出にあたり、人類は統一機構"UN"-UniversalNation-を設立した。

 宇宙開拓史の初期において、居住可能な惑星の探索とそのテラフォーミング事業には人類の総力を結集する必要があったし、事実、しばらくの間UNは意思決定と実行のために有効に機能していた。


 人類最初の移住惑星は、計画的な改造と開発ののち、UN本部と付帯組織が地球から移設されて「デルフィ」と呼称された。その名はかつて世界の中心とされていた古い地名にあやかったものだ。

 地球からデルフィまでは、超光速の宇宙船であっても結構な日数がかかる。これは地球とデルフィとの間に限らず、全ての星系間に言えることではあるが、この物理的制約によって、双方向通信は望むべくもない。


 宇宙船は、その内包する対消滅機関が生み出す膨大なエネルギーと作用によって自らの存在している空間の、時空密度を劇的に低下させる“時空インフレーション“を発現させ、結果的に通常時空間の光よりも早くA地点からB地点へ移動する。

 この時空インフレーションの発現機構を「インフレータ」と呼び、それによる超光速航行をインフレータ・フライト、略してiフライトと呼ぶ。


 このiフライトによる超光速の宇宙空間移動に対して、電磁波の送受信である通信は、光の速度でしかないのだ。


 地球とデルフィの間にあるこの適度な距離感が、地球に居残る既得権者による統制を緩ませる結果となった。地球から直接伺う事はできず、反応を受け取るだけでも相当日数が掛かるのだ。そのような遠隔地から、相手を思い通りになどコントロールできよう筈もない。


 開拓心に溢れる者、或いは野望に燃える者達が地球を脱してデルフィに集い、そして更に方々へと散らばっていく、さながら宇宙の大航海時代といった様相を呈したのである。人類発展の中心は瞬く間にデルフィに移り、地球の存在と影響力は次第に限定的なものとなっていった。

 まだ見ぬ新天地を得ようとする者達は逞しく、次から次へと居住可能な星が見出された。そうして人類の版図は次第しだいに広がっていったが、それとともに星と星の間の、あるいは勢力と勢力の間の争いごとも増えていった。


 そういった中でUNは調停者を自ら任じ、調停に力を尽くすことになる。その頃から、統一機構UNは徐々に宇宙開拓を推し進めようとする実力者たちの調整の場として機能するようになってゆく。それら実力者たちはデルフィに根拠を構え、競争と調停を繰り返して夫々の勢力を拡大していったのだ。

 数多の開拓者たちが各地で勢力を興してはいったが、宇宙時代の初期にあっては、デルフィの経済力・影響力は他の星系を大きく凌駕していたし、宇宙空間における軍事力は圧倒的ですらあった。軍事力はともかくとしても、実力者たちの共同事業体であるデルフィと統一機構UNの影響力は、数千年を経た今も厳然として存在している。


 やがて人類の移住と定着が進み、星々の間の往来が活発になると各惑星間の物流や逓信に関する規格合わせが求められて、国際郵便機構「UNP」が組織された。


 宇宙貨物コンテナの寸法からドッキングポートのプロトコル、はたまた宅配便の寸法や運搬データファイルのフォーマットなど、複数の星々の間でやり取りを行うための様々な規格が策定され、UNの管理の下に運用されるようになっていった。UNはつまり、各星々の物流と通信における標準仕様を管理統制することによって、人類域を緩やかに統制下に置いているのである。


 各惑星は数十光年から数百光年の距離を隔てており、リアルタイムの連絡と連携が行えない以上、各々は星系単位で施政されるほかはない。やがて時代を経るにつれ、また人類の版図が広がるにつれ、各星系間の法規や習慣などに様々な相違が生まれるのは必然だったが、UNPの存在とそのサービスは、それらの共通規格の必要性から、堅実に保たれて現在に至っている。


 どんな辺境でも、全ての居住星系にはUNPの定期・不定期船が就航して郵便物と情報とを運んでいる。宇宙海賊などという無頼漢も存在はするが、ならず者である彼らも郵便船は標的としなかったし、各星系の行政組織も、UNPを蔑ろにすることはなかった。UNの実質的な支配統制に対する反発があったとしても、逓信事業と共通規格の恩恵は失いたくない物なのだ。


 単独ですべてを賄える星系などは存在しないのだから。


 郵便船に限らず、各星系間を行き来する様々な宇宙船は、人や物資と共に情報も運ぶ。

人類の生存圏に於いて最も高速な伝播手段は、光や電波ではなく、超光速で航行する宇宙船に他ならない。

人類の版図を網の目のように繋ぐ航路で、そこを行き来する宇宙船を中継局に見立てて、人類は緩やかに繋がった情報通信ネットワークを形成し運用していた。これをユニバーサルネット、または単にネットと言い、人類域のほぼ全てを網羅して様々に活用されていた。


 リーリス104も、直前の寄港地で蓄積した更新データをアルラト星系にもたらし、アルラト星系で更新されたデータがあればそれを次の寄港地にもたらす。航行中に通信可能な距離ですれ違う別の船があればお互い更新データをやり取りしあい、常に更新をし続ける。

 そうやって通信網は機能し、遠隔地同士はそれなりのタイムラグをはらみつつ送受信を行う。国際郵便船はその高速度性能と大容量記憶域の搭載を以って、人類域全域に跨る広大なネットワークの高速化に少なからず貢献しているのであった。


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