39輪
「して人の子よ。主はこれからどうするのだ?」
「えっ?」
千年樹の木霊が話しかけるまで、意識が別の方に向いていたみたいだ
「主の仲間を探さずともよいのかい?」
「あっ!そうだよ!皆の所に行かないと!」
熊に襲われたりと色々あったため、皆のことをちょっと忘れてた
「……ふふふ、人の子よ。1つ忠告をしておこう」
「えっ?はい」
「この森は人ならざるものの森。故に、深くまできた人々を殺すモノもいる」
なんとなく予想は出来ていた
阿比王が連れてくる場所にはいつも妖怪がいるのだから
「なれど、そのモノ達を傷つけてはならぬ」
「えっ!?どうしてッ!!」
「この森に住みしモノ達は容易に殺す訳ではなく、コチラの住み処までに来られることを忌み嫌っているが故に殺すのだ。人は昔から我らの森を削り壊し、破壊し、最終的には我らの生きる場まで奪う!!」
千年樹の木霊のその言葉には怒気が含まれていた
「だが、そんな我らの味方をした一人の人の子がいた。その者は我らの話を聞き、そしてその者は我らのこの住みかに人の手が出せぬ様にしてくれた」
千年樹が語った『人の子』。その人の子の話しはまるで、我が子を慈しむ母の様な眼差しで、その子がとてつもなく、羨ましかった
「その時に人の子と約束した」
『無闇に人を殺しちゃいけないよ。人が入っていい場所までは印をつけておくから、もしその印から先、つまり君達の縄張りに入ったら好きにしたらいい。煮るなり焼くなり……ね』
「とな」
いやいや、その子無茶苦茶物騒なこと言ってるよね!?なにそれ怖い!
ってか最後の『ね』って黒い笑顔が見えたような気がしたのは気のせいだよね!!?
アレ?その流れで言うと……
「僕は千年樹の木霊さんに殺されると言うことですか?」
「いや、我はその様な物騒で野蛮なコトはせん」
よかった。僕まだ死ななくてすんだ
「だが、この森は私以外にも沢山のモノ達がいる故に、心して行け」
「………はい(泣)」
「アン!!」
「ふふふ、そのモノが主を仲間の元に案内してくれるようだ」
「えっ!?本当に!?」
「アン!!」
まるで、『任せておいて!』とでも言うかの様に子犬は鳴いた
「あの、千年樹の木霊さん」
「ん?どうした人の子よ?」
「色々教えてくれて、ありがとうございました!」
千年樹の木霊は面食らった顔をした後、慈愛を込めた眼差しで『どういたしまして』と言った
その眼差しが、僕が幼い頃、両親にしてもらいたくて堪らなかった眼差しだった
「行け、人の子よ。武運を祈っておる」
「はい!」
「アン!!」




