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その優等生ゲスにつき  作者: カツ丼王
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18.ゲスの逢引き②

 俺と桐生の二人は互いに別行動を取ることにした。とは言ってもストーカーに付け狙われている手前、それほど離れて物色するわけではない。せいぜいが同じフロア内を自由に回るだけだった。さすがに人が多い建物の中で、向こうから何か仕掛けてくるという事はないだろうと考えての事だった。


 俺は少し前にお気に入りの手帳を汚してしまっていたので、その代わりを探そうと思い、雑貨を売っている区画にも足を運んだ。しかしながら、プレゼントを買ったことで手持ちのお金が残り少ないことや、新しい物に改めて予定を書き込むのが正直しんどいとも感じたため、結局今回は見送ることにした。


 ひとまず最低限の目標を完遂した俺は携帯で桐生に連絡を取り、フロア内の角にある休憩スペースに集合することにした。


「結局お前は何を買ったんだ?」


 休憩所の長椅子に腰かけながら、俺は念のため桐生にプレゼントの中身を訊ねておくことにした。


「口紅よ。これなら実用的だから、あまり気負わずに受け取ってくれるはず。……あなたも何か買ったの?」


 手に抱えたピンク色の袋を見せながら桐生はそう答えた。


 どうやらプレゼントが被るということは無かったようだ。というか確認しながら買うべきだったと今更になって反省した。


「俺はハンドクリーム。理由は似たようなもんだな」


 彼女の動作に応えるように、俺も自分の戦利品を見せた。


 すると桐生の顔がやや複雑な面持ちになった。


「……その、良かったの? 部外者のあなたにまで、お母さんのプレゼントを用意してもらうなんて……」


 桐生は申し訳なさそうな声音で俺に訊ねてきた。


 どうやら余計な心配をしているらしい。これだから貧乏人は困ったものなのだ。


「いや部外者じゃないし。俺と星奈さん、二人の関係なんだからお前は気にする必要ないだろ。ただ単純に祝おうという気持ちを蔑ろにするつもりか? 俺は好きでプレゼントを用意したんだよ」


 俺は桐生に余計な気を遣わせないよう、当たり前だと言わんばかりに強い口調で発言した。実際余計なお世話なわけであるし、コイツに気を遣われるなんて……気持ち悪いというか、酷く違和感を覚えてしまう。


 俺の自信満満な返答に、桐生はいつもの元気を取り戻したようだった。


「……あなたがそう言うのなら、私から言うことは無いわ」


 どうやら桐生も俺の行動に納得したようだ。つまり、これから先の俺と星奈さんの関係を認めたということなのだろう。桐生の許可がもらえた以上、あとは星奈さんを攻略するだけだな。


「娘よ。受け入れてくれてありがとう」


「言うことができたわ。……死ね」


 俺の発言を聞いた瞬間、桐生の目つきは汚物を見るかのように厳しいものになった。


「早速反抗期かよー、彩たーん」


「たん付けはやめて! ホントにキモいから!」


 めげることなく俺は桐生を茶化すことにした。


 コイツとは対等でありたい。だからこうして常日頃から弄って、俺に対して引け目を感じさせないようにしなければ。これもまた俺の殊勝な心がけとも言えるな。


 そうやって桐生で遊んでいると、俺のお腹がぐうと音を立てた。


「腹が減ったな。飯にしようぜ」


 すでに時刻は七時前ほどになっていた。そろそろ夕食を摂ることにしても差し支えない時間帯だろう。


「え? まあ良いけど。どこで食事を摂るの?」


 桐生はやや意表をつかれたような表情になった。


 彼女の問いかけに俺は周囲を見渡して御眼鏡に適う店を探す。


「あー……あそこなんてどうだ? うまいって評判らしいぞ。特に親子丼が」


 俺は少し離れた位置にある丼ものを扱っている店を指さした。こういう店をデートに利用するなんてマナー違反とも言えるが、コイツの嫌がる顔が見れるなら別にいいや、と考えた。


 俺はニヤニヤしながら桐生の方を見やる。


「へー、まあ良いわよ」


 だが彼女の答えは俺の予想とは異なるものだった。強がりかと思ったが、表情にも全く不快感を表していない。


「……意外だな。『こんな男臭い店は嫌だ!』って言うかと思ったのに……」


 俺は舌打ちしながらその態度を褒めることにした。


「残念ね。お安く食事が摂れる以上、私は特に気にしないわ。……私に意地悪しようとしたんでしょうけど、考えが甘かったわね」


 やや誇らしそうな様子の桐生。別に胸を張る程の事ではないが、俺の見込みを越えてきた以上は何も言えない。


「――チ、仕方ないか。大人しくここは俺が奢ってやろう」


「はあ? 別に良いわよ。気遣いなんて無用よ」


 俺の申し出に桐生は度肝を抜かれたようだ。というか若干怒っているように見える。だが俺としてもここで引き下がるわけにはいかなかった。


 俺は断固とした態度で桐生に食って掛かった。


「こういう店で女に金を払わせたら、男のメンツが立たないんだよ! どうしても気になるなら店を出た後にしろ。……それに安いんだから気にするな。ここは大人しく奢られとけ!」


 俺にもプライドがある。こんな場所で女に財布を出させるなど言語道断。


 俺のかなり食い気味な物言いに、桐生は圧倒されたように驚いている。


「……そこまで言うなら……ありがとう、ご馳走になります」


 観念したのか分からないが、しおらしい態度で彼女はお礼の言葉を述べた。


「おう。親子丼にしとけ。美味いし安いし」


 そう言いながら俺たちは店内へと足を踏み入れた。こんな事で感謝するなんて、お安い女だな。俺がタダで奢ると思っているのだろうか? どうやらまだまだ分かっていないようだ。


 俺達は席についておすすめメニューである親子丼を頼んだ。その後、俺は店内から見えたゲームセンターのエリアを指さした。


「最後にゲーセン行って、あれやろうぜ!」


 俺が指し示した先にある筐体を視界に捉え、桐生は少し顔をしかめた。


「……プリクラ……よね? ……何であなたと?」


 どういう意図があるのか図りかねたのか、桐生は疑問の声を上げる。


「何でって……星奈さんは俺とお前が付き合ってると思ってるから……手土産にどうかなーと思って……」


「どういう説明をする気!? あなたさっき、私のお母さんが理想だって言ってたじゃない!」


 何を怒っているのか。そんなに俺とツーショットを撮るのが嫌なのだろうか? 母親を狙われて不愉快そうだったから、今度は桐生に狙いを変えてやったというのに。……ならば折衷案を取るしかないな。


 イラついている桐生を見据えて俺は解決策を提示した。


「なら両方行くか。……親子丼も悪くは無いかも」


「……殺すわよ」


 桐生の目はとんでもなく厳しいものになり、額には青筋が走っている。おまけに右手は力強く握り込まれていた。


「悪かったよ! さすがに今のは冗談だって……」


 危険なオーラを感じ取った俺はすぐさま白旗を上げることにした。また殴られるなんてホントごめんだ。せっかくカッコよく生まれてきたというのに。


「……でもよ、親子丼ってかなり酷いよな」


 平謝りをし続けた後、俺は窓の外を見ながらそう呟いた。


「……はあ?」


 一体今度このバカは何を言い出したのか? 桐生の表情はそう言いたげだった。


「だってそうだろ? あれって鶏の肉と卵を使うじゃん? 人間で言うと、胎児と成人を一緒に食う様なもんだろ? ……おいしいけど、酷いよな……。マトモな精神のやつは、その残虐性に心を病んでしまう事だろう……」


 彼女の抗議も気にせず、俺は正直な感想を言ってのけた。さらに間髪入れず、話を続けることにする。


「全く、名付けたやつも性格が悪いぜ! 丼ぶりの中に二世代の亡骸を集約し、両者を再会させる! 親子丼……こんなものを喰うなんて、俺たちは倫理的に許されるのか?」


「……」


 俺のわざとらしいまでの嫌味に桐生は言葉を窮していた。いや、何も言えないと言うよりは何も言いたくないというカンジだ。彼女の顔は『俺のことを凄く不愉快に感じています』という思いを雄弁に語っていた。


「おまちどー」


 するとタイミング良く、注文した親子丼が二つ届けられた。


 俺は流れるような動作で箸を持ち、出来たてほやほやの親子丼を食す。


「うっほー!! うめえ!! 丼ぶりの中で卵と肉が混ざり合い、化学反応を起こしてやがる! 最初に思いついた奴は天才だぜ! この歳の差……人間も一世代離れたぐらいが丁度良いな! お前もそう思うだろ?」


「……」


 俺は目の前に用意された親子丼に舌鼓を打つ。それに対して桐生は、親子丼を凝視したまま微動だにしない。一体どうしたのだろうか? 


「おいおい、奢ってやるんだからキチンと食えよ。近頃の女は奢られて当たり前だと思ってやがる。食べきって、最後にちゃんと『ご馳走様』ぐらい言うべきだろ?」


 俺は至極真っ当な事を言ってのけた。


 桐生はこちらをまさに親の敵と言わんばかりに睨み付ける。


「――ああ、もう!! 分かったわよ!! 食べれば良いんでしょ!? 食べれば!? あなたのおかげで、おいしく食べられそうです! 死ね!! このゲス!!」


 やけくそになった桐生は親子丼に手を出し始めた。最初の一口だけは決心するのに時間が掛かったようだが、そこから先は抵抗感なく口に運んで行っている。味の方は彼女からしても合格点のようだ。……ちょっと涙目になってたけど。


 美少女が嫌々ながら目の前のモノを食し、その味に嫌々ながら満足するなんて――なんというご褒美なのだろうか! こんな風に奢らせる方を楽しくさせてくれるなんて、桐生はホントは良い子なのかもしれない。うん、まさにウィンウィンだね!


 眼前の半泣きになっている桐生をオカズにして、俺は楽しいひと時を味わうことが出来たのであった。


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