資格の死角、失格製品
2017年、日産、SUBARUの無資格検査が問題になりました。
2018年、国立健康・栄養研究所は、被験者の骨密度を調べる際、無資格の研究者がエックス線を人体に照射していたと発表しました。約1000人に延べ3000回照射していた可能性があり、1回当たりの照射量は0.01ミリシーベルトで、今のところ健康被害の情報はないそうです。
一応、放射線を扱う医療機器は人体への影響が大きいので、診療放射線技師法は、医師・歯科医師または診療放射線技師しか操作できない、ということになってます。
なってはいても、現場では知ったこっちゃねー、というところでしょうか。
今の日本では業界によっては資格無し、免許無しで仕事するのが当たり前になってきてます。
私は派遣で製造業でいくつか働いたことがあるのですが、できる人がいないからやってくれ、ということで溶接の資格無しで溶接をしてたことがあります。他にも玉掛講習を受けたことも無いまま工場内クレーンを使ってたり、毒劇物管理資格無しで水銀を扱って製品を作ってたこともあります。
私の友人には運転免許持ってないけど、やらないと仕事にならないってことで、フォークリフトを運転してたりしてます。
現場なんてこんなもの。
技術者不足、人材不足という昨今。しかし、資格や免許を持つ人はなかなか雇うことが難しい。適正に雇ったとしても人件費がかさみます。なので利益を出すためには、今の仕事をなんとかするには、資格だ免許だと言っていられないというのが実情。
今後はますます、現場で無資格で作業する人が増えることでしょう。
溶接に関して、私が仕事してたとある工場では溶接の資格を持ってる人がひとりもいない、というところもありました。ですが、製品を作るのに溶接してました。
資格や免許というものは、難しいもの、扱い方を間違えるとたいへんなことになるもの。
それを扱う知識や技術がある、ということを証明するものでもあります。
溶接機があれば金属を溶かしてくっつけるだけなら、小学生でもちょっと練習すればできるようになります。
ですが過熱による変形、酸化による腐食、溶け込みの深さから見る強度計算、溶接箇所の均一性、ブローホールの無い密閉性、バックシールドを使った溶接部裏面の酸化防止、加熱による応力変化を修正する焼きなまし、などなど。
これらの知識があり素材についての知識もあり、確実な作業ができてこそ溶接職人なわけです。
だけど溶接のこと知ってる人が職場にいない。聞いても誰も解らない。それでも溶接しないと製品ができない。
実はひとり溶接できるって言ってた年寄りもいるにはいたんですが、この人も資格は無いままに作業をしてる。
疑問があったので聞いてみました。
「あれ? バックシールドはどうしてます?」
「あ? ばっくしーるど?」
どうも10年以上TIG溶接やっててバックシールドという単語も知らなかったようです。
なのでこの職場ではステンレスも溶接したところからは錆が出るのは当たり前、というのが職場の人達の常識のようでした。
……いや、ステンレスが錆びが出るのが当たり前って認識の方がおかしくない? 正確にはステンレスは表面が錆びた(酸化した)鉄なんだけどさー。酸化皮膜で腐食に強い鉄なんだけどさー。
仕方無いのでユーチューブの動画の真似をして、溶接して製品を作ってました。バックシールドの設備が無いので酸化防止剤を使ってみました。
これが今の日本の製造業か、と思いながら。
今では製品に依るのですが、日本の工業製品は溶接したところから錆びる、溶接したところから割れる、と言われるものが出てきました。
バイクとか新幹線とかもそう。
資格に限らず、製造業に建築業では年寄りが若手を育てないまま退職。その結果、10年前には作れたけれど今は作れないというものが増えました。
とあるメーカーで、会社がこれまでのやり方を変えたときに嫌気を覚えた職人がまとめて自主退職。
私は派遣でその会社で働くことになったのですが、設備責任者が自分の扱う機械のメンテの仕方も解らない、という状態。
機械の上に謎の重りがある。
「ここにウェイトをかけると、機械が調子よく動く気がするんだよね」
それでいいのか? 設備責任者?
なんだかオカルトのような……。
重りの意味が解らない……、おまじない?
派遣なので大人しく社員の言うこと聞いて仕事してると、
作業中にセンサーが吹っ飛びました。
「おわぁ!」
驚いて慌てて設備責任者に報告。
「どうします?」
「そのセンサー、もとの場所に接着剤でくっつけて下さい」
「いや、接着剤でつけるから吹っ飛んだのでは? 穴を空けてネジでとめましょうよ」
「いや、俺にも解らないけど、前任者が接着剤でとめてたから、きっと接着剤じゃないとダメな理由があるんですよ。俺にも解らないけど」
えー?
応急処置で接着剤でとめてて、後で修理しようとして忘れてたんじゃないのかな? 接着剤じゃないとダメな理由が解らない……。
そんな会社でも自負というのがありまして、この会社の自慢は『業界トップの技術力』だ、そうです。
私が働く前の年の不良総額は70万円。方針変更で職人が辞めていった後の年の不良総額は、
160万円
1年で2倍以上にアップしました。昔作れてたものがもう作れなくなればそうなりますか。
休憩中に設備責任者と少し話をしてみます。
「俺、文系だから機械のことよく解んないんだよねー」
……いや、それ、文系の人達に失礼だから。
凄いなぁ、日本の業界トップの技術力って。
こんな感じで知識も技術も無い人達がもの作りするのが今の日本の製造業の1面です。
今後はこういうところが増えるでしょう。
工場の機械というのはものによっては知識が無いと危険なものがあります。ですがその知識が無いまま機械を扱って、起こる事故が増えています。
寒いからとマフラーを巻いたままボール盤を使い、マフラーがドリルに巻き込まれ首が絞まって死亡するケース。
部品検査の際にノギスが片目に刺さり失明するケースなど。
かつて日本では東海村JCO臨界事故というのがありました。1999年、核燃料加工施設で発生した原子力事故。日本国内で初めて、事故被曝による死亡者が出ました。
これもまた、会社でマニュアルを作った人にまともな原子力の知識が無かったのでは? というもの。というか、本来のマニュアルの他に裏マニュアルがあったとかいうのも、訳が解らないし、効率化のために恐ろしい作業方法で仕事してたという。
現場で働く人には、意外と自分が扱ってるものが何か、なんていうのは解らないものです。私も知らないまま水銀を扱っていたし、私が働いていたとこなんて、水銀の容器は開けっぱなしだったし。
机の上には粒ガムのフタを千切った容器があって、その中に銀色の液体が揺れてました。
容器のフタ? 捨てられたので無いんです。
フタが無いと困るって人もいなかったし。
あと、修理品で回収した水銀も、産廃業者に頼むとお金がかかるので、コストダウンのために燃えないゴミに入れて捨ててましたね。
流石にどうかと思い一応役場と保健所には連絡しましたが、どうやら問題無いようで行政の立ち入り検査もありませんでした。
資格とか免許とか知識とかある人が退職し、同じ資格を持ってる人がいない。同じ免許を持ってる人がいない。だけどやらなきゃいけない仕事がある。作って売らなきゃ利益が出ない。資格とか免許とか後回し、後回し。
そうやって目前の作業をこなしてる内に無資格検査とか、無免許作業に慣れていってしまうのです。
これは大きな事故でも起きないと外からは見えないので、発覚しずらい問題です。
逆に言えば大きな事故が起きなければ、行政だっていちいち立ち入り検査なんてめんどうなことはしない。
だからバレない。バレなければいい。
それに資格持ってる人をちゃんと雇うよりは人件費が削れるし。
製造業以外にも建築、医療と資格者不足という業界では今後も無資格、無免許が増えていくことでしょう。
また、国家資格であるはずの保育士は、人手不足の状況を改善するために、保育士資格が無くても保育所で働けるようになります。これには条件がありますが。
……じゃあ、国家資格ってなんなの?
保育士資格を持つ人はいても、その給与が安く仕事は過酷。そのため保育士資格を持つ人が給与面でいいとこ探すと、保育所以外になってしまうという現状。
一例として保育士の手取りの月収は、2年目でおよそ11万円、6年目でおよそ14万円。これは、フルタイムで働く保育士の給与明細で、公立か私立かでまた変わるようです。
これで人手不足となった業界。これを解消するために今後は無資格でも保育所で働けるようになる、ということ。
条件がついてはいても、そんなものはやがてなし崩しに無くなるのではないでしょうか。
やがては人手不足の業界は、人を増やすために資格無しでオッケーにしようって法律も変わっていくのかもしれません。
そのうち無免許で誰でも手術できるようになったり、無資格で毒劇物や放射線を扱えるようになるのかも。
現状ではすでに無資格でエックス線を人に浴びせてたりとか、無免許でフォークリフト運転してる訳だし。
こういうことを厳しくして全て取り締まることはできないでしょう。もしも違法だからといちいち逮捕してたら、留置所がパンクするだろうし。
無免許のパイロットとか、無免許の医師がいるのが当たり前の時代、というのもそれはそれでおもしろそうですが。
さて、今年はどこのどんな偽装が話題になるのでしょうか。