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異世界への渡航の自由は、これを認めない  作者: よしゆき
第11回 明けの明星(2)
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11-C 異界へ渡る

 先月、メスラムタエアと戦った際も、これと似たような状況だった。

 あのとき、らんは〈土遁(どとん)〉を使って、致命傷を免れた。

 しかし今回は、彼女が暗黒に引きこまれるところを、皆その目ではっきり見た。


 影郎はふと、先ほどまで〈烈焔陣〉が敷かれていた場所を、見やった。


 炎はまだくすぶり続けていた。だが、勢いは先刻の半分もない。

 シャハルの姿は、見えない。現在の火の規模だと、その全身を包み隠すのは、不可能だ。となれば、彼は消滅したものと、見るべきだろう。

 しかし、らんがいなければ、敵だけ倒しても、何の意味もない。少なくとも影郎にとっては。きっと、この場にいる誰もが、そうだ。


「らんちゃん! らんちゃあん!」


 晴日は声を上げて、泣きじゃくった。


「らんちゃん……。わたし、みんなを守るために、魔法使いになったのに、これじゃ話が違うわ」


 嶺は両手を地につけて、体を震わせる。


「らんのバカぁ! 何で! 何で手を離したんだよ!? こうなるんだったら、いっそボクもあそこへ行ったほうが、まだよかった」


 早月は手を握りしめ、何度も地面を叩いた。からからに乾いた砂が飛び散る。

 目からは涙が、筋となって伝う。


 早月の言葉を聞いて、影郎はあることを思い出した。


「あそこ? ……そうだ! あの穴の向こう、異界なんだよ」


 影郎は立ち上がった。


「何……? 急に」


 早月が、影郎を見上げる。

 晴日と嶺も同様だ。

 3人とも、表情に生気がない。らんが消えたことが、いまだ信じられない、といったふうだ。


「早月、今『あそこ』って言っただろ? やっぱりあの中、場所なんだよ。きっと異界がある」


 影郎には、確信があった。

 なぜなら、過去にもそこへ、行ったことがあるから。

 それを今、ようやく思い出した。というよりも、その体験が異界への入境であることが、今しがたまで、分からなかった。


 灯巳が〈サモンズ〉を行うときにこじ開けた黒い穴に対し、既視感を催した理由も、判明した。

〈サモンズ〉もまた、異界の扉を開く魔法だったからだ。


「異界でも何でも、らんが帰ってこれなかったら、同じだよ!」


 早月は、今にも食ってかからんばかりの目つきで、影郎を見た。


「その通りだ。だから、連れ戻してくる」


 影郎はかすかな記憶を辿って、昔どうやって異界を訪れたかを、思い出した。


「影郎。それ、アウラ? 待って。色が変わってる。こんなことって……」


 晴日が何ごとか呟く。


 だが、影郎は気にとめない。

 かつてやったことを、頭の中に再現させることに夢中だ。

 魔法のコツは、望ましい結果が到来した状態を、具体的にイメージすること。

 SSSに入って間もないころ、晴日やらんから、そう言われた。これは今でも、忘れていない。


 影郎は右手でダガーを、順手に構えた。その手を、上斜め前に突き出す。

 そして、あたかも目の前に薄い布でもあるかのように、短剣をゆっくりと、垂直にふり下ろした。


 余熱が残る、夜の大気が切り裂かれる。刃がとおった跡に、黒い直線が引かれる。太さは影郎の人差し指と、そう変わらない。


 影郎は、地面と交わるまで、剣で空間を切り分けた。

 そして、左手の人さし指から小指までを、真っ黒い筋にさしこむ。最後に、さながらカーテンを開けるようにして、直線よりも左側の空間を、押しのけた。


 眼前の景色が、大きく歪む。

 それはまるで、数十メートル先の炎が、目前の垂れ絹に描かれた絵で、影郎がその帳を、ぺらりとめくったかのような図だ。

 当然、幕の反対側は真っ暗闇。


「んじゃ、ちょっと行ってくるわ。戻ってこれると思うけど、絶対とは言えないな。らんと一緒に、となると、更に望み薄だ」


 影郎は、後ろの3人にふり向く。

 あたう限り、軽い口調を保った。なるべく、心配はかけたくない。


「待って!」早月が立ち上がる。「ボクも行くよ」


「私も」


「お願い。わたしも連れてって」


 晴日と嶺も、名乗りを挙げる。


「帰れる保証はないぞ。らんに会えるとも、限らないし」


「いいの。もしここに残ったら、影郎くんがらんちゃんを見つけて、連れて帰らなきゃ、わたしはらんちゃんに会えないでしょ? でも一緒に行けば、らんちゃんを探し出すだけですむもの。そしたら戻れなくてもいい。これっきりになるよりは、ずっとマシだわ」


 嶺に、引き下がるようすは、みじんもない。

 晴日と早月も、こくりとうなずく。


「なら、みんなで行くか」


 影郎は、あっさり折れた。


 晴日たちならば、らんに二度と会えなくなるよりは、共に異界に閉じこめられることを、選ぶと思った。また、実際そのほうがまだ、3人にとって、幸せな気がする。

 影郎としても、同行者がいると、安心する。それに彼女らには悪いが、万々一、異界から出られなくても、一緒にいてもらえると、寂しくない。


 影郎は、先陣を切って垂れ幕に体を滑りこませた。そして、周囲に危険なものが存在しないことを、確かめる。

 次いで、晴日たちを中に招いた。

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