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弾丸のエンチャント 番外編

作者: RIO

辺境地区での軍事演習の最中、敵味方に分かれた友軍が突如、所属不明機体の奇襲を受け瞬く間に壊滅した。

命からがら単機生き延びたパイロットは、逃亡を開始したのだが・・・。

  「畜生!畜生!クソッ何でこんな事になった!」

1人の男が狭く密閉された空間で叫ぶ。


 呼吸が荒い、額には冷汗の粒がこびり付きその目は大きく見開かれ、何かに怯えている様子が見て取れた。


 その叫び声も、自身が操縦する機甲科歩兵の駆動音にかき消されてしまう。


 メインモニターに表示された速度計は音速を超え、機体は凄まじい風切り音を立てながらブースターの負荷限界スレスレで何かから逃げるように滑空していた。


 突如モニター上にロックオン警告のアイコンが現れた。

同時に機体後方に高速接近する熱源が二つ、レーダー上に表示される。


 「ふざけんな、ミサイルアラートだと?!」

男はそう言い放つと、すぐに回避行動を取ろうと機体を直角にスライドさせる、急激な挙動のせいで強烈な加速負荷がパイロットを襲い、ブラックアウト寸前の意識の境界で、機体に搭載されたパイロット補助機能のおかげで、機甲科歩兵は制御を失うこと無く一発目のミサイルを機体側面を掠める様に通過して紙一重で回避に成功する。


 しかし、二発目のミサイルが回避直後の機体目掛けて飛んで来ていた。

 機体は回避の反動で二発目に対応出来ていない。


 コックピットにはミサイル接近の警告音が響きパイロットが更に悪態をつく「クソが、分かってるんだよいちいちうるせーな!!」


 回避後の反動を利用して、機体を飛んで来るミサイルに向かって反転させる、そのままミサイルから距離を取るようにフルブーストで機体を一気に加速させ被弾までの僅かな時間稼ぎをする。


 「ぐぁぁ!!」

パイロットが低く嗚咽を漏らす、急激な姿勢制御を連続してやったのだから、パイロットへの負担は常軌を逸していてもおかしくない。


 「落ちろ!!」


 ロックオンを待たずに、飛んでくるミサイルに向けて右手の機関砲を高速連射モードで乱射する、一瞬遅れて機甲科歩兵の火器管制システムがミサイルをロックして、射撃補正を終了した射撃を開始する。


 一斉射にも満たない弾数で目の前のミサイルは爆発音と共に小さな火の玉と化し周囲に破片を撒き散らした。


 間一髪で直撃を免れたものの、飛び散る破片と爆炎に飲み込まれてしまう。

 パイロットは刹那の所で、左手に構えた盾で機体を守りながら、足元の地面に着地して体勢を立て直す。


 一息つく間も惜しいのか、機体制御システムの高速チェックを開始するパイロット、その数秒の時間で損傷状況のチェックも並列して行っている。

 多くの修羅場を乗り越えたベテラン特有の風格を纏ったエリートだが、相変わらず口汚い悪態を着くのが目に付いてしまう。

「クソッタレが、とっとと仕事しやがれこれのどこが高速だってんだ!!」


 警告音が鳴り響いている、ミサイルは回避したはずなのに。


 本能的直感で危険を感じて、機体をフルブーストでその場から退避させた。

 

 その直後、目の前を掠めるように直前まで立っていた場所に光の矢が突き刺さり、地面を抉って焦がす。


 「クソ!!一体なんなんだこいつは」

回避不能なタイミングを狙ったミサイルや、気の緩んだ所を狙った直上からの攻撃に尋常ではない不気味さを感じ得ずにはいられなかった。

 不気味さとその恐怖をかき消す様に光の矢が落ちてきた上空に向かい機関砲を乱射し始めた、まるで狂ったように・・・。


 機体のチェック終了の表示がサブモニターに表示されるのと同時に無線通信回線が強制的にこじ開けられ、そこから秘匿化された音声通信が送られてきた。


 「あはは、凄いね全部防いだんだ、これは楽しめるかもしんないな」


 その声を聞いたパイロットは驚愕の顔を隠せない。

(子供?!この状況だと攻撃してきたやつに違いないが信じろってのか!?)


 辺りはメネス人口湖特有の濃霧に包まれていて視界が効かない、更に月明かりのない深夜だ、やつの気配を感じようと全神経を研ぎ澄まし、鋭敏化した感覚で頭を高速回転させて考えを巡らせる。


 (演習中の両軍を壊滅させたのは間違いなくやつだ、しかもこっちは音速で飛んでたのに5分と経たずに追いついてくるなんて、どんな化け物だよ!!

しかも子供だと?加速のプレッシャーで普通なら死んでるはずだぞ?!)


 「依頼主には演出部隊の全滅を依頼されてるから、見逃すわけには行かないんだ、ゴメンね」

無線機の向こう側から無邪気な男子とも女子とも言えない中性的な声が聴こえる、こんな状況でなければ聞き入ってしまいそうなキレイな声だ。


 「ハッ!やれるもんならやってみやがれ、それとも身内をやったみたいに奇襲じゃないと勝てねーのかよ!」


 「あはっ、分かりやすい挑発だね、でも良いよ乗ってあげる」


 あろうことか機体の真正面から光の矢が霧を蒸発させながら飛んで来たではないか。


 「クソが、正面からだと!この距離、白兵戦の距離じゃねーか」

(クソガキが!通信中ずっと目の前に立っていやがったのか舐めた真似しやがって)


 「今のはただの挨拶だからね、少しくらい楽しませてよ、隊長さん」


 サブモニターの奥の方で何かが動く気配がした、殆ど条件反射で機体を気配のした方に向けると、メインモニターに敵機体のシルエットが映り、瞬く間に視界がシルエットで埋め尽くされた、その直後、機体を強烈な衝撃が貫きオートバランサーが作動して転倒は免れたが、軽い眩暈が残り機体の反応を遅らせた。


 敵影は濃霧の中へ身を隠し、オープンになっている無線の向こう側から敵のあどけない笑い声が聞こえ、命のやり取りを楽しんでいる様に感じる。


 不気味さを掻き立てられたパイロットは情報を集めようと、すれ違い際に見えた「災厄を撒き散らす鴉」のパーソナルマークを照会する。


 「MIC所属ランキングナンバー10位、敵機体名「渡鴉」です」

無機質な機械音声が検索結果を告げた。

 パイロットの顔が歪な形を作り出し、濃い絶望の色が浮かび上がる。

 「トップクラスのランカーじゃねーか?!クソッタレめ何でこんな所に居るんだよ!!」


 「この辺りはお気に入りの土地だからね、この辺りで利権争いはやめて欲しいんだよ」


 「テメーは今は東に居るはずだろ、こんな辺境までどうやって来やがった!」


 「そんな事より、演習とか言って、この辺りの軍事偵察やら示威行動とか、軍事侵略する気満々じゃん」


 「そんな事、俺の知った事じゃねーよ!」


 「さっきも言ったけど、この辺りで火薬の匂いがするのは困るんだよ、だからそういうのはやめて欲しいんだよね」


 「俺は俺の仕事をやるだけだ、てめーの事情なんか知らねーよ!」


 すれ違い際に受けた近接攻撃の衝撃が消えると同時に、渡鴉の消えた方に銃弾を叩き込んだ。


 大口径の機関砲の射撃音が濃霧に吸収されて余韻だけが耳に残る。


 手応えが無い、視界が効かない、五感とセンサーが頼りの戦闘に極度の疲労を感じ圧倒的強者相手の恐怖で脂混じりの冷たい汗が頬を撫でる。


 (クソガキが何処に消えやがった?!ランカーと言っても同じ人間だぞ畜生が!!俺だってエリートだ!一体何が違うって言うんだ?!)


 コクピットにロックオンアラートが響き緊張が高まり、反射的に緊急回避ブースターで機体をスライドさせる。


 一瞬で機体は亜音速の速さで移動し、回避行動を取った。

次の攻撃に備えて盾で防御の姿勢を取り、隙あらばすぐに攻撃出来るように銃口だけを盾の端から覗かせる。


 濃霧の奥に動く影に向かって高速連射モードで銃身が高熱で光を帯びて火器管制システムが強制的に射撃を停止して緊急冷却を開始した。


 加熱した銃身に濃霧の水滴が触れて音を立てて蒸発し湯気が濃霧と混ざり合う。


 「ハッハァ!!どぉーだクソッタレのランカーめ!!」

確かな手応えを感じたのか、今までの緊張から一気に解放されたその顔は、醜く歪められ見るに耐えない顔になっていた。


 無線の反対側からやれやれと溜め息が聴こえ、呆れた顔をしているのが容易に想像出来る語り口で中性的な声が聞こえる。

 「なんて言うか、愚かだね、中途半端な実力で傲慢な上におつむも悪いとはね」


 その話しぶりは冷気を感じさせるほど冷たく、全てを切り裂くナイフの様に鋭かった。


 パイロットはその変貌ぶりに恐怖し、言葉に込められた殺気を感じて今まで遊ばれていた事に初めて気づく。


 呼吸が苦しい、五臓六腑を締め付けられる感覚がパイロットを絶望の底へ突き落し、在り得ない光景を見せる。

 「なんだこいつは?いつからそこにいる?いや、それよりどこから入った?」

パイロットの目には操縦桿に止まっている黒い鴉が見えていた。


 「こっち見んな!出ていけクソっ!」

手で払おうとしても手が鴉を透けて触れない。


 「幻覚なのか?一体何で?」

極度のコンバットストレスから幻覚に襲われてしまった。


 「クソっ!クソっ!クソっ!」

無線を通して相手の状態が伝わり渡鴉が鼻で笑う。


 「エリートなんて所詮こんなもんか・・・」

そう呟き、指に力を加えレーザーライフルの引き金を絞る。


 エリートが狼狽し阿鼻叫喚の間に背後を取り、その背中にレーザーライフルを突きつけた渡鴉が、幻覚に怯える悲鳴を楽しむ様に嬉々として笑い、引き金を引き切った。


 幻覚の鴉が今際の際に鳴き、羽ばたいたのを最後にエリートは光学兵器に焼かれコクピットブロック諸共蒸発した。



 「渡鴉、報告を」

抑揚のない事務的な声が聞こえ、渡鴉も事務的に返答する。


 「見ての通りだ、敵演習部隊の全滅を確認した、依頼完了だ。帰投ポイントに移動する」


「モニターでチェックしてますが、視界が効きませんから気をつけてください」


「気遣い感謝します、では後程」


短い事務的なやり取りが終わると、オートパイロットモードに切り替え、この後の依頼報酬の受取に指定されたポイントへ向かう。




 かなり久しぶりの投稿になります、相変わらず身の回りの環境変化に対応できず遅々として筆が進んでおらず、話のネタだけがどんどん溜まっていく始末ですが、次話鋭意執筆中です!!

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