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第20話 ラウルの推測

 いつの間にかオレたちは小さな川にかかっている橋の上に来ていた。


 小さな川とはいえ、橋の上にいると結構寒い。

 遮るものがほとんど無いためか、冷たい風が容赦なくオレたちの体温を奪っていく感じがする。


 ちょっと長くはいたくない場所だ。

 できればどこか店にでも入って、温かいモノでも飲みたいところだ。


 だが、オレの足は橋の中央で止まってしまった。

 先程のラウルのセリフによって。


 オレの目が辺りを一巡し、周囲に人はいないことを確認する。


 なんとなく予感はしていたんだ。

 ラウルがオレの魔法について、何か聞いてくるんじゃないかって。

 予感的中ってわけだ。


 昨日ラウルに向かってオレは、他言無用だと言った。

 ラウルのことだ。

 それはちゃんと守るつもりでいてくれているんだと思う。


 でも、ラウルにとって予想外で驚きのものを間近で見てしまったんだ。

 そりゃあ、オレに直接聞きたいこともあるだろう。

 だからこうして、周囲に誰もいない機会をうかがっていたのかもしれない。


 オレは一度、ラウルに気付かれないくらい小さく深呼吸した。

 息を吐き出しながら、自分に言い聞かせるように頭の中で言葉を繰り返す。


 大丈夫。大丈夫だ。


 ラウルが見たのは湖の水を収納したことだけだ。

 ラウルが分かったのは収納できる容量が大きいということだけだ。


 それ以外・・・・のことまで気付かれるようなヘマはしていないハズだ。


 ラウルが欄干に左手をかけ、オレからの視線を外し、遠くの方を見ながら口を開いた。


「昨日は驚いたぜ。まさかお前の収納魔法が、そんなに大きいものだったなんて。もちろん、そのおかげでセリカは助かったんだけどな」

「……その話、セリカには?」

「ん? もちろん話してないさ。秘密なんだろう?」

「ああ。そうして貰えると助かる」


 オレは心の中で少し安堵した。


 やはり大丈夫だ。

 ラウルはちゃんと秘密を守ってくれる。


 今はオレの収納庫ストレージの大きさについて少々驚いたから話を聞きたがっているだけだ。それについて一通り話をすれば、ラウルのこの驚きもおさまって、後はきっと黙っててくれるだろう。


 そうだな。

 どうせなら、以前調べたことについても話してやるか。


 オレが調べたところ、歴史を紐解けば、かなりの容量の収納魔法を持った奴は他にも実在したみたいだ。大昔の話だが、それこそオレと同じように湖の水を全て収納し、それを川の上流から流すことで城攻めに使ったという記録もあった。


 その辺りの話もして、ラウルの好奇心を満足させてやればいいだろう。


 そう思っていた。


 だから、まさかここで、ラウルが爆弾発言を投下してくるとは思ってもみなかった。


「……だけど、お前の収納魔法には、まだ他にも秘密がある。……違うか?」


 その言葉にドキッとした。

 同時に、頭の中でスピードを上げた思考が賭け巡る。


 ……どういうことだ?

 オレは、何か他に情報を与えてしまうようなヘマをしていたのか?


 いったいいつ?

 何をヘマした?


 ……ダメだ。

 何も思い当たることが無い。


 いや、待て待て待て。

 慌てるな。


 もしかしたら、オレは何かカマを掛けられているだけということも……


 昨日オレはラウルに向かって他言無用と言った。

 だから、他にも何かあると推測された……とか?


 もしそうならここで慌てるようなことをしちゃダメだ。

 幸いにもドキッとしたことは顔に出さずに済んだハズだ。


 オレは平静を装って口を開いた。


「秘密? なんのことだ?」

「別に無理に聞き出そうってつもりはないさ。隠しているのには何か理由わけがあるんだろうし」


 オレは表向き、「何を言ってるんだ、お前は」というように溜息をついた。

 その間にも、頭の中では急いで今までの行動を何度も思い返していた。


 やはりヘマをした憶えは無い。

 だが、ホントか?

 何か見落としていることは無いか?


 ……いや、やはり思い当たることは無い。

 昨日の戦闘中に使ったのは、スリングショットと弾の出し入れと、老人に刺さっていたトライデントの収納、そして湖の水と氷の収納、それくらいだ。


 そこにヘマは無いハズだ。

 ならば、ラウルは本当にカマをかけてきただけなんじゃないか?


 だが、その考えは甘かったようだ。

 そうであって欲しいという、オレの願望でしかなかったようだ。


 ラウルがオレに視線を向けて口を開いた。


「俺も収納魔法にそれほど詳しいわけじゃないが、生き物は収納できないって聞いていた。でも、お前の収納魔法、生き物も収納できるだろう?」


 その言葉に、一瞬心臓が飛び跳ねたかと錯覚させられた。


 ラウルは一瞬微笑み、そしてゆっくりとオレから視線を外し、橋の欄干らんかんに肘を付け、頬杖をしながら遠くを見始めた。


 これは、カマを掛けているんじゃない。


 ラウルのその様子を見て、オレはそう確信した。

 オレの目が自然と大きく開かれたのが自分でも分かる。


 たぶん、間違い無い。

 ラウルは確信を持っている。

 だが、何故だ?


 その思いがオレの口から自然と出ていた。


「何故、そう思う?」


 オレの声はわずかに震えていたかもしれない。

 何故分かったんだ?

 何がラウルのヒントになった?


 湖の水を収納したとき、生き物まで収納した?


 いや違う。

 ちゃんと魚とか生き物は除外したハズだ。

 実際湖の跡には魚が跳ねていたじゃないか。


 じゃあ何故ラウルは分かったんだ?


 一般的な認識では、収納魔法には生き物は入れられない。

 調べた限り、過去にも生き物を収納できたという記録は無かった。

 それが普通の認識のハズだ。


 なのに、ラウルがそう結論付けするだけのヘマを、オレはしていたのか?

 一体それは何だ?

 オレは、何をヘマしたっていうんだ?


 ラウルが頬杖をしながら、再びオレの方に視線を向ける。


「……やはり、それは秘密なんだな。さっきも言ったが、別に俺はタクマが隠したいことを暴こうというつもりは無いよ。だけど友人として一つ忠告をすると、もし本当に秘密にしたいなら、もう少し慎重になったほうがいいぞ?」


 もっとも、とラウルは少し笑いながら言葉を繋げた。


「俺も最初は気付いてなかったよ。やはりあの湖の水を全て収納したことがきっかけだな。あれを見たから、もしかしたらお前の収納魔法は、俺が思っていたのと少し違うのかも、と色々考えちまったんだ」


 ――やはりきっかけはソコか!


 確かにきっかけを与えてしまったことはミスかもしれない。


 だが、あの場合仕方なかった。

 それに、本当の痛感すべきミスはきっと他にあるんだ。

 何がラウルに確信をさせてしまったんだ?


 オレが黙って先を促すと、ラウルは静かにその答えを口にした。


「お前、釣りの餌を収納していたろ。生きている赤虫を、さ」


 その答えに息を呑んだ。

 無意識のうちにオレの目が大きく開かれる。


 ――しまっ!


 オレは右手で口を覆い、そしてラウルから視線を外していた。


 そうだ……その通りだ。

 オレは、迂闊にも生きた赤虫を収納していたんだ。


 完全に油断していた。

 生き物という認識ではなく、釣りの餌という、完全に荷物という認識だった。

 だからオレは、なんの躊躇も無く、生きた赤虫を収納してしまっていた。


 しかも、ラウルの目の前で。


 なんてバカなんだ、オレは!


 何度もその言葉がオレの頭の中で繰り返される。


「そうか……。なら、もう誤魔化しようが無いな。自分のバカさかげんに、ホント頭が痛くなるよ」


 オレの口から言葉が漏れる。

 それに対し、ラウルは笑っていた。


「これは単なる好奇心で聞くんだが、生きてる獣やモンスターなんかも収納できるのか? そして……人間も?」


 そうだな。

 生き物が収納できると分かれば、当然そういう興味が出て来るだろう。


 そう思ってオレは口を開いた。


「……以前、狩りでしとめた獣を、まだ息がある状態で収納したことはある。数日後に取り出したときにはまだ息があった。だから獣やモンスターはできると思う。だが、人は試したことはないよ。何があるか分からないんだ。そんなの、簡単に試せることじゃないだろう?」

「だな」

「それとも、ラウルが第一号ということで挑戦してみるか? 命その他、全て全くこれっぽっちも保証できないけどな」

「あっははは。いや、遠慮しておくよ」


 ラウルは苦笑いしつつオレの提案をやんわりと断った。

 

 しかし、このことは絶対に秘密にしておきたい。

 へたにバレれば大騒ぎじゃ済まなくなる。


 大丈夫だとは思っているが、念には念を押しておこう。


「ラウル。これは冗談抜きで本当に他言無用だ。いいな?」

「……確かに、収納魔法の常識がひっくり返る話だとは思うが、そんなに隠しておく程のことか? むしろもっと大っぴらにしてうまく使いこなせば、周りの奴らの見る目も変わって、C級へも上がりやすくなるんじゃないか?」


 言いたいことは分かる。

 オレも、最初はそう考えた。


 この収納魔法を秘密になんかせず、出し惜しみせず、手加減無しでうまく使えば、おそらくハンターとしてかなりの成果を上げることができるんじゃないかって。


 だが……


「甘いよ、ラウル。世の中、そんな単純じゃないさ」

「そうか? タクマの考えすぎなんじゃないか?」


 オレは軽く首を横に振りながら、少しため息交じりに口を開いた。


「大容量というだけでも、バレればかなり大騒ぎになる。それを欲しがる奴は必ず出て来る。商人だったり、貴族や王族だったり。考えてもみろよ。大荷物の搬送と言う問題が一気に解決できちゃうかもしれないんだぞ。特に軍隊の補給物資の搬送とかな」

「……それは、確かに」


 さらにオレは畳みかけるように言葉を続けた。


「生き物、特に人だ。仮に、あくまで仮にだが、人を収納できるとすると、オレにはもう、自由というものは無くなってしまうかもしれない」

「あん? いくらなんでもそれは大げさなんじゃ……」

「人を収納できるということは、オレは気に食わない奴を閉じ込めることができちゃうということだぞ? もしくは人攫ひとさらいとかな」


 オレのセリフにラウルは絶句しているようだ。

 だがそれに構わずオレは更に言葉を追加する。


「他にも、軍隊を人も物資も丸ごと収納しておいて、敵国に侵入するとかな。そんなことができる奴を自由気ままに生活させてくれると思うか?」

「………………思わない」


 少し考え込んでから、ラウルはぽつりと呟くようにそう言った。


 うん。

 どうやら納得してくれたらしい。


「確かに色々と面倒そうだ。秘密にしておいたほうがいいのかもな」

「ま、そういうことだ。理解してもらえて嬉しいよ」


 ラウルは笑顔を見せながら歩き始めた。

 オレは少し目を細めながらラウルの背中を見つめた。


 オレの魔法に関する話はこれで終わり、ということだろう。

 オレの秘密をちゃんと聞けて、ラウルは満足できたのだと思う。


 頼むぞ、ラウル。

 秘密は守ってくれよ?


 そして……


 オレの収納魔法について、頼むから、これ以上は・・・・・深く考えないでくれよ?


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