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第7話 白銀の毛並み

 スノウボアとの戦闘はともかく、サイクロプスとの戦闘がマズかったか。

 あの巨体がどしどし歩くだけでも新雪は崩れやすかっただろうに、その上あの棍棒で大地をあれほど強く叩かれたんだ。

 考えてみれば、むしろこうなるのは当然か。


 迫りくるのはとてつもない程の雪の奔流。


 雪崩なだれ

 せつぼうとも言うらしいが、そんなこと、今はどうでもいい。

 回避手段を考えることの方が先だ。


 どうする?

 どうすればいい?

 木の陰に隠れるか?

 それとも岩の陰か?


 雪山に慣れていればまだ話が違ったかもしれないが、今のオレの知識じゃどうするべきか分からない。

 分かるのは、あれに呑み込まれたらきっと助からないということだけだ。


「……タクマ、いいよね?」


 そこに掛けられたいつもとは違う押し殺したような静かなエリスの声に振り向く。

 迫りくる雪崩に視線を向けながら、エリスがオレに問うている。

 まるで、オレに許可を求めているかのように。


 何がいいのか?

 なんて、そんなこと問い返す必要なんて、無い。


 こんなときに、エリスがこんな声で聞いてくるのは、たった一つだ。


「……周りに人はいないんだよな?」


 雪崩がもうそこまで迫ってきている。

 問答なんかしている余裕は無い。

 だが、それでも確認する必要がある。

 これは大事な事だ。

 絶対に他の人に知られるわけにはいかない。


 エリスが頷く。


「うん。気配は無い。大丈夫」


 できるならこの手は使いたくなかった。

 他の人に見られでもしたらとんでもないことになる。

 使わないで済むならそれに越したことは無い手段だ。

 だけど、ほかに手段が思い浮かばない。

 背に腹は代えられない。


「なら、頼む」


 オレがそう言うと、エリスはかがんで左ひざを地につけた。

 そしてさらに左手も地に付けたとき、それは始まった。


 カッ――!


 白く眩い光がエリスを包み込む。

 光の中で人影が揺らぐ。

 次の瞬間、光が弾け風が舞う。


 気付くと、エリスの姿は消え、大きな獣がオレの前に立っていた。


 上顎から伸びる長い牙を持ち、白銀の毛並みに覆われた四本脚の巨躯。

 一部に薄めの紅い横縞が入っていて、一見すると巨大なトラのようにも見える。


 だが、この大きさのトラなどありえない。

 一本の脚だけでもオレの身体を遥かに上回るほどの大きさ。


 この姿は、この世界に暮らす人なら誰でも知っている。

 誰でも一度は神殿で見たことがあるハズだ。


 だがしかし、誰も実物を見たことは無いとも言われている。

 一部では神獣とも言われ、もはや神話の中でしか出て来ないとさえ言われている伝説のS級モンスター。


 その名は、バハムート。


 白銀の獣がその大きな口を開け、いっぱいに息を吸い込む。


 雪がオレを呑み込もうと襲い掛かる。

 まさにその時、それが放たれた。


 バハムートの咆哮。

 それが大地を、そして大気をも震わせ、迫りくる雪崩を全て吹き飛ばす。


 気付くとオレ達の前に雪は無かった。

 雪崩はもちろん、あれほど降り積もっていた雪さえ、オレ達の足元から山頂にかけて、完全に吹き飛ばされていた。


『タクマ、大丈夫?』


 頭の中に響く女の声。

 オレは、オレを庇うかのように立つ巨大な白銀の獣を見上げる。


「ああ、大丈夫だ。助かったよ、エリス」

『良かった』


 そして獣の大きさが徐々に徐々に小さくなっていき、大型の犬くらいになった。


「もしかして、この大きさが?」

『うん。これが今の私の本来の大きさだよ』


 先程の巨大な獣は成体の姿。

 神殿などに飾られている絵に描かれているのはその成体の姿だ。

 エリスはまだ成長途中で、一時的なブーストで成体の姿になっていたらしい。


 オレはエリスの背中に手を載せた。


「ずいぶんと成長したじゃないか」

『え? そう?』

「ああ」


 以前にこの姿を見たのは何年前だったか。

 あの頃は今の半分くらいの大きさだった気がする。


 体を覆う毛も随分とふさふさするようになっている。

 エリスの髪と同じ白銀の毛並みを優しく撫でる。


「撫でてもいいか?」

『ふふふ。もう撫でてくれているじゃない』


 おっと。いかんいかん。

 手が勝手に撫で始めていたようだ。


 エリスが身体を下ろし、その場に伏せた。

 オレもその傍に腰を下ろし、改めてエリスの背や腹を撫でる。


 エリスは目を閉じ、オレに撫でられるのに任せている。


 この姿のエリスは、背や腹を撫でられるのは気持ちがいいということをオレは知っている。今回の礼も兼ねてたくさんなでなでしてあげたい。


 それに、このふさふさした毛並みは普段の獣耳娘の姿ではちょっと味わえない感触でもある。オレとしても、この機会を逃さず存分にもふもふしておきたい。


「本当に助かったよ。ありがとう、エリス。エリスがいなかったら、オレは死んでいたかもしれない」

『そんなことないよ。タクマなら、私がいなくたってきっと切り抜けたよ。サイクロプスだって、何とかできたでしょ?』


 確かに、サイクロプスの方はたぶん何とかなったと思う。

 だけど、雪崩については、オレはうろたえていただけだった。


「あの雪崩を? そんな自信無いな。実際オレには為す術なんて無かったし」

『そう? 雪崩の雪を全部収納しちゃえばよかったんじゃない?』


 ――あっ!?


 言われて気付いたよ。

 そうか。

 そういう手があったか。


『……できない?』

「いや、たぶんできると思うが、あの時は思いつかなかったな」


 オレもやっぱりまだまだだ。

 自分の魔法の使い方を、その魔法を使えない人から諭されるなんて。


 そして、あの状況でそんなことまで思いつくなんて、流石はエリスだな。


 エリスの尻尾が大きくふりふりしているのが目に入った。

 なんとなく、そこから視線が外せなくなる。


「……なあ、エリス」

『ん? 何?』

「尻尾も触らせて」


 オレはエリスの返事を待たず、白い尻尾に手を伸ばした。


 ああ。

 やっぱりこっちの手触りもサイコーだ。


 くぅううう! これぞ至福!


『――っ!?』


 尻尾を撫でることができたのはほんの一瞬だけ。

 すぐにエリスの尻尾はオレの手から逃げてしまった。


『もう! タクマのエッチ!』


 そう言ってエリスは、尻尾でオレの頭を軽く叩いた。


 やっぱり尻尾の無いオレには、その感覚はよく分からないな。


読んでいただき、ありがとうございます!


まずは雪山編が、これで終わりになります。

でも、まだ続きますよ?(笑)


エリスの正体は出ましたが、タクマの収納魔法のぶっ壊れ性能については、まだほとんど何も出てきてませんし。何よりタクマ&エリスにさせてあげたいこと(作者の願望?)がまだまだありますから。(笑)


ここまでの間に多くの人にブクマ登録や、感想なども頂き、本当に嬉しいです。

皆さまの応援に、心より感謝を! m(__)m


最近、まとまった時間が取れず、元々書くのが遅いということもあり、更新はゆっくりになってしまうとは思うのですが、それでもお付き合いいただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。

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