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第8話 受付嬢はキツネ耳娘

 王都の東に位置する緑豊かな都市アスターナ。

 それがここ、オレとエリスが普段暮らしている都市の名前だ。


 この都市では、周囲に緑が多いこともあって木造建築の家が多い。

 だが最近は、防火目的などもあり、石造りの家が増えてきているみたいだ。


 オレとエリスは、都市の中心部から少し離れたところにある、昔ながらの木造二階建て一軒家を二人で借りている。最初は別々に住むことも考えたのだが、村から出てきたばかりのオレ達にはほとんど金が無かったからな。二人別々に借りるより一緒のほうが当然安上がりだったんだ。一階は二人の共用部にして、二階にある二部屋をそれぞれのプライベートな部屋として共同生活をしている。


 そんな我が家があるアスターナに、オレ達は七日ぶりに帰ってきた。


 乗合馬車が都市の入り口に着いたときにはもう陽が沈みかけていたが、オレ達は家ではなく、まずはハンターギルドに向かった。


 D級になって初めてのクエストを早く報告して完了させたいというのもあるし、今から家に帰って食事の用意をするより、ギルドの二階にある酒場に食べに行きたいというのもある。

 だが、一番の理由は別だ。

 無事に帰ってきたことをちゃんと報告しておきたい人がいるんだ。


 アスターナの西門近くにある、えらく年季の入った木造の建物。

 ハンターギルドはここにある。


 入り口を入ったとたんに喧噪が耳に飛び込んでくる。

 かなり賑わっているようだ。

 まあ、この時間はいつもこんな感じではあるな。

 その日のクエストから戻ってきたハンター達でごった返すんだ。


「エリス。こりゃあ、時間かかるぞ」

「だね。でもティアさんにはあれだけ心配かけたんだから、無事帰ってきた報告くらいはちゃんとしておかないと」

「だな」


 ティアさんというのはギルドの受付嬢の一人だ。

 このギルドを利用するとき、オレ達はいつもティアさんにお世話になっている。

 今回のクエストも、もちろんティアさんが担当してくれた。

 そして、今回のクエストはちょっとばかり心配をかけてしまったんだ。


 D級に上がっていきなりスノウボアは無いでしょうって。

 もちろんD級ハンターがD級モンスターであるスノウボアのクエストを受けることは制度上何も問題無い。問題は無いが、それが適切かというとそうとも言い切れない場合がある。


 スノウボアはかなり気性も激しくその魔法には殺傷能力もある。雪山という悪条件での戦闘が余儀なくされるということもある。大人数のパーティーならともかく、オレ達は二人だけだ。安全マージンを考えればもう少し経験を積んでからの方が良くないですかと忠告を受けたんだ。


 実際オレの場合、エリスが警告をくれなければスノウボアのつららにやられていた可能性もあったわけだしな。


 なのに、報酬に目がくらんだオレ達は……。

 いや、目がくらんだのはほとんどオレだけだったかもしれんが。

 ま、それはともかく、二人で「大丈夫です!」と押し切ってしまったんだ。


 ギルド側としては、制度ルールを守っている以上、余程の理由が見付からない限りクエスト受注の拒否はできない。なのでティアさんは心配を口にしつつもオレ達のクエストを受け付けてくれたんだ。


 そんなことがあったんだから、せめて無事に帰ってきた報告は早めにしておきたいと思っている。


「あれ? でもティアさん受付にいないみたいだよ?」


 受け付けの方を見ながらエリスが首を傾げる。

 オレもそちらに視線を向けてみる。


 このギルドの受付カウンターは三つある。

 そしてティアさんはいつも向かって左側のカウンターに座っている。

 エリスの言う通り、確かにそこには誰もいなかった。


「……みたいだな。でもカウンターが閉められているわけじゃないし、席外しているだけかもな。とりあえずオレは、先に査定を済ませてくるよ」

「分かった。じゃあ私は名前書いてからそっちに行くね」

「ああ」


 そう言って、オレ達は一旦別れた。


 混んでいる時には、端のテーブルに置いてあるノートに自分の名前を書いておくことで順番に受付カウンターに呼ばれる仕組みになっている。ちなみに、受付嬢の希望がある場合は、そこにその受付嬢の名前も書いておけばいい。


 オレは受け付けノートが置いてあるテーブルとは反対側の査定コーナーに向かった。名前の通り、取ってきたモノが適正かどうかを確認してくれる場所だ。採取や調達のクエストの場合、必ずここで査定を受ける必要があるんだ。


 そこでは、クエスト以外のモノ、例えば今回の例でいうとオレ達が雪山で狩ったウサギやシカなどもここで査定してくれる。つまりギルドで買い取ってくれる値段を確認することができる。


 椅子に座り煙草をゆったりと吸っている男の人を見付け、声を掛けた。


「ゴルドさん」


 オレより少し背の低い、白髪の男が煙草を口にしながら振り返った。

 査定一筋ン十年という噂のゴルドさんだ。

 このギルドでは、この人が一手に査定を引き受けているらしい。


「おっ! 来たな坊主」

「坊主じゃなくて、タクマですよ。ゴルドじいさん・・・・

「じいさん言うな。(わし)はまだ六十七だ!」


 六十七なら、オレから見れば十分じいさんなんだが。

 それにじいさんと呼ばれたくなかったら、儂って言うのとか、その白い顎鬚は止めたほうがいいと思うのは余計なお世話か?


 そう思いながらもなんとなくほっとする。


 坊主呼ばわりされた意趣返しにじいさんと呼ぶ。

 これはオレとゴルドさんのいつものやりとりだ。

 ちょっと長いクエストなんかから帰って来た時、これによって、ああいつもの場所に帰って来たんだなと、なんとなくほっとする。


「ずいぶん暇そうですね。受付の方はあんなに混んでいるのに」

「バカ言え。今さっきようやく落ち着いたとこなんだよ。ったく年寄りをこき使いおって」


 今さっき、じいさん言うなって言ってなかったか?

 とはもちろん口にしない。

 笑顔でスルーしとく。


「で、お前さんの今回の獲物は? スノウボアを狩りに行ったと聞いたが、ちゃんと狩れたのか?」

「もちろん! これが、依頼のあったスノウボア二頭。それと、途中で狩ったウサギ二羽とシカが一頭。こちらもよろしく!」


 オレは収納庫ストレージから獲物を取り出して、査定用のテーブルの上に積み上げた。


 実際にはウサギは全部で三羽狩っている。

 だが、最初にスリングショットで狩ったウサギはここには出していない。

 あれは自分達用に取っておく。

 後日エリスがさばいて、シチューにしてくれる予定になっているんだ。


 腕組みしながらオレが出した獲物を一瞥し、ゴルドさんは口を開いた。


「相変わらずお前さんはさばいて来ねぇな。血抜きぐらいして来い」

「あははは。すいません。でもほらっ。新鮮ですよ?」

「新鮮ならいいってもんじゃねぇよ。そっからやらなきゃいけないこっちの身にもなれってんだ」


 血抜きって結構時間がかかるんだよな。

 それに面倒だし。


 大抵のハンターは現地で血抜きをして、さらにさばいてから持ってくることが多い。これは不要な部分を捨てて、必要最低限にすることで少しでも荷物を軽くするためだ。


 だけど、オレにはその必要は無い。

 収納魔法でそのまま丸ごと収納庫ストレージに入れておけるんだ。

 他の人たちのように荷物になってしまうことは無い。

 こういうところは収納魔法が絶大な効果を発揮するところだな。


 更に言えば、オレの収納庫ストレージでは時間経過がほとんど無い。

 ほぼ入れた時のままで取り出すことができる。

 つまり温めた飲み物なんかは温かいまま、狩った獲物は狩った直後の状態のまま取り出すことができるんだ。

 これもすごく便利な点だ。


 ゴルドさんはテーブルに置かれた獲物を一つ一つ丁寧に見てくれた。


「……ふむ。どれも悪くねえな」


 そう言ってメモを書き込み、オレに渡してくれた。

 これを持って受付に行けば、報酬や買い取ってくれた金を受け取れる仕組みだ。


「いつもの通り、毛皮や臓器などの分はプラスしているが、こちらでさばく手間賃は引いている。差し引きトントンだな」

「はい。了解です」


 獲物はその肉だけじゃなく、毛皮や臓器、そして骨に至るまで様々に利用することができるため、多少なりとも金になる。モノによっては高価な薬の材料として爪や牙のほうが肉の数倍の値段がする場合さえある。

 今回はそんな大層なものは無かったので、ギルド側でさばく手間がかかることもあり、その分で差し引きほとんどゼロだ。


 オレはゴルドさんから受け取ったメモに目を通してみた。

 どうやらウサギとシカで銀貨四枚になったみたいだ。

 これなら、この後の酒場での食事はちょっと豪華にできそうだ。


「タクマ。査定終わった?」


 かけられた声に振り向く。

 かけて来たのはもちろんエリスだ。

 だがその横にはもう一人、紺のブレザーにタイトスカートという受付嬢の制服を来たキツネ耳娘がいた。


「ティアさん」

「お帰りなさい。タクマさん。二人ともご無事で何よりです」


 こげ茶色の長い髪を細く黒いリボンで結えた制服姿がなんか懐かしくさえ思えてしまう。その後ろではふさふさした尻尾が小さくふりふりしているのが見える。

 いつも思うのだが、あの尻尾は絶対素晴らしい手触りだと思うんだ。

 いつかあのふさふさを心ゆくまで堪能してみたいものだ。


「……タクマ?」


 エリスがにっこり笑ってオレに微笑みかけて来る。

 でも、それに一瞬背筋がゾクゾクってしてしまったのは何故だろう?


「な、なんでしょう?」


 いかん。

 エリス相手なのに、何故か丁寧な言葉になってしまった。


「ティアさんの尻尾見すぎ。もう、ホントにエッチなんだから!」


 いやいやいやいや。

 隠しているのをこっそり覗いたとかいうならともかく、尻尾は出てるじゃん。

 全く隠してないで、誰でも見れて、あんなに可愛くふりふりしているじゃん。


 それをほんのちょっとだけ(・・・・・・・・・)じぃっと見ちゃっただけでエッチって、なんでだよ!


 オレは何も悪くないよね? ね? ねっ!?




読んでいただき、ありがとうございます!


多くの人に読んで頂けた上に、ブクマや評価など沢山の応援まで頂き、幸運にもランキングに入ることができて、凄く嬉しいです!

本当に、どうもありがとうございます!


これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

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