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その優等生ゲスにつき  作者: カツ丼王
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4.追跡する若人

 あっという間に時は流れ、時刻は放課後になった。生徒たちは各々自分の所属しているクラブに向かったり、用がない者は帰路についたりしていた。


 俺はというと、校門から少し離れた位置に隠れるように陣取っていた。しかもあらかじめ持ってきていた私服に着替え、眼鏡までかけている。これにはある目的があった。


「……くそー、まだかよ。急がないと間に合わなくなる」


 俺がここにスタンバイしてからすでに三十分は経っている。時間を無意味に使うのは嫌いだ。他の人間の一秒と俺の一秒ではその価値が違う。


「……きょ、鏡夜……、……来たよ……」


 気づくと目の前には一人の女の子がやって来ていた。ミニスカートとカーテガンを着こなし、頭にはピンクの髪留めを付けている。


 その子はモジモジして顔は下を向いており、耳は目で見てわかる程に真っ赤になっていた。


「おお! やっぱり似合うじゃないか! いやー用意して成功だったな」


 俺は感心してその子に賞賛の言葉を送った。 


「――ッ!? ふ、ふざけないでよ!? いくらなんでも怒るよ!」


 その子は顔を上げて俺を糾弾する。顔立ちはものすごく可愛らしく、髪はくせ毛で思わず触りたくなるような美少女だった。


 というか我が親友、谷垣伸也だった。


「まあ、そう怒るなよ。でも本当によく似合ってるぞ」


「だから止めて! 鏡夜がどうしてもって言うから、こんな服着たんだよ!?」


 そうなんだけど、何だろうかこの気持ちは? 目の前の女の子はホントに男なのか、疑問に思ってしまう。


「……なあ、一度本気でその方面を目指してみない?」


「嫌だよ! 僕は男なんだよ!? こんなの他の人に知られたらどうなるか……」


 涙目で必死に首を横に振る伸也。どうしてこんな服装にさせたかというと、これからの行動に必要になって来るからだ。


「――む、来たか。伸子、準備は良いか?」


「伸也! 僕の名前は伸也!」


 可愛く抗議の声を上げる伸也を尻目に、俺は校門の方を凝視する。


 そこには丁度帰路につく桐生の姿があった。ヤツはそのまま学校を後にし、一人黙々と歩き続けている。


「よし! 後をつけるぞ!」


 俺は伸也の手を引き、バレないよう桐生のはるか後方に着いた。距離にして約三十メートルくらいか。まあ見つかりはしないだろう。変装しているし。


「……うーん。こんな事していいのかな?」


 俺の横で何とも歩きづらそうに伸也は付いてくる。


「必要なことなんだよ! 伸也だって、俺がこのまま暴言を浴びせられるのは嫌だろう?」


「いや、確かに鏡夜に聞いた通りなら、何とかしなくちゃとは思うけど……。何もストーキングなんて……」


 罪悪感から伸也は腑に落ちない顔つきになった。


 俺は昼休みを使って、伸也に俺と桐生の関係について説明した。そしてその上で、ヤツの弱み――ではなく情報を得るために、一緒に追跡することを頼んだのだ。女装してもらうというおまけつきで。


「とりあえず承諾はしたけど……女装する必要あったのかな?」


「念のためにな。もしかしたら下着専門店みたいな女性しか入れない店に入るかもしれない。だがカップルなら大丈夫だろう。それに単独より目立ちにくくなるはずだ」


 俺の言葉に伸也はうんうんと悩んでいる。


「……まあ、女子にはとてもじゃないけど話せないし、協力してもらうのは無理だね。やることも犯罪みたいなもんだし。仕方ないのかな。……あれ? でも鏡夜が女装しても別によかったんじゃないの?」


 伸也の言葉に対し、俺は即座に返答する。


「そんな死ぬほど恥ずかしいこと、出来るわけないだろ! いい加減にしろ!」


「僕は死ぬの!? というかそんな事僕にさせておいて、何て言い草! このゲス! 性悪! 人でなし!」


 伸也がこれでもかと言わんばかりに大声で責め立てる。ギョッとした俺は、即座にその口を両手で塞いだ。


 恐る恐る前方の桐生を見やる。


 ヤツはこちらの存在など気づいていないようで、そのまま我が道を進んでいた。


「……あ、危ない。……悪い悪い、とにかく落ち着いていこう」


 まだ何か言い足りないようだったが、俺の言葉を理解したのか伸也は大人しくなった。この分だと『見てて楽しいから』という理由は言わない方が良いだろう。また一つ賢くなった。


 ****


 そのまま俺たちは桐生の後を追い続け、学校から最寄りの駅に到着した。ここまでは予想通りだったが、その後の行動は少し思惑とは違った。ヤツは市街地に用があるのか、その方面の電車にしばらくの間乗っていた。事前調査によると、もっと手前の駅で降りるとのことだったのだが。


 当然ながら俺達もそれに続く。どこまで乗るかは分からなかったが、あらかじめプリペイドカードに多めにお金をチャージしておいたので問題なかった。


 桐生は市街地に到着した後、ショッピングモールに入った。俺と伸也はその歩みに付いていくだけだったが、何度も人ゴミで見失いそうになった。


 おまけに伸也は人目が多いせいか益々泣きそうな表情を浮かべていた。面白かったので、ケツを触ったりスカート捲ったりした。すると本気の拳が飛んできた。


 そして今は、本や雑誌など書籍が売られているエリアにまでやって来ていた。


「……あの野郎、一体何が目的なんだ? ただの買い物か?」


 本を読んでいる振りをしながら、桐生の様子を密かに観察する。


「でもここまで何も買ってないよね? お店も見るだけですぐ出ちゃうし。……何か時間を潰してるっていうか」


 俺の隣で伸也がそう呟く。俺の真似をしているつもりなのかもしれないが、手に持っている本は上下逆さである。さりげなくドジっ子アピールをするとは……侮れない。


「うーん。アイツは今何を眺めているんだ?」


 ジッと目を凝らして、桐生が手に取っている本が何かを調べる。


「……なになに、『プレゼント選びの定番! これでハートをもぎ取れ!』……」


 これは……どういうことだろうか? ……プレゼント?


「あー、これは彼氏へのプレゼントを探しているのかも。残念だったね鏡夜」


 伸也がニヤニヤしながら俺を見ている。どうでも良いけど、お前のその姿もう写真に収めてあるからな? これから一週間はこれで苛めてやる。


「彼氏か。あの見た目なら居ても不思議でないが、俺の情報網に引っ掛からないのはおかしいな。というか俺でなくとも、すぐに誰かの知るところになると思うんだが」


 彼氏とか彼女とか、そういう恋愛がらみの噂はすぐに広まる。特に桐生はとにかく目立つ。付き合っているのが他校の人間でもない限り、隠し続けるのは不可能だろう。


「確かにねー。まあ、ただ見てるだけなのかもしれないし」


 そこまで話して、何かに気づいたのか桐生は本を戻し出口へと歩き出した。


「あ、ヤバいヤバい。また移動するぞ」


 俺は持っていた本を棚に戻し、すぐさまその後を追いかける。


「ま、待ってよ鏡夜!」


 相変わらずミニスカに慣れないのか、それとも気恥ずかしいのか、伸也はやや遅れて後を追う。


「――うわ!?」


 小走りで追いかけていると、後方から伸也の声が聞こえてきた。


 振り返ると尻餅をついた伸也と男性の姿があった。


「……あ、ごめんなさい! ちょっと急いでて」


 ぶつかった事を即座に謝罪する伸也。もう少しでパンツ見えそう。男性の方も女だと疑っていないのか、頭を下げてそそくさと去って行った。


「おいおい気を付けろよ。そんなになるなら、ミニスカなんて履いてくるな」


「どの口がそんなこと言うのかな? ……そう言えば桐生さんは?」


 あ、すっかり忘れてた。


 我に返った俺は桐生の姿を探す。周りを見渡すがどこにも存在しない。

人ごみに紛れてしまったか……。だがそれほど時間は経っていない。どこか近くに居るはずなんだが。


「ちくしょう、アイツどこ行った!?」


「……ぶつかる寸前、あの辺りに居たような気がするんだけど……」


 伸也が指をさしてその場所を示す。そこにはいくつかの雑貨や飲食店があった。


「クソ。分からんが、あの中のどれかに桐生は居るはずだ。とりあえず、あそこの店に入るぞ」


 俺は通路の奥にある喫茶店に入ることに決めた。


「入るのは良いけど奢ってよ? 協力してるんだし」


 すっかり彼女気取りか? まあ面白いネタも手に入ったし許してやろう。尻餅ついた写真は顔を隠せば売れるかもしれない。雄介――下半身バカなら、伸也と分かっても買うかもしれないし。


 俺は桐生の事より、そちらの方に考えを巡らせていた。


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