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プロローグ
アイスピックが貫いたのはペラペラの紙では無くて、僕の心臓だった。目の前で火花が散り、視界がぼやけていく。
急に苦しくなり、身体の底から何かが競り上がってくる。唇を薄く開くと、涎と赤い液体が溢れ出す。鉄臭さのあるそれは一瞬にして僕の口元を朱に染め上げた。
"あーぁ、死んじゃうんだ。あっけなかったね。僕の人生、アイスピック一本でオシマイなんて。"
永い睡眠を目の前にした熊のようにドスンと音を発て寝転ぶ。きっとこの高さから落ちたら痛いだろうな。高所恐怖症の僕には気が遠くなりそうな程高いビルの屋上、フェンスは無い。つまり落ちたら───。そこから落ちた僕は、地面とぶつかった、そう感じる前に意識は何処かへ飛んでいた。
2月14日、一年で何番目かにロマンチックな日に僕は死んだんだ。