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第16話 賭け

「ほら! 早く乗れって」


 ラウルがしゃがみ、片膝をついた状態になってセリカに早く背中に乗るよう急かしている。


「えっ!? いや、でも……」


 そしてセリカはオレ達のほうをちらちら見て、その状況に戸惑っている。

 彼女の両手が右往左往していて、その困惑した心境を物語っているようだ。


 セリカは先程までエリスと二人でテントの中に入り、魔法で髪を乾かし、濡れた服も乾かし、さらに冷え切った身体を温めていた。


 その間にオレは湖の水を元に戻していたのだが、ラウルは一人、難しい顔して何かを考えこんでいた。かと思ったら、セリカがテントから出てきたとたん真剣な顔で言ったんだ。


「セリカ。今日はもう帰ろう。無理はしないほうがいい。俺が、ちゃんと家まで送り届けるから」


 って。


 エリスの回復魔法ヒールを受けて、今では自分の脚でちゃんと立てるほど回復しているセリカだが、確かに危なく死にかけたんだ。


 ラウルの言う通り、今日はもう無理をせず、ゆっくり休むべきだろう。

 セリカも初めての氷上の釣りを楽しみにしていたことは知っているが、それはまた今度みんなで来ればいい。その機会はいくらでもあるハズだ。


 ハンターギルドの受付嬢、ティアさんのセリフじゃないが、ハンターは体が資本だ。ここはラウルの言う通り、大事をとっておとなしく家に帰って休むべきだとオレも思う。


 セリカもちゃんと分かっている。

 残念そうではあったが、素直に頷いていた。


 だから、そこまではいい。

 うん。そこまでは。


 問題はその後のセリフだな。

 ラウルは続けてこう言ったんだ。


「俺がおぶっていくから」


 考えてみれば、ここから家まで約三時間かかる。

 通常なら問題無く日帰りできる距離だが、休みながら歩いたとしても、回復したばかりの身には辛いかもしれない。それを気遣っての申し出だと思う。女性に優しいラウルならではの発想だな。残念ながらオレにその発想は無かった。


 こういうところがオレとラウルの差か?

 少しはオレも見習うべきなんだろうか……?


 いや、ひとまずそれは置いておこう。


 このセリフにセリカは一瞬フリーズしてた。

 ちなみにエリスは「わぁお」とよく分からない声を上げていた。


 そして現在、セリカは戸惑いと困惑の真っ最中というわけだ。


 おぶられて街道をいくというのはちょっと恥ずかしいものがあるよな。

 だからセリカが躊躇するのは分からなくも無いが、そこは諦めて、目を閉じて寝たふりでもしててもらうとして、問題は、三時間もラウル一人でセリカをおんぶし続けるのは厳しいだろうということだな。だが、途中でオレと交代して、二人で交互にすればなんとかなるだろう。


 オレはそう考えて、帰り支度のため、テントなどを収納庫ストレージに収納しようかと思った時、エリスが思わぬことを言い出した。


「ラウル。任せて大丈夫だよね? ちゃんとセリカを送ってあげてね?」


 ――えっ!?


 オレは驚いてエリスの方に振り返った。


 あれ?

 オレ達も一緒に帰るんじゃないのか?


「ああ。大丈夫だ。お前たちはちゃんと俺たちの分も釣って帰ってくれよな。楽しみにしているからさ」

「うん。そっちは任せて。頑張るよ」


 ラウルまで二人だけで帰ることを想定している?

 セリカは……俯いてしまっていてよく分からない。

 まだおんぶしてもらうことに悩んでいるのか?


 ……えっと、じゃあ帰るのはラウルとセリカだけ?

 オレとエリスは残って釣りをするのか?


 いやいや。それはちょっとおかしいだろう。

 オレ達だけなんて、それは二人に悪くて楽しめないよ。


 だからオレは口にしようとした。

 オレ達も一緒に帰るって。

 オレもラウルと交代でセリカを背負うからって。


 でも口を開こうとした、まさにその瞬間、エリスに袖を引っ張られてしまった。

 振り向くと、エリスは首を小さく横に振っている。


 ダメ……ってことか?

 何故だ?

 エリスは一体、何を考えている?


 だがエリスはそんなオレの疑問には応えず、セリカの両肩に手を添えて彼女を促していた。


「ささ、セリカ。ラウルがこう言っているんだからさ」

「でも……」

「でも、じゃないの。人の好意は素直に受け取るモノだよ。セリカだってそう思うでしょ? 誰かに好意で親切にしたら、それは素直に受け取って欲しいでしょ? 同じだよ。だから、ほら!」

「えっと、あ、うん……」


 エリスに半ば押されるようにして、セリカがおずおずといった感じでラウルの背中に乗った。


 それを見て、やっぱ二人で帰すのはちょっと心配だと思い、オレは再び口を開こうとした。


「やっぱりオレ……っ!?」


 だが、オレのセリフは最後まで言わせてもらえなかった。

 ラウルとセリカには見えなかったと思うが、エリスがオレの背中をつまんで引っ張ったんだ。


 エリスの目が、ダメって言っているでしょ! となんかオレを責めているように感じるのは、気のせいだろうか?


 エリスが何を考えているのか分からない。

 何か考えがあるんだと思うが、それは一体……?


 戸惑っているオレをよそに、ラウルがセリカを背負って立ち上った。


「わ、私、重くない?」

「全然。むしろ軽いぞ。ちゃんとメシ食ってるのか?」

「そ、そう? へ、変なところ、触らないでよ?」

「しねぇーよ。それより、落ちないようにちゃんと捕まってろよ」

「うん……」


 セリカの少し照れながらのセリフに、ラウルはそう答え、そしてオレ達のほうに視線だけ向けてきた。


「じゃあな」


 そう言ってラウルはセリカを背負いながら歩き出した。


 二人の姿が見えなくなった時、エリスがオレの方に向き直って口を開いた。


「もう、ダメじゃない。タクマったら」

「……何が?」

「何がじゃないよ。二人の邪魔しちゃダメってこと!」


 ――へっ!? 二人の……邪魔……?


 ちょっと待て?

 それって、つまり、ラウルと、セリカが?


 ……いやいやいや。

 それは無いでしょ!


 だってラウルとセリカに出会って何年経つよ。

 その間、二人がそういう関係になる素振りとか気配なんてこれっぽっちも見たことがない。


 セリカは堅実派というか、割とお堅いところがある。

 それに対してラウルはちょっと軽いところがある。

 特に女性関係に。

 そのことで二人が言い争っているのを、何度か目にしたことだってある。


 そんな二人が……?

 友人としてはともかく、男女の関係には、ありえないでしょう。


 だけど、エリスが何故二人だけで帰らせようとしたのかは分かった。

 でも、たぶん、それは杞憂というか、勘違いだと思うけどな。


「あの二人が? それは無いんじゃないか?」

「はぁ……」


 ――その深いため息は何!


「タクマはそういうところ、鈍いからなぁ」

「はぁ? オレが?」

「じゃあ、賭ける? あの二人がくっつくかどうか」

「おお! いいぞ。そんなことはあり得ないからな」

「ふふふ。じゃあ私はくっつく方ね。もう時間の問題よ。そうね。一週間以内にくっつくと見た!」


 エリスが自信満々に、オレの目の前に人差し指を立てる。

 逆にオレは軽くため息を付きながら首を横に振った。


 だって、二人がくっつくということさえ想像できないのに、それが一週間以内?

 絶対にありえんな。


「もしタクマが勝ったら、そうだな。何でも言うことを一つ聞いてあげる。その代わり私が勝ったら、タクマが言うこと一つ聞いてね」


 ――えっ!? 何でも……ですか?


 それって、つまり、何でも・・・ってことですよね?


 ……ゴクリ。


 その言葉に、思わず頭の中を様々な妄想が駆け巡る。

 そんなオレの反応を見て、エリスが目を細めて微笑んだ。


「何を想像しているのかな?」

「……別に、何も」

「ふーん。ま、勝つのは私だけどね。ふふふ。何して貰おうっかな」


 いーや!

 今回ばかりは勝つのはオレだね。


 ふふふ。

 一週間後が楽しみだ。


読んでいただき、ありがとうございます!


ラウルとセリカが帰ってしまったため、

思いがけず二人っきりになってしまったタクマとエリスは……


もちろん釣りをするんですよ? ホントですよ?(笑)


次回はそんな二人の甘々なお約束・・・を書きまして、

冬の湖編が終わる予定です。


どうぞお楽しみに~

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