第4話 ターゲット発見
オレとエリスはさらに雪山を進んだ。
その間にウサギをもう二匹、あとシカも一頭発見し、オレのスリングショットで狩らせてもらった。今回の目的は別にあるのだが、出会ってしまったからには見逃すわけにはいかない。なにせ、オレ達の懐と腹の足しになってくれる貴重な存在だからな。運が悪かったと諦めて成仏してくれ。
それと、ウサギ二匹は最初の例もあるからもちろんだが、シカも頭を撃ち抜くことができると分かって安心したよ。これなら十分役に立ちそうだ。もっとも、流石に熊とか大型の獣だと、こうはいかないだろうな。
ただその際に、残念ながら一発外してしまったことは反省点だ。
エリスには「ドンマイ!」って言って貰えたが、やはりもう少しうまくなるよう、さらに練習を続ける必要はあるな。
狩った獲物は当然オレの収納庫に入れてある。
こういうところは凄く便利な魔法だ。
おかげでオレ達は余計な荷物を持たずに雪山を歩き進むことができる。
雪山は本当に歩き難い。
ひざ下まで雪に沈む足を持ち上げながら歩くのはとても疲れる。
場所によってはもっと深くまで沈んでしまうこともあり、気も抜けない。
それにとても寒いし。
誰も入ってこないから荒らされていない銀世界の風景は、なんていうかとても神秘的で綺麗だとは思うが、個人的には積極的に来たいとはとても思えない。世の中には雪山の登山を好む人もいるそうだが、オレは暖かい部屋でのんびりもふもふを堪能するほうが断然好きだな。
なのに、そんなオレがこんな苦労してまでここに来たことにはもちろん理由がある。
それは、ハンターの依頼だ。
今回のクエスト内容は食材採取。ターゲットはスノウボアだ。雪山に生息している猪だな。猪の肉っていうのは、地方によっては牡丹肉とも呼ばれて、かなり古くから食材に使われている。
その中でもスノウボアはかなり高額で取引されている。
理由は簡単、単純明快。
スノウボアは魔物であるため、簡単に狩ることができない、
つまり需要に比べて出回る数が圧倒的に少ないからだ。
そう、世の中には魔物と呼ばれる存在がいる。
それは、魔法を使う人以外の生物。
その強さはハンター同様、F級からS級の七段階に分類されている。
これはつまり、A級モンスターは概ねA級ハンターと同じくらいの強さがあるということだ。
ただし、S級は例外だな。
S級には上限が無い。
同じS級モンスター同士でも強さにかなり差がある。
それはハンターにも同様のことが言えるが。
この級分けはクエスト受注の可否判断になる。
つまり、基本的に同じ級以下のモンスターしかクエストを受注することはできない。
ある意味当然だな。
例えばF級ハンターがA級モンスターに挑むなど、自殺行為としか思えん。
ちなみに、スノウボアはD級モンスターとされている。
そう、オレ達と同じD級だ。
D級になってようやく受けることが可能になったクエストなんだ。
その報酬額は、なんと一匹金貨一枚。
これは破格の値段だ。
見逃す手は無い。
というわけで、オレ達は只今絶賛スノウボア探索中というわけだ。
◇
オレの数歩先を歩いていたエリスが急に立ち止まり、左手を上げた。
ちょっと待て、という合図だ。
別にオレ達の間でそういう合図を事前に決めていた訳じゃない。
そこは雰囲気で察することができる。
幼馴染は伊達じゃない……というのはちょっと大げさかもしれんが。
ともかく、エリスが立ち止まって前方を凝視しているのは確かだ。
何かを見付けたのだろう。
オレも前方に視線を向けるが特に怪しいものは見付からない。
この辺の気配察知能力の高さも獣人ゆえだな。
オレにはちょっと真似できそうもない。
「……いる」
エリスが小さな声でそう呟いた。
一体何が……?
オレは声を出さず、エリスの次の言葉を待った。
エリスが雪の中だということも構わず腰を下げ、ほとんど雪の上に寝そべるような体勢になる。
オレもそれに倣いつつ、エリスの横に並ぶ。
横に並んだオレをちらっと見つつ、エリスが前方少し左側を指さし、小さな声でオレに伝えて来た。
「あそこ。スノウボア二頭」
どうやらようやくターゲットに巡り合えたらしい。
最悪、このまま今日は見付からない可能性もありえると思っていた。
オレ達は運がいいみたいだ。
こんな寒い雪山を二時間以上も彷徨った甲斐があったというものだ。
エリスの指さすほうに視線を向けると、確かにいた。
大きな木の根元に、動いている獣が二頭。
よくもまあ、こんな距離であれを見付けたものだと改めて感心してしまう。
「どうする、タクマ?」
「どうするとは?」
「スリングショット、使ってみる?」
その言葉にちょっと考えてしまう。
スノウボアは猪の中でも大きいタイプだ。
前方にいる奴だって、距離があるから確信は無いが、おそらくオレの体重の五倍くらいはありそうだ。
そんな相手に効くだろうか?
効率で言うなら、ここはエリスに任せてしまうのが最善だ。
彼女ならきっと、この距離からでも魔法一、二発で二頭とも倒してしまうんじゃないか?
でも、スリングショットをちょっと試してみたい気もする。
それに……
ちらっとエリスに視線を向けてみる。
彼女はオレの視線に気付き、「ん?」と首を傾げた。
効率だけを考えて、エリスに頼りっぱなしじゃダメだよな。
それじゃオレは全然成長できない。
オレだって、胸張ってD級だって言えるようにならないと。
でないといつか、こいつの隣にいることさえできなくなってしまう気がする。
考えすぎかもしれないけどな。
でも、まあ、男の矜持ってヤツもある。
ここは試行と練習と訓練も兼ねて、せめて一頭は受け持つとしよう。
「エリス。一頭、任せていいか? まずは距離をもう少し詰めて試してみるよ」
「分かった」
オレは再び前方のターゲットに視線を向ける。
相手は初めてのD級モンスター。
気合入れていくとしよう。
オレは収納庫からスリングショットと弾を取り出した。
――さあ! 狩りの時間だ!