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深淵のアリス  作者: 沢森 岳
30/33

30 インターミッション

海王星まで、光の速さで4時間ぐらい。光速の10%まで加速できれば40時間です。

人類が他の星系に進出する頃には、星系内は自由自在に行き来できているんでしょうね。

妄想が捗ります。

 アシッドクロウをロストした座標へは所定管轄のパトロール艇が向かったが、周辺に判別不能な残骸が散見されただけで、詳細は掴めなかったということだ。救難信号も確認されておらず、海賊共の正体を確認できる物は見当たらなかったようだ。


 ランツフォート家の者を海賊が狙うというのも前代未聞だが、正体を確認できず、結果として動機や正確な目的等が不明のままでは、今後の対応が難しくなる。通信記録や光学センサーの捉えた船影などのプロファイルから、賊は特定できているのだが。


 だが、だからと言うべきか、ランツフォート家の者を狙う理由が浮かび上がってこなかった。そして、不明な事が多くては、警備の範囲や焦点も絞れないものだ。

 狙われる当人たちと共に、警護役であるクーゲルにとっても頭の痛い問題である。



 いつもより大幅に時間をかけて、レオン達スレイプニール号の面々は、無事トーラスにたどり着いた。

 ただ、海賊船の手荒な襲撃を受けたスレイプニール号は満身創痍であり、大気圏への降下は断念せざるを得ない状態である。その為に、レオン達一行は宇宙港を経由して地上へ降下することと相成った。


 そうはいってもやはりVIP、専用のVTOLが用意されており、降り先も宇宙港の地上ステーションではない。ランツフォート家の面々しか乗せることのないのであろう小型のVTOLは、軌道ステーションからの離脱時も微振動すら伝えず、直接に「お城」の中庭をめがけて極めてスムーズに降下するのであった。


「VTOLまで専用で、しかもこんな豪華な内装とはな」

 そんなレオンの感想は、隣に座るアリスにしか聞こえないほどの小声であり、実際アリスの耳にしか届かなかった。

 アリスは無言のまま、相槌を打つかのように少しだけ微笑んだ。



 レオンには、アリスがずっと随行している。

「私は、ラーグリフを保全するための一環として、管理者であるレオンの護衛と看護を行っています。これは優先的に果たさねばならない私の使命です」

 と言ってのけるアリスに対し、グラハムは鷹揚だった。

「レオン君の介護ロイド、ということで良いのだろう?」


 しばらくの間レオンの体調をモニタリングする事、としているからには誠に正確な表現であったが、介護という言葉にレオンは内心ちょっとだけ不満だった。医療や福祉の現場では様々なアンドロイドが活躍しているが、特に精神疾患や認知症の患者などに対しては当事者への精神的なインパクトを極力やわらげるために、外観を生身の人間に酷似させたタイプが宛がわれるようになっているのである。

 アリスの外見の精密さが、そんな場面を想起させるのだ。誰にも悪意はないのだが、アリスに食事を食べさせられている呆けた顔のレオンを想像したのは、レオン本人だけではない可能性が高い。


 とはいえ、アリスはラーグリフと繋がるインターフェイスでもあるのだから、間近に居てもらわなくてはいけない。レオンは寛大なグラハムに感謝の意を示しこそすれ、ちょっとの不満などはおくびにも出さず、アリスの居場所が確保できることを素直に喜んだ。


「お城」が建つ丘陵のふもと、「お屋敷」の中にレオンは部屋をあてがわれた。介護ロイドと共に。当面はゆっくり休養することとなって、レオンとしては久しぶりに地上で幾日も過ごす暇を得た。


 思えば国際郵便船の乗組員となってから数年間、レオンはあまり長い日数を地上で過したことが無かった。どう過ごすべきかを思い出すのにすら時間がかかる有様で、初めは屋敷の中でのトイレの使い方にも戸惑ったのだ。


 結局、地上に在る邸宅での過ごし方というか、様々な設備やサービスの使い方を、アリスに教えてもらう事になった。銀河百科事典に直結している、フロントエンドプロセッサであるところの介護ロイドに。

 そういった点において、彼女 -感謝の証としてコイツではなく彼女と呼ばせてもらおう- は非常に優秀で、指さしてどう使うのかを問えば、常に満足な情報を提供してくれた。あてがわれた部屋に備え付けの、クラシックな内線電話の使い方の実演だって完璧だ。


 アリスはレオンと共にトーラスの「お屋敷」に居ながら、その本体であるラーグリフとの通信を常に確保している。ラーグリフは惑星トーラスの北極方向遥か彼方の宇宙空間でクリフォード星系を北天から俯瞰しており、その搭載艇であるプロミオンが「お屋敷」の遥か上空に静止衛星の如く浮かんで中継を担っている。ラーグリフ本来の目的であった可住惑星の調査の際も、同じように連携するのだそうだ。


 今は、アリスは惑星の調査ではなく、レオンの体調に特異な変化がないかを常時モニタリングしている。ラーグリフにおける2例目のレベル5航行経験者。生体サンプル。

 レオンは自らの意思のみでそれを実行したのではあるが、決断した時もそして今もなお、何故か大丈夫だろうと思っている。根拠などはとくに無く、1例目は程なく死亡しているというのに。


 あ、いや、死亡とは言っていないか。じゃあ回復したのかな、その人は。


 いままでのところ、レオンの体調に憂慮すべき点は見当たらないし、アリスからは定期的に報告があるが、”異常なし”がずっと続いている。レオンは、このままずっと異常なしで過ごせるんじゃないかと思っている。そう思い込もうとしている、とも言う。 前向きである。


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