幕間
その教室はどうしようもない悪意で満ちていた。
表面上は仲良くしている様に感じられる。
しかし実態は全くの逆。
生徒たちの笑い声。教師による授業。
どこにでもある日常。
その全てが不快だった。
どうしてあんなにも楽しそうなのか? どうしてそれほどまでに平然としていられるのだろうか?
僕は教室のドアを開ける。
クラスの生徒達の目が僕に集まった。
僕はそれを気にしないように、気づかないように、一定のリズムで自分の席へと向かう。
離れた席から嘲笑が聞こえてきた。ヒソヒソと僕の事を話している。
教室内の全ての人間が僕の敵だった。
最初の頃はこれだけで身動きできなくなり、お腹が痛くなったけど、今は我慢できるようになった。
目線を逸らさず、前だけを見据え、出来るだけ視界に彼らが映らないように歩く。
僕はそのまま席へとたどり着くことが出来た。
机を見るといつものように落書きが書かれ、ガムなどのゴミが放置してあった。
『裏切り者』『死ね』『学校に来るな』『自殺しろ』
何度聞いたか分からない言葉の羅列。
僕はいつも通りそれらを消しゴムで消して、ゴミを払い落とす作業に従事しなければならなかった。
僕のその姿を見て、再びせせら笑う様な声が漏れたようだった。
惨めで、悔しくて、涙が出そうだった。
でもそんな姿を見せてしまえば、もっと馬鹿にされ、笑われてしまう。
だから平然としないといけない。
そんなことしか出来ない。
――でも逃げる事は不可能だった。
僕はそれだけの事をやったのだ。この痛みは受けなければならない。
仕方がない。諦めるしかない。
……でも、どうしても考えてしまう。
ついこの間まで仲良しで友達だったはずの僕に、どうしてこんな事が出来るのだろう? 何とも思わないのだろうか? 心は痛まないのだろうか?
僕を親友だと言ってくれた男子生徒。
僕の事が好きだと言いてくれた女子生徒。
以前までの彼らは、僕に笑顔を見せてくれていたというのに。
それがどうしても、気持ちが悪い。
同じ空間にいる人間が仮面を被っているような感覚になる。
優しかった友達も、褒めてくれたはずの先生も、何もかもが嘘だった。
みんな僕の事を人間と思っていないかもしれない。
けどそれは僕も同じだ。今だって、何ともない振りをしている。
僕の気持ちが分かるのは、僕だけだ。
他人は助けてくれないし、気づいてくれない。
だから自分で自分を守るしかない。他人を当てにしてはならない。強くならなければならない。
自分一人ですべてやらなければ、自分が変わらなければ、僕の世界はこのままだ。
強い自分を、最強の自分の作らないと生きていけない。
たとえそれが嘘で塗り固められた物だとしても、僕には必要だ。
優しく、善良で、弱い、そんな自分を心の奥底に閉じ込める。
そして狡猾で、残酷で、強い、理想の自分を演じる。
そうしなければならなかった。
でなければ、――俺は何一つ報いることが出来ない。




