21 銀河系探査船(5)
AIとVRがもう少し発達すると、知識を得る手段が学校ではなくなっていくような気がするんです。
学校という場はまだしも、50年後には、予備校講師という職業は無いんじゃないでしょうか。
iフライトLevel5に達したのは、レオンが夢の中でちょうど探査船ラーグリフに関するレクチャーを受けている最中だった。ただし、アリスはそのことを伝えないのでレオンが気付くこともない。
レオンの生態はカプセルの中で詳細にモニタリングされており、その適応性の高さからか、まったく異常は見られなかった。人類にとっては記録的な速度で移動しつつ、レオンは順調に学習をこなしていく。
夢の中で、明確なイメージを持ったアリスが喋る。
「銀河系探査ミッションによって、千個程度の居住可能惑星の情報を得られる、と予測されていました。ただし、その大部分はテラフォーミングが必要と思われますが」
「今ある可住惑星のおよそ十倍か」
「はい。その中に、人類以外の異文明が存在する可能性が僅かにあります。現在までに異文明からと思われる電磁波は見当たらない、という事になってはいますが」
「なってはいますが?」
「はい。UNではその可能性を否定できない電磁波を幾つか識別しています。が、確証がありません。そこで、可住惑星の探査と共に、異文明の探査もミッションの一部として組み込まれていました」
「ふむふむ」
「異文明との邂逅を果たしたときに、それらの危険性などをどう判断するか。異文明は人間に相対してどう反応するか。それを調べるために私達が在ります」
「人間のふりをして直接会ってみる、ってことだな?」
「文明の進み具合によっては、ですね。状況次第では所謂”神”的な存在として接近することもあると思います。圧倒的な科学力の差がある場合、むしろ”超越した存在”として接近したほうが都合がよい場合があるのです」
「異文明に大きな影響を与えちゃうんじゃないのか、それは」
「口伝や岩肌への刻印程度では、伝説・物語と区別はつきませんでしょう。もし記録が出来る程の文明であれば、まずは姿を現さず情報収集をするべきでしょうね。惑星上でもiフライトLevel2つまり百倍速程度では移動できますから、信頼性の高い記録を取られることはありません」
「そうかなぁ?」
「百倍速ということは、周囲からすれば百分の一の存在ですから」
「つまり?」
「例えばビデオレコーダーなど、運悪く記録されたコマがあったとしても、前後に連続性がありませんし明確には写りませんから、間違いやオカルトとして処理されます。もちろん、光学迷彩などで単なる光の塊としか見えなかったりしますから、インフレータの概念がなければ、理解は進まずにそれまでです。これは、遠い過去の人類の歴史でもそうでしたね」
「そうか。もしかしたら、人類もどこかの異文明に観察されていたのかもな」
「予定通りミッションを遂行していたならば、それも確かめることが出来たのかも知れませんね。例えば銀河中心の向こう側なんて、未だに殆ど分かっていませんから。もしかしたら、複数の文明が既に衝突していたりするかもしれません」
「ロマンだなあ」
「ロマンですか?共存できる相手なら良いのですけど」
「あ、共存できない場合は、…やっつけるんだっけ?」
「危険だと判断した場合ですか?そう判断した時は、その文明を破壊します」
「…軽く言うけどさ、文明を破壊って、どんな武器だよ」
「関係者外秘の機密事項ですよ?」
「ああ、わかった」
「ラーグリフには、艦砲だけではなくて大型高出力のレールガンが装備されています。弾体数はごく限られますが、亜光速で惑星に撃ち込むと、重金属弾体が大気圏で核融合を次々誘発しながら地表に突き刺さります」
ごくり、と夢の中で息をのんだ。
「標的の惑星を突き抜けてしまわないよう、最大限のダメージを与えるよう速度等を調整します。また、場合によっては複数回の攻撃を行います」
「う、…そ、それで?」
「直接の破壊力もさることながら、惑星規模での超巨大地震や、波高数百メートルの大津波といった、天変地異と言えるほどの大災害を引き起こし、惑星上の文明の殆どが壊滅してしまうと思われます。試したことはありませんが、おそらく」
「…」
「知的生命体が絶滅せず、生き残る場合もあるかもしれませんが、文明の発達は千年単位で停滞することでしょう」
「…こ、怖え。怖くて目が覚めちゃいそうだ」
「それはいけません、以後慎みます……」
レオンの身体が過剰に反応しないよう、カプセルベッドの電解液に調整が加えられる。過度な刺激は学習効果の低下も起こしかねない。夢の中のアリスは、これ以降は刺激を抑えるように手心を加えて、過激な表現を控えることにした。
「では次に、私の取り扱いについて説明します」
「お、おう…」
レオンの睡眠学習は、なおも続く。
そして全銀河探査船ラーグリフは、静かに、トーラスへと加速して行くのだった。




