5-A 放課後の会話
11月の席替えの結果は、7月とだいたい同じだった。
つまり、影郎と太薙が窓側最後列で隣同士。晴日、らん、早月、嶺は、廊下側前方に集中している。
同月中旬のある日。放課になると、晴日、らん、早月の3人が、影郎の周りに集まった。
「次の月曜、式神退治やな」
らんが影郎の机に両手をつく。
「そうだな。確か、相模原市まで行くんだっけ? ずい分と長旅だな」
影郎は座ったまま、カバンに教科書などを詰め始めた。
「それなんだけど、学校の運動場に変更だよ」
早月が、太薙の席をちらと見た。
太薙はすでに、下校している。ホームルームが終わると、急いで荷物をまとめて行ってしまったのだ。何でも、進路相談があるらしい。
と言っても、彼は影郎たちが魔法使いであることも、式神と戦っていることも知っている。だから今の話を聞かれたとしても、特に問題はない。
影郎が思うに、早月は影郎の隣が太薙であることを知らない。特に、彼女が関心を払うことがらではないからだ。
「学校? ここも式神の通り道なのか?」
「そうなの。事務次官さんに呪いがかけられていないか調べた時点で、式神が校庭を通過することは分かってたんだけど、あのときシンゴがいたから、『相模原市で戦う』って言ったの」
晴日が影郎の机と、らんの間に割りこんだ。そして、今しがたまでらんがしていたように、机にもたれかかる。
らんはわずかに迷惑そうな目で、晴日を見る。
「どういうことだ?」
影郎は、晴日の言葉の趣旨が飲みこめない。
「シンゴ、『役所の仕事で私有地を使うな』ってうるさいねん。入学式の日に夜刀神と戦ったときも、実は影郎が帰ったあと、ウチら怒られてん」
らんは声を落とした。男子生徒が1人、影郎たちの近くをとおったからだ。
「辰午さんも怒ることがあるんだ」
影郎はこれまで、辰午が色をなしたり、声を荒げたりするところに居合わせたことは、1度もない。
だから、辰午がそのような顔をするのを、想像さえできなかった。
「怒鳴ったりはせえへんよ。ただ静かにゆうだけ。やけど、それが心にグサッときて、結構こたえんねん」
「ネチネチ皮肉っぽいことを言うのか?」
影郎にはそれさえ、現実味が感じられなかった。
「まさかあ。ただ、何がどうしてダメなんかゆうだけやよ。でも、ふしぎと申しわけない気持ちになって、シュンとしてまうんやわ」
「だったら、やっぱり相模原まで遠出したほうがいいんじゃないか? 辰午さんをがっかりさせるの、イヤだろ?」
「遠くてめんどい」
「何だそりゃ!?」
「バレへんかったら大丈夫やろ? 4月のときはウチと晴日がケガしたから、初恵さんに来てもらわざるを得んかったけど、要は戦いのあと、全員立って歩けたらええねん」
「大層な自信だな。足下、すくわれるぞ」
故意に冗談めかして言ったが、影郎は内心、心配でたまらなかった。
いまだに、饕餮と戦うときでさえ、らんたちが相手を舐めきった態度をとると、ハラハラしてしまうのだ。
「早月が帰国してからウチら誰も、すり傷1つ、してへんやろ?」
「まあ、そうだけど……」
「ほな、今日は仕事もないし、帰ろか」
この日はそのまま、各自で帰宅した。




