表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/23

第五章(2)

バーバラは頭を深々と下げた。一方アーサーは大きくうなずいた。

「よく勇気を持って出てきてくださいました。感謝します」


アーサーはバーバラの肩をたたき、気にしないように言った。

「あちらに庭園があるのでお茶にしましょう。使用人の方達もどうぞこちらへ」


 これによりおかしなお茶会が始まった。普通なら使用人が主人のつくテーブルにつくことなどあってはならないことなのに、ここでは使用人が三人もテーブルについているのだ。そのおかしな客人にマグリット家の使用人達はとまどいを隠せないようだった。それでも彼らは丁重に紅茶とお菓子をもってきて、三人に振る舞うのだった。


 庭園は右と左が対照になるように作られ、きれいに緑の生け垣が刈り込まれている。その合間にたくさんのバラが咲き誇り、春の訪れを喜んでいた。

 使用人達がさがると、バーバラが訊いた。

「怒ってはいないのですか」


アーサーはそれに対して笑った。

「怒ってはいないですよ。私にとってあなたは贈り物です」

「贈り物ですか?」

「そうすてきな贈り物です。手放したくない贈り物です」


マリはスコーンを食べながら、紅茶を飲んでいたが、こんな甘い話の現場に私達がいていいのかと焦った。隣に座っているロバートも困っているようだった。

 マリは急に立ち上がるとこう言った。

「あの、お庭を見てきていいですか」

マリの問いにアーサーは優雅に答えた。

「ええ、もちろんです」


そこでマリとロバートはその場を離れ、バーバラとアーサーを二人きりにさせることにした。

「どう思う、あの二人」

マリはこっそりロバートにたずねた。

「さあな。どちらも好きあっているのは分かるけどなあ。どうするつもりなのか、それはアーサー様次第だろ」

マリはロバートとそんな話をしながらも、マグリット邸の庭園にみとれていた。


こんなすてきなお庭なんて見たことないな。ロンドンはガーデニングの国ってよく言うけど、ほんとにそうだ。すごい手入れが行き届いている。白いバラがあちこちに咲いていて、マリは思わず手にとりたくなったが、我慢した。


ロンドンから日本に戻ったら私もガーデニングでもしようかな。この白いバラでも植えようかな。だってなんだかバーバラみたいだもの。


 一方バーバラとアーサーはどんな話をしていたかというとこんな話をしていた。

「私はあなたの事が好きです。是非とも私と結婚してください」

「私もアーサー様のことが好きですが、結婚なんてとても考えられません」

バーバラは嬉しい反面、苦しい胸の内を知られないように丁重に断った。


「舞踏会で出会っていきなりという気持ちは分かりますが、私は出会った瞬間分かったのです。あなたしかいないと」

アーサーの目は真剣だった。この心に偽りはないと言わんばかりだった。


「そうじゃないのです。私は使用人なのです。しかもよその屋敷の使用人なのです。いざこざを起こすわけには行きません」

「けれどあなたの気持ち的にはyesなのですね。もし私があなたと同じ使用人だったら一緒になりますか」

「それでしたら、もちろん一緒になります」

「だったら私に任せてください。この屋敷にあなたに来てもらいます」

「無理はやめてください」

「あなたのためだったら無理くらいしますよ。あなたは何もしなくて大丈夫。また会ってくれますか」

「でも、それは」

いけないですと言う前にアーサーはバーバラの口元にキスをした。バーバラはびっくりして顔を赤くした。

「会ってくれますね」

「はい」

バーバラは返事をするしかなかった。


 その日のお茶会はそれでおしまいになった。

 バーバラとアーサーのお茶会のあと、マリはバーバラの様子が普通でないのを見てとって、どうしたんだろうと思っていた。


それでもバーバラには仕事があるので、マリはまたあの物置き部屋に戻った。

 それからバーバラが仕事を終えて帰って来ると、彼女はとても疲れ切っていた。どうしたのかと訊くと、今日のお茶会でのアーサーとのやり取りを話してくれた。


「キスだって?!」

マリはもうびっくりして、口をぱくぱくさせた。その時の状況を思い出したのか、バーバラも顔を赤らめた。

「それはもう結婚しないと駄目でしょ」

マリは息まいて言った。いきなりキスだなんて信じられない。

「アーサーはまた会いましょうって言ったんでしょ」

「それはそうなんだけど」

バーバラは恥ずかしそうに下を向いた。


「分かった。私がアーサーの屋敷に行って、会える段取りつけてくるよ。アーサーが本当にバーバラと結婚するのか、しっかりさせないと私も日本に帰れないよ」


「えっ、それって本当にいいの」

バーバラは驚いてマリを見た。

「うん。私決めた。この恋を見届けてから帰るよ」

マリは力拳を握りしめてそう言った。


 そこでマリはまだしばらくこっちにいることになった。これって本当にロミオとジュリエットみたいじゃない。舞踏会で知り合って二人は愛し合う。家ごとが敵対しているわけじゃないけど、二人の間に隔たりがあるのは確か。でもロミオとジュリエットみたいな悲恋で終らせるわけにはいかない。結末はシンデレラじゃなくっちゃ。マリはそう思い、意気揚々とアーサーの屋敷へと向かった。


 門番にはバーバラの使いの者だと言うと、すぐに屋敷の中へ通してくれた。アーサーも来たのがマリだったので、幾分がっかりしているようだったが、親切そうに部屋の中へと通してくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ