うーぱーるーぱー
「えー、ウーパールーパーは本当は両生類です。実は、皆さんの前のウーパールーパーは幼生の状態なんですよ。それで……。」
理科の先生が生物の話をしている。
まあ、知ってる人からすれば退屈極まりない話だ。
こんな退屈な時こそ、脳みそを好きなように遊ばせてやった方がいい。
そう思って僕は、自分の意思で考えることを放棄した。
……一瞬、繊細に風景が目の前に浮かんだ。
しかし、どこでいつのものなのか思い出せない。そんなことを考えているうちにその風景は薄れていった。果たして重要なことだろうか。
何か、懐かしいと辛いを足して二で割ったような感覚だ。
残念ながら恋愛経験がないものだから、確信を持てないのだが失恋の時に似ているのではないだろうか。
人間誰しも思い出せないことを嫌うもので。同様に僕も必死に記憶を辿った。
そして、並行してあの風景を思い出す。
薄汚れた元はクリーム色だったであろう灰色がかった壁。
向こうが見えないなんのために付いているか分からないような窓。
安っぽく見える木の机。学校のもののようだがやけに広い。
もしかしてこの教室、小学校の時の?
すると、脳が手がかりを掴んで活動を活発にしたことが分かった。
部分的だが声が聞こえる。
「あなたたちは、あなたたちはらしくいる権利があります。」
「あなたらしいと思うものを書きなさい。」
「真面目にやりなさい。」
「もっと、真面目に。」
「これだけしか書けないの?」
ああ、このうんざりする声。
二度と聞きたくなかった声。
はっとした。小学校三年の記憶か。道徳の授業。
黒板に書かれている文字は「あなたらしい」
なんで、こんな記憶。思い出しちゃったんだろう。
「ねえ、じゃあウーパールーパーってどっちが本当の姿なの。」
急に、現実に呼び戻された。
風景がぼやけたかと思うと、隣の席の子がこっちを見ていることがはっきりと分かるようになった。
「自然界なら成体のほうが自然なんじゃないかな。」
「ふーん。」
わかった。「らしく」だ。
なあ、ウーパールーパーよ。
僕らしいってなんだ。
僕は、大人に染められているんじゃないか?
大人に染められた僕は、僕らしいか?
なあ。