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その優等生ゲスにつき  作者: カツ丼王
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3.優等生の仮面

 桐生による暴言の嵐を乗り越えた俺は、自分のクラスへと向かった。HRにはまだ時間が幾分あるが、クラスメイト達との交流も大事だ。


 教室の前に来たところで俺は目を瞑り、日課の祈りを捧げることにした。


 ――今日も一日完璧なイケメンでありますように。


「おはよう!」


 元気よく俺は教室の扉を開け、クラスメイト達に自分の存在を誇示した。その声に何人か反応を示し、所々で返事が返って来る。


「おはよう朝霧君! 相変わらず元気一杯だね!」


 眼鏡をかけた女生徒が笑顔を浮かべながら近寄ってきた。


「やあ三枝さん、もちろんだよ。なんたって、今日の一限は如月先生の授業だからね。不遜な態度を取れば、生きて帰れるか分からない。気合を入れないと!」


 俺はジョークを交えながら笑顔で対応する。


「あーそんなこと言って。……知らないよ? もし何かあっても、クラス委員権限で朝霧君を犠牲にクラスの平和を守るからね!」


 彼女の名前は三枝真理(さえぐさまり)。俺が所属しているクラスの委員を務めている。落ち着いた性格で、和を尊ぶ人格者である。別名、メガネ委員長。


「それは酷いなあ。……あ、そういえば先生からアンケート用紙を配るように言われてたんだった……」


「……あれ、もう先生に会ったの?」


 彼女の顔が疑問の色に染まる。余計な一言だったか。


「偶然来るときに見つかってね。朝から災難だったよ」


「……ふーん。朝霧君って、如月先生とよく話してるよね。仲良いの?」


 流石はクラス委員を務める女子なだけはある。細かい部分を掘り下げるな。


「一年生の時は行事のたびに色々やってたからね。生徒会にも所属していたし。如月先生は生徒の指導を任されているから、結構お世話になっていたんだ」


 俺は一年生の間、人脈構築のため多数の役職を務めていた。それを通して生徒会メンバーや部活連の連中とも顔見知りになることが出来た。今はフリーであるが、その時に手に入れたコネクションは今でも役に立っている。


「なるほどねー。確かに朝霧君のこと見かけることが多かったし。有名人だよね。うちの先輩や後輩が朝霧君の事話しているところ見たことあるし」


 だろうな。一年の時、俺は何かある度に率先して活動していた。おまけに学年一位を取り続けたことで、校長にも直接褒められるぐらい話題になった。有名というのは困りもんだ。


「いやいや、助けてもらっているからこそ、今までやれたんだよ。自分一人では絶対できなかった。みんなのおかげだよ!」


 そんなこと微塵も思っていないけどな。だが謙虚さは集団で生きる上で必要不可欠だ。


 三枝も感心したのか、うんうんと頷いている。


「……というわけで、三枝さんからも力を借りたいなー。……はいこれ!」


 そう言って、先生から渡された紙束の一部を彼女の前に差し出す。


「えー。……もう、仕方ないなー。ま、私クラス委員だからね」


 そう言って三枝は紙束を受け取り、クラスメイト達の方へと離れて行った。


 俺は人間関係においては損得しか考えない。正直こんな小さなことで、彼女が役に立ったなんて思うはずがない。しかしながら、前提として重要なのは相手との関係を築くこと。そうしなければ本当に自分が困った時に、助力を得ることが出来ないからだ。


 人間関係というのは複雑である。ただ単に相手のために行動するだけでは、信頼を得ることは難しい。一方的ではなく、相互に渡る関係が大切なのだ。


 今の三枝とのやり取りでキーだったのは『君は俺の力になっているよ』というサインを送ることだ。人間は他人から必要にされた時、喜びを感じる。どんな人間にも『自分を認めてもらいたい』という承認欲求がある。それを満たすことが良好な関係を得ることに繋がるのだ。


 特に俺は周囲からの評判が極めて高い。そういう人物から『必要とされる』のは間違いなく嬉しいはずだ。女子には特にこれが効く。今回はそれの縮小版のようなものだが、効果はあるだろう。


 俺はこんなことを常に考えて行動している。


「おう、朝霧。おはようさん」


 アンケート用紙を配っていると背後から声を掛けられた。振り返るとそこにはスポーツ刈りの男子が立っていた。


 荒木雄介(あらきゆうすけ)。サッカー部に所属しており、明るい性格で友人も多いが、スケベである。何と言っても、女にモテるからという理由でサッカーをやるぐらいだ。別名、下半身バカ。


「オッス。俺は今絶賛労働中なんだけど。何かご用?」


 手は止めずに話半分で対応する。すると雄介は俺の前で手を合わせ、勢いよく頭を下げた。


「実は一限の宿題を見せていただきたく、お願い仕った限りであります」


「何と、それは大変。如月先生に対して裸で挑むようなもんだぞ」


「……おいおい、下ネタはやめろよ。まああの巨乳だからな、俺も妄想したことはある。男なら一度は思うよな!」


 チンパンジーかコイツ。やはり本体は頭ではなく股間にあるらしい。


 俺は肩にかけた鞄からプリント抜き取り、目の前に居る類人猿に渡した。


「ありがたやー。これで今日も生き残れそうです。ありがとう朝霧! お前になら抱かれても良い!」


「そんな冗談は止めてくれ! あと写すのは6~7割くらいにして、あとは空欄か適当に自分で埋めとけよ? 全部書き写したらバレるから」


「わかってますよー大将!」


 雄介は嬉々とした様子で自分の席へと戻った。一方的な関係ではダメだというのに、正直コイツは助けてばかりだ。まあ何かあった時はこき使ってやる。バカだが体力はあるし、俺がキチンと操作すれば大丈夫だろう。


 するとそこで予鈴が鳴り、教室内に散らばっていた生徒たちは各々の席に戻り始めた。俺もその例に漏れず席へと戻る。


「よくやるよねー。疲れないの?」


 席に着くと後ろから何者かが話しかけてきた。声の方を向くと、そこには童顔でかわいらしい男が居た。


 谷垣伸也(たにがきしんや)。俺の正体を知る唯一の友人にして親友。真面目で心優しく、俺の無茶に付き合うくらいに良いヤツである。


「毎朝早くから勉強するし、他の人にも気を配るし。……ちょっと心配になるくらいだよ」


 くせ毛を触りながら伸也は呟く。そういう仕草がかわいい。男だけど。


「これくらい苦でもなんでもない。凡人とは違うからな」


「うん、呆れるほどの自信だね。……鏡夜って、もしかして人間じゃないんじゃ……」


 どうしてそうなるのか。先生にも言われたが。


「人間に決まってるだろ。何言ってんだ?」


「いや……誰に聞いても鏡夜はすごいよ。悪い噂も聞いたことないし。というかこの学校で鏡夜の事知らない人なんて居ないんじゃないのかな?」


「当たり前だな。そうなるように仕向けてるわけだし」


 何が言いたいんだコイツは? 心配してくれるのは結構だが、生憎俺は完璧だから……。


「ああ、完璧すぎて心配ということか。確かに弱点がないのが弱点とも言える。けど安心しろ、演技でその辺もカバーしてる」


 すると伸也は呆れたような表情になった。


「うん、すごいよその思考。逆に心配になった。……まあ鏡夜くらいに目立つ人は居ないよね。居るとすれば、桐生さんくらいかなー」


 その名前を聞いた途端、俺は凄く不快な気持ちになった。


「……何でそいつの名前が出てくるんだ?」


 以前のやり取りから今朝の事までが頭に過ぎり、俺は思わず抗議の言葉を述べていた。


「だって男子からの人気は凄まじいからね。信じられないくらいにきれいだし。僕も一度でいいからお話してみたいなー」


「止めておけ。お前の泣くところなんて見たくない」


 俺はそれだけ言って前を向いた。腕時計に目を落とすとチャイムが鳴る寸前だった。


「鏡夜? それは、どういう――」


 そこで伸也の言葉を打ち消すようにチャイムが鳴り、如月先生が姿を現した。


 話はここまでだ。俺たちを含め教室中が静かになった。


 ……後で伸也には桐生のことを話しておこう。あの笑顔は守らなければ。それにコイツには頼みたいことがあったしな。


 俺はHRの聞きながらも、頭では桐生に対する対抗策を練っていた。


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