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その優等生ゲスにつき  作者: カツ丼王
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23.若人は難題へ挑む

 クラスメイト達に事の次第を説明した俺は、靴箱である人物を待っていた。時刻はまだ二時過ぎだが、生徒達は浮足立ったような雰囲気で下校していた。脅迫状が送られた事に対する特例の処置ではあるが、果たして意味はあるのだろうか。


 そんなことを考えていると、お待ちかねの女生徒が現れた。


「……ハァ、ハァ……も、持ってきわよ……」


 錦織会長が肩で息をしながら、俺の下へとやって来た。右手には分厚いファイルのような物を携えている。


「ありがとうございます! 錦織会長」


 俺は彼女が持ってきたそのファイルを受け取り、中身を確認する。そこには憐明高校の生徒会規約や校則が詳細に記載されていた。彼女を呼び寄せたのは、この生徒会室に置かれていた資料を持って来てもらうためであった。


「それは、別にいいんだけど……本当にやるつもりなの?」


 会長は不安げな声音で俺にそう問いかける。


「はい。そのつもりです」


 俺はページをめくる手を止めずに、はっきりと彼女の言葉に応えた。


「で、でも……いくら何でも、……『校則を変える』だなんて……」


 校則を変える――それが俺の最終目標である。桐生と如月先生の行動が問題視されているのは、『校則を破った』という一点のみだ。だから校則の方を何とかすれば、自ずと事態は解決されるだろう。高校生がアルバイトする事は犯罪ではないし、如月先生は保護者である星奈さんとバイト先である喫茶店……この両者と連絡を取り合いながら、桐生の事を監督していた。


 詰まる所、諸悪の根源はこの校則だけなのだ。


「やるしかないです。そうしないと、如月先生と桐生は……このまま処分されてしまうかもしれない……。学校に居られなくなるかもしれないんです」


 俺は会長にそう告げる。しかしながら、彼女の表情は増々曇ってしまった。


「それは分かるけど……出来るの?」


 会長はどうやら今から俺がやることに、相当な心配があるらしい。


「規約には『全校生徒の過半数以上の賛成が得られれば、校則の変更および撤廃が申請できる』とあります。これさえ出来れば……」


 俺はファイルに書かれてある、生徒投票に関する一節を読み上げる。だが自信満々の俺に対し、会長は不服そうな顔つきになった。


「でもそれはあくまでも『申請できる』だけよ!? どうにかして生徒達の賛成を得られても、教員側が――五十嵐校長が認めなければ……成立しない!」


「……それは……」


 痛いところを点かれて、俺は何も言い返せなくなってしまった。尚も会長は言いたい事があるらしく、挑むように俺に詰め寄って来た。


「それに、今から生徒達の同意を集めるのにだって時間が掛かるわ! 一人一人署名か何かで集めるとしたら、必要な数を集めて集計する間に……一週間は経ってしまう。それまで二人が今のままかも分からないし、何より学校側に隠れて票を集める事だって不可能だわ! 知られれば、校長は必ず何か妨害して来るだろうし……」


 言いながら、会長のテンションは見てわかる程に下がっていった。自分で話していて、やろうとすることの難題さを痛感したようだ。


 だが無理でもやるしかない。これしか俺には思いつかなかったのだから。


「……言いたいことは分かります。それについてはこれから考えます。幸い、明日まで憐明は休みですから……それまでに噂は改められて、広く伝わると思います」


 さっき俺が教室内で話したことは、クラスメイト達によって拡散されつつあるだろう。俺自身も会長だけでなく、連絡の取れる友人たちにメールの一斉送信で詳細を伝えてある。


「……あなたがさっき言っていた話ね。……確かに、桐生さんと如月先生、今回の二人の経緯を知れば……多少は協力してくれる生徒も出てくるかもしれない……」


 俺が二人のことを説明したことによって、すでに会長を含めた生徒会のメンバーも協力を申し出てくれている。このように協力者が増えている状況なのだが、会長は不安を取り除けないようだ。


「全ての生徒が二人の事を知っているわけではないし……こういう事に協力したがらない人だって……中には居ると思うわ……」


 会長は苦虫を潰したような表情でそう言った。


「……同意を得るのは難しいと?」


「……厳しい言い方すれば。……少なくともすぐには……集まらないと思う」


 確かに彼女の言う通りではある。こういう事態になって協力してくれる人も居る一方、反骨精神を剝き出しにして対応する奴も居る。ただ面白がる奴も居るかもしれないし、桐生と如月先生を非難する者もいるかもしれない。人間は思いの外、負の感情を抱いてしまう生き物なのだから。


「時間的な制約に加え……そもそも必要な賛成票を集めるのも難しい……か」


 俺は顎に手を当てて、どうにか上手い方法はないかと考えた。


「……こういう時は生徒達を一か所に集めて、挙手による投票をやるのが手っ取り早いんだけど……」


 会長が頭を抱えて悩みながら、そう呟いた。


「そんなこと、五十嵐校長は許さないでしょうね。僕たちが校則を変えようとしていることを知れば……即座に活動を中止させて、二人の処分を早めるかもしれない……」


 学校側に投票活動を知られるのはリスクが高すぎる。あの五十嵐校長の事だ。何かしらの邪魔はして来るだろう。よって俺達は短期決戦に加え、学校側に隠れて動かなければならない。……何か自分で言ってて、不可能な気がしてきた。


 しかしながら、脅迫状によって校内は異様なムードになっている。教員も生徒も常ではない状況下にあるため、上手く欺いて票をかき集めることも出来るかもしれない。


「……勝算がないわけではないですよ。まあ、何とかします。とにかく、心構えと準備だけはしておいてください」


 俺は作戦が完成次第、協力してくれるように会長に頼んだ。


「……分かったわ」


 これから忙しくなることを予見してか、疲れ切った声で返事をする会長。彼女は大きな溜息を吐いた後、校門から下校する生徒達を眺めた。


「犯人……まだ捕まっていないみたいだし、……大丈夫かしら?」


 生徒に危害を加えるという文書。どこまでが本気か分からないが、差出人があのストーカーであるなら……用心しておくに越したことは無いだろう。


「分かりません。桐生が一番危ないでしょうが、アイツの家はそれなりに厳重ですから……引き籠っていれば、問題ないでしょう」


 俺は最も標的にされるであろう桐生について話した。しかし答えた内容が外れていたのか、会長は俺の方をじっと睨んだ。


「……あなたはどうなの? 犯人の姿を見たって……」


 俺の身を案じるように会長は言葉を発した。心配してくれるのは有り難いが、今そんなことはどうでも良い。


「俺は大丈夫ですよ。誰が相手でも負けません!」


 一度撃退した以上は大丈夫だろう。彼女に心配させないように、俺は満面の笑みで返答し、不安を払拭しようとした。だが彼女の表情は変わらず、少しだけ俯いてしまった。……どうしたのだろうか? 何かマズイ素振りを加えてしまったのか?


 俺が自分の言動を振り返っていると、会長は顔を上げて微笑を浮かべた。


「……あまり無理はしないようにね。あなたはスゴイ人だけど……少しだけ、何と言うか……危ういところがあるから……」


「……」


 それは……どういう意味だろうか? 彼女は、俺が何か危ないことをするとでも思っているのだろうか?


 返す言葉が見つからず、俺はそのまま棒立ちした状態になった。


「……もう下校しないと。……朝霧君、またね」


 会長は軽く手を振り、小走りで校門の方へと消えて行った。


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