序幕 見えぬ縁
スピンオフを投稿させていただきます。
これは完全スピンオフではありますが、ネタバレが含まれている場合があります。一度本編である『アヤカシ草子』を読破してからお読みいただけるようお願いします。
幻の国「ヒノモト」。
ヒノモトの歴史が刻まれた歴史書、通称「アヤカシ草子」。その中に刻まれた人間とアヤカシの双方の罪の歴史。
このヒノモトにはアヤカシと人間異なる種族が暮らしている。
しかし、過去に様々な糸が絡み合ったせいで二つの種族は啀み合い、互いに関わることを拒みついに禁忌になってしまった。
親から子へ戒めの言葉は口伝えで教えられ関わりは一切なくなったかに思えた。しかし、その沈黙を破った青年がいた---。
陽という青年が出会ったのは、人間を憎み冷血な水のアヤカシ十六夜。出会いは最悪なものだったものの互いに心を通わせ氷の心を溶かした。
陽と十六夜---。
草子に刻まれた古の物語。しかしアヤカシと人間の絆は彼らだけではない。
弓の名手・丹波家吉に仕えるあの武者夫婦。佐野鎌清と小百合である。アヤカシを捨てて生き抜くと決めた女と生真面目故にアヤカシが嫌いになってしまった男だった。
「アヤカシ草子」では決して語られない二人の物語。
銀の瞳が黒に染まった時、戦いの火蓋は落とされる---。
黒が銀に侵食された時、本当の絆が試される---。
私はどうしてここにいるの?
一面緑に包まれた森の中。陽の光があまり届かない深いところ。裸足で駆け回る幼い少女。そろった前髪に一本に結われた髪。
「おーい! 聞こえる?」
少女が呼ばれて振り返る。その瞳は灰色、ではなく銀色だった。それはアヤカシ特有といってもいい。このアヤカシは数里以上離れた音も聞き分け遠くにいる人に声を飛ばすことができる。
「小百合ー」
銀色の髪に銀色の瞳。それはアヤカシ木霊のこと。瞳は純粋に輝き、希望に満ちていた。自分はアヤカシ木霊として生を受けた。それを恨んだことなどない。
この森の外はどうなっているの?
・・・嘘だ。
好奇心が強いアヤカシ木霊の小百合。森の外が気になって仕方がない。夜になれば木に登り外を眺める。まだ彼女は幼い。まだ木霊の力を上手に使いこなせない。妖術は使っていないと思っていても無意識に使ってしまう。
「綺麗だなあ。あの森の外、行ってみたいなあ・・・」
小百合はハッとなって口を押さえた。アヤカシ木霊の誰かが聞いていたらどうしようと周囲を見渡す。しかし言葉は聞こえてこない。誰も聞いていないみたいだ。
「私はずっと森で暮らすのかな? でも人間は私たちを八つ裂きにするんだよね」
アヤカシ木霊の最年長、木霊の中で一番信頼ができる若者のククリが話してくれた。小百合は風に身を任せる。髪の毛の先っぽだけ銀色になっているがそれが静かに揺れている。
「自由に生きれたら・・・」
それと同時刻、人間の暮らす表向き。ある武士団の暮らす屋敷があった。部屋の中が少し明るかった。中には少年が一人。清丸という少年。着物を脱ぐと上半身に無数の打撲の跡。少し痛々しい。部屋には子供用の木刀。
「いった・・・---」
清丸と小百合---。今は接点のない二人。しかし二人は絶対に離れられない縁がすでに繋がっていたのだ。
最後までお読みいただきありがとうございました。