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第5話 対決スノウボア

※ 2018/03/15 隻眼を単眼に修正。

 雪の上を這うようにして、静かにスノウボアに近付いていく。

 エリスもオレの少し後ろを同じような恰好で付いてくる。


 当然ながら距離が近いほどスリングショットの威力は増す。

 相手に気付かれないギリギリまで距離は詰めたい。

 だが相手は野生の獣だ。

 いくらこちら側が風下だとは言え、これ以上近付くのは流石(さすが)にマズいか。


 一度後ろを向いてエリスに視線を送ってみる。

 エリスがオレを見て小さくコクリと頷く。


 やはり、この辺が限界か。


 オレは素早くその場に立ち上がりながら、弾を挟んでゴムを引いた。

 思いっきり、一気に限界まで引く。

 狙いは向かって右側のスノウボア。


 ――いっけぇえええ!


 ゴムから指を離した瞬間、オレの後ろにいたエリスも立ち上がって駆け出した。


 前傾姿勢で雪の上を、雪に足を取られることなく駆けていくエリスの姿に目を疑ってしまう。


 なんでそんな走りができるんだ!?

 アイツの体重はそんな軽いのか!?

 それとも、それも何らかの魔法なのか?


 だが、それにじっくりと見惚れている余裕はオレには無かった。

 スリングショットから放たれた弾がスノウボアに当たらず、少し上の方を通り過ぎて木に当たった。


 カァーンと大きな衝突音がして、木に降り積もっていた雪が少し落ちる。


 ――ちっ!


 立ち上がりざまの射撃にはまだ安定性が足りないようだ。

 これも今後練習が必要だとは思うが、今はそんなことを考えている余裕はない。


 二頭のスノウボアが顔を上げ、そしてオレの方に顔を向けた。


 オレは収納庫ストレージからもう一つ弾を取り出すと、すぐさまセットしてゴムを強く引く。


 ――今度こそ!


 放たれた弾がスノウボアの後ろ脚のもも付近に当たる。


 ――よしっ!


 狙ったのは頭部なのでちょっとズレてしまったが、とりあえず外れてしまうよりはいい。


 オレはすぐさま次の弾を収納庫ストレージから取り出した。

 だがスノウボアも大人しくやられているだけじゃないらしい。

 流石D級モンスターと言うべきか。

 オレに向かって突進してきた。


 その姿が雪に潜り、雪を舞い上げながらこちらに向かって来る。


 ――ダメだ!


 瞬時に察してしまう。

 スリングショットの弾をくらっても、直後にこんな突進ができる相手だ。

 舞い上がった雪が壁となり弾の威力を弱めてしまう。

 それで仮に当たってもほとんどダメージは与えられない。


 直前まで迫った雪の壁を、右横に跳んで避ける。

 足元の雪が邪魔して思ってたほどは跳べていないが、なんとかスノウボアの突進を避けることはできた。


 膝をついた体制で、通り過ぎたスノウボアに視線を向ける。

 スノウボアも避けられたことが分かったのか、突進を止めてこちらを見た。


 ――ならっ!


 今手にしている弾を収納庫ストレージに戻し、そして別の弾を取り出した。


 ――こいつならどうだ!


 すぐさまセットして、ゴムを引こうとした。

 だがその時、スノウボアがブォオオオと雄叫びのようなものを上げた。


「タクマ! 避けてぇ!」


 突然掛けられたエリスの声。

 それに反応して、すぐさま後ろに跳んだ。


 これに「何故?」なんて悠長なことを考えている余裕なんて無い。

 そんなことをしてたら命がいくつあっても足りない。

 ましてやエリスの咄嗟の警告だ。

 彼女の警告を疑うなんて発想は、オレには持ち合わせてなどいない。


 だから、ほとんど条件反射でオレの身体は動いていた。


 オレがいた場所に、頭上から降ってきた三本の大きなつららのようなものが突き刺さる。


 これがエリスの警告の理由わけか。

 そして、これがスノウボアの攻撃魔法か。


 エリスの警告が無ければ危なかった。

 コイツがただの猪じゃない、D級モンスターだってこと、失念してた。


 またエリスに助けられてしまったが、ここで借りが一つ増えたところでどうということはない。


 そんなこと、今更だからな!


 全く自慢できないことを頭の隅で思いながら、オレは力いっぱいゴムを引く。

 スノウボアが再び突進の構えをするが、その前に手を放した。

 スリングショットから撃たれた弾が無数に散開した弾となってスノウボアを襲う。


 そう、これは散弾だ。

 一発の中に約五十個程の小さな鉄粒が入っている。

 威力はかなり弱まってしまうし射程もかなり短くなる。


 これでスノウボアの身体にダメージを与えようとは思ってない。

 狙うのは目だ。


 当たるかどうかは運任せになってしまうが、どうやらオレの運は悪くないみたいだ。スノウボアが目を閉じて苦しそうに顔を振り出した。


 ――ここっ!


 今度はオレの方からスノウボア目掛けて突進する。

 同時にスリングショットを収納庫ストレージにしまい、代わりに剣を取り出した。


 オレはスノウボアの首筋目掛け、体重を乗せて剣を降り下ろした。


 ◇


「タクマ、大丈夫?」

「ああ。大丈夫だ。問題無い」


 近寄って来るエリスの問いかけにそう答えた。

 実際エリスのおかげでスノウボアの攻撃を喰らわずに済んだので怪我なんてしてない。


 オレが担当した一頭も既に息絶えている。

 何も問題は無い。


「エリスのほうは? 大丈夫だったか?」


 そう言いながら視線をエリスに向ける。

 見た目、全然問題なさそうだ。

 もっとも、この程度のモンスターでエリスを傷つけられるなんて思ってない。

 油断するのはマズいと思うが、それだけエリスの強さは信じている。


「うん。ありがと。大丈夫だよ」


 エリスの後ろには倒れているスノウボアの姿が見える。


 エリスはスノウボアを瞬殺していた。

 戦っている最中はオレも必死だったが、思い返してみるとエリスが剣を降り下ろし、一撃でスノウボアを倒していた姿は視界の隅で見えていたんだ。


 剣も魔法も、エリスはホント凄い。


「これで、クエスト達成だな」

「だね。D級初クエスト達成おめでとう! タクマ!」

「エリスもな。お疲れ!」


 そう言ってオレ達は、右手の拳を互いに軽く合わせ、一旦引いてから今度は頭の上でハイタッチした。


 パーンという小気味よい音が周囲に響く。


 幼いころからもう何度もやっている、オレ達の間での、労をねぎらったり喜びを分かち合うときなどにやる一種の儀式セレモニーだ。


 これをすると、オレ達はやったんだ、って実感してくる。


 オレは再び自分で倒したスノウボアを見下ろした。

 あとはこれをハンターギルドまで運べばホントに完了だ。


 早速足元のスノウボアを収納庫ストレージに放り込む。

 そしてエリスが倒したスノウボアの所まで歩き、それも放り込んだ。


 その時、遠くの方でズンッと低く響く音がした。

 心なしか、地面も少し揺れたような気がする。


 エリスのほうに視線を向けると、彼女は左のほうに顔を向け、目を細めていた。


 なんだ?


 再びズンッと低い音が響き、今度は間違いなく大地が揺れる。


 これは……?

 何かが、近付いてくる……音?

 でも、何だ?


 徐々に近付いてくる音に、オレもエリスも何も言わず、ただ音の鳴るほうを見つめていた。


 そして現れたのは、黒い体をした単眼の巨人サイクロプス。

 B級モンスターだった。




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