第一章 邂逅 其の三
いよいよ、一刀が麗羽と対面します。
麗羽の心情等が、上手く表されているか心配です。
また、皆様から御指摘頂いた点も、自分なりに直して執筆してみました。
まだまだ出来の悪い内容ですが、読んで遣って下さい。
では、どうぞ…
一刀視点
「斗詩さん!猪々子!何時まで私を待たすつもりですの?!」
一刀達が、袁紹の下に到着するや否や、袁紹は第一声を噛ましていた。
「す、すみません……麗羽様……色々と、この方と話をしていたので…」
と、顔良が申し訳なさそうに袁紹に答えていた。
「其方の方の素性を聞き出すのに、そんなに時間が必要でしたの?」
袁紹は、然も時間を掛け過ぎだと言わんばかりだった。
「御初に御目に掛かります。私 姓を北郷、名を一刀と申します。字は有りません。貴女が、袁本初殿でしょうか?顔良殿・文醜殿は、良き家臣ですな。見ず知らずの私の話を、良く聞いて頂きました。家臣が良いと言う事は、君主もまた良い君主かと思いますが…?」
一刀は、袁紹の怒りの矛先を、顔良から自分へと移そうとした。それが功を奏したのか、袁紹の視線は、自然と一刀に向いていた。
「え、えぇ!そうですとも!斗詩さんや猪々子は、私にとって大切な家臣ですわ!其の事が解る貴方も、中々の人物でしてよ!」
良い家臣を従えている君主と褒められた袁紹は、先程までの怒りは何処えやら、打って変わって上機嫌に成っていた。
「れ、麗羽様!北郷様が名乗られたのに、麗羽様が名乗らないのは、失礼かと…」
上機嫌に成っていた袁紹に対して顔良は、まだ名乗りをしていない袁紹に対して名乗る様に進めていた。
「そ、そうでしたわね。私は、姓を袁、名を紹、字を本初ですわ。名乗りが遅れてしまい申し訳有りませんわ。それで、貴方はどちらの貴族の方ですの?」
袁紹は、名乗りの遅れを詫び、本題の一刀の素性を聞き出そうとしていた。その視線は、キラキラと輝く服に向けられており、名の有る名家の人間ではないか?
と、言わんばかりの表情だった。そう…自らの名声を少しでも上げる材料と成るのであれば…
「麗羽様……北郷様は……」
袁紹の質問に対して、顔良が答えようとしたが、
「顔良殿……お待ちを……」
一刀は、説明をしようと袁紹に近づこうとした顔良にスッと右手を出して制止し、
「袁紹殿……私の素性は、私自ら御話しようと思うのですが……もうじき日が暮れてしまいますので、近くの村で御話したいのですが、宜しいでしょうか?」
日暮れも近くこの様な荒野で立ち話もどうかと思い、先の追い剥ぎから聞いた村で話をしようと一刀は提案した。だが、袁紹は、
「村まで行く必要は有りませんわ!斗詩さん!猪々子!ここで野営の準備をなさい!」
と、事も無げに言うのだった。
「え?麗羽様、ここで野営ですか?」
顔良は、野営をするとは思っていなかったのか、袁紹に聞きなおしていた。
「当然ですわ!今から村に行ったとしても、兵達は野営のするのでしょう?でしたら、ここで野営しても同じ事ですわ。それに、また私達が引き返して来たら、
村の者達にも不振がるでしょう?」
袁紹自身の事ではなく、兵達や村の者達の事を考えている事を察した顔良は、すぐさま行動した。
「はい!解りました!文ちゃん!行こう!」
「おぅ!」
「では、麗羽様 北郷様 暫く此処で待ってて下さい。」
「えぇ。急ぎなさいな。御客人を待たせるものでは無くてよ。」
「「はい!」」
袁紹の言葉に返す様に、顔良・文醜の二人は、元気良く返事をして兵達の下に走っていった。
(ふむ……全ての事柄に対して『暗愚』と言う訳では無い様だな……猛毒の血の中に、まだ鮮血が残っていると言う事か……?)
などと一刀が考えていると、袁紹が問いかけて来た。
「北郷さん……でしたわね。野営が整うまで暫く時間が掛かるでしょうから、其の間に貴方の素性を少し御話頂けませんこと?」
袁紹は、退屈凌ぎとばかりに一刀の素性を聞こうとしてきた。
「私は構いませんが、無用心とは思いませんか?此処には、私と貴女しか居ないのですよ?」
一刀は、袁紹の余りの無用心さを不思議に思い、尋ねてみた。
当然と言えば当然である。先程会ったばかりの人間のみを残し、君主である袁紹本人だけが、ここに残っているのだから……
「其の事でしたら、問題有りませんわ。貴方の剣の腕を遠目では有りましたけど見させて頂きましたわ。剣技は、其の人物の心を表すと言うでしょう?貴方の剣技は、流水の如く美しく見事でしたわ。その様な剣技の持ち主が、私の背後から襲う等しないでしょう?それに斗詩と猪々子が迷わず私達を残して行く事が、あの二人が貴方を信頼している証ですわ。まだ、理由を述べた方が宜しいのですか?」
「わはははははははは!」
袁紹の反応を見ていた一刀だったが、聞いた途端に大笑いをしていた。
「な!なんですの!!貴方 失礼にも程が有りましてよ!!!」
まぁ、当然の反応だった。袁紹は、一刀が馬鹿にしていると思い、剣に手を掛けようとしていた。
「あぁ……失礼した。貴女や文醜殿達を馬鹿にしたのでは有りませんよ……よく観察されていると感心したのです。勘違いされたのであれば、誤りましょう。申し訳有りませんでした。」
と、一刀は、袁紹に対して深々と頭を下げていた。
「い、いえ……そうなのでしたら、宜しくてよ。此方こそ、早とちりをしてしまって……」
一刀の素直な謝罪を受け、袁紹は顔を赤くしながらも、恥ずかしいのか慌てて在らぬ方向を向いて視線を逸らしていた。
(ふふ……慌てた袁紹殿の表情も可愛いものだな……だが、そろそろ皆が居ない内に、本題に入っておくべきだろう……)
一刀は、この時を逃しては、後々面倒に成る可能性が有る事を憂慮して、本題に入る事にした。
「さて、袁紹殿……これから御話する事を心を静めて聞いて頂きたい。恐らく……いや、絶対と断言出来るが、貴女は私の話を信じて頂けないだろう……だが、私は真実しか言えない。言うしかないのです。私の話す事を聞いて御自身で考えて頂きたいと思うのです。宜しいか?」
一刀は、今まで笑顔だった表情を一変して真剣な表情に成り、袁紹の目を見ていた。そこには、青年としては歳相応ではない雰囲気を漂わせた男が、袁紹の前に立っていたのだった。
「え、えぇ……解りましたわ……そこまで仰るのなら、私も真剣に聞かせて頂きますわ。」
袁紹自身 気が付いていないが、一刀の雰囲気に呑まれた形に成っていた。袁紹の目が、真剣な物に変わったのを確認した一刀は、ゆっくりと自身の事、そして、袁紹の事を語り出したのだった。
麗羽視点
(北郷さんの雰囲気が変わった気がしますわね……それに真剣な表情……余程の内容なのでしょう……何処の貴族かも知れませんし、私も、真面目にお聞きしましょう)
「え、えぇ……解りましたわ……そこまで仰るのなら、私も真剣に聞かせて頂きますわ。」
麗羽は、一刀の表情から、真剣さを感じ取り一刀の目を見返していた。
「では、私の素性から話しましょうか……まず、私の事を何処かの『貴族』と思っておられる様ですが、私は『貴族』では有りません。信じて貰えないでしょうが、私は、この世界の人間では有りません。約千八百年後の未来より、この世界に降り立った者です。この服は、その時代に普通に着られている服ですよ。」
一刀は、顔良・文醜にも話をした内容を袁紹にも伝えていた。
(…………は?北郷さんは、今 何と言いまして?『貴族』では無い。えぇ、それは解りました。その後……この世界の人間では無い?千八百年後の未来から、この世界に来た?……もう服の事など関係無いですわ!この方、何を仰ってますの?頭は、大丈夫なのですの?)
麗羽は、今 一刀が述べた内容が自分の想像を遥かに凌ぐ事柄だったのか、頭の上に?マークが3・4個浮かんでいる様な仕草をしていた。
「ははは……まぁ、無理も無いですな。『この人 頭 大丈夫?』みたいな事を思われても仕方ない内容ですからね。」
と、一刀は麗羽の仕草に微笑みながら、麗羽の思っていた事を言った。
「え、えぇ……誰だって、そう思うでしょう?どう考えても作り話としか思えません。それでも、信じろと?」
(話を始める前に、北郷さんは、「信じられない話をする」とは仰りましたが、これはどう考えても……)
そう……どう考えても、この時代に生きる全ての人間が同じ様に思う事だろう。この絵空事を語っている男は、気が触れたのではないかと、思わずには居られなかった。
「私は、この場では、真実しか申しません。いや……真実しか言えないのです。先程言った通り、私は千八百年後の世界より降り立った者。この世界の行く末等
が、解っているのです。要は、歴史を知っているのですよ。」
「!!!」
麗羽は、一刀の歴史を知っていると言う言葉に否応無しに反応した。いや、麗羽だけではないだろう。もし、この場に他の人物が居れば、麗羽と同じ反応をしていただろう。それだけ、インパクトの有る言葉だった。
「歴史を知っている……と仰いましたわね……?」
「えぇ。言いましたよ。」
二人は、短い言葉を交わした後、沈黙した。
(歴史を知っている……それは、私の事も知っている。と言う事ですわよね?私は、今後 どうなるのでしょうか?漢王朝の下 大陸を平定するのでしょうか?
いえ、そうに決まってますわ!四代三公を輩出した袁家ですもの!この袁本初が天子様を助け、大陸を一つに纏め上げるのに決まってますわ!!)
麗羽は、袁家こそ正義で有り、自分の誇りで在った。
そして、自分……袁本初こそ天子様を助け、大陸を平定する人物で有ると思い込んでいた。そして、自分もまた先祖の名に恥じぬ役職……三公に列せられると
一刀の話の途中だったが、自分で話を進めて信じ込んだ。
「北郷さん。歴史を知っているのでしたら、今後 私は、どうなるのですの?まぁ、聞かなくても解りますわよ!天子様と共に、大陸を平定するのでしょう!おーほっほっほ!聞くまでも無いでしょうが、さぁ!言って御覧なさいな!!」
麗羽は、今後の歴史の展開は既に解っているが、確認の為に聞いてあげますわ!と、言わんばかりの態度で一刀に問いかけた。この後の展開が、自分の想像と掛け離れた結果に成るとは、思っても見ないままに……
「袁本初……生まれは、豫州汝南郡汝陽県の出。高祖は、袁安。袁京、袁湯、そして袁成と血を受け継ぐ。後漢朝代に四代三公を排出した名家。袁逢・袁隗から政を師事し、次代の大器をして二人より愛された。」
「おーほっほっほっほ!!!!良くご存知ですわね!!そこまで御存知の方は、幾人も居りませんわよ!!
成る程!未来から来たと言うのも、強ち嘘では無い様ですわね!!そして、今後は天子様と共に大陸を平定し、地に落ちかけた漢王朝の権威を復活させるのですわね!!!もう解ってますわよ!!!おーほっほっほほ!!!」
麗羽は、自分の出生から、袁逢・袁隗から次代の大器と称されていた事に感じていたまでの事柄、また、袁家の者しか良く知らない事柄をも述べた一刀の内容に未来から来た人物だと確信した。また、これから先の自身の出世も、確約されたと確信していた。
「袁紹殿……まだ、続きが有ります。この後 河北四州を平定するが、その後 衰退し袁家は、滅亡する。
そして、袁家の血は途絶えるのです。」
「な!なんですって!!!!」
麗羽は、今まで一刀の話の内容に有頂天に成って聞いていたが、最後の滅亡と聞いた瞬間に声を上げていた。無理も無い事だ……自身で話の先を妄想していて滅亡を想像する人間等居よう筈が無い。まして、『血が途絶える』などと……
「そこに座りなさい!この私を愚弄して只で済むと思っていないでしょうね!!」
麗羽は、怒髪天を突くかの如き形相で、自身の剣に手を掛けて、今にも切り掛かりそうな勢いで、一刀に食い掛かった。今までの期待が大きかった故に怒りも相当な物だった。他の者は、野営の準備に追われ、周りには袁紹と一刀の二人しか居らず、誰一人として止める者は居なかった。
「袁紹殿……私は、貴女に対して侮辱の言葉を言っているつもりは有りません。詳しい内容は言っておりませんが、先程も言った様に事実しか御伝えしていないのです。仮に、滅亡しなくても、このままでは貴女は遠からず歴史の舞台から降りなくては、成らなくなります。其の事にも、気づいてないのですか?」
人間 頭に血が上れば冷静な判断は、出来ないものである。麗羽は、剣の柄を握りながらワナワナと震わせていたが、一刀の言葉が癇に障った麗羽は、激情に駆られて鞘から剣を抜こうとした。その刹那、対面で袁紹の様子を観ていた一刀が、半歩前に出たかと思うと鞘ごと刀を抜いて袁紹の剣の柄に当てたのだった。
……カツン!
頭に血が上り周りが見えなくなった麗羽は、剣を抜こうとしたが抜けず、代わりに自分の手元から、乾いた音がしたので視線を向けると、一刀の刀の柄が器用に自分の剣の柄を押さえているのに気づき、更に力を入れて抜こうとしたが、微々たりと動かなかったのである。
(くっ……ぜ、全然動きませんわ……)
麗羽が、必死に腕に力を入れて、剣を抜こうと躍起に成っていると、一刀が静かに話しかけて来た。
「袁紹殿……貴女の怒り……重々承知しています。だが、剣を抜くと言う事は、生死を分かつ行為……理由も聞かず、軽々しく抜く物では無いと思いますよ。それこそ君主失格では、ありませんか?」
「………………」
麗羽は、未だ怒りは収まってはいなかったが、自身の行動を止めた一刀の目を見据えていた。
(腹立たしいですわ!袁家が滅亡ですって?!我が血筋が絶えるですって?!何と言う侮辱!今まで生きて来てこれ程の侮辱が有りまして?!名家の出で有る私が、滅亡せずとも舞台から降りるですって?!ふざけるのも大概になさいな!?うぅぅぅ~~~!!理由も聞かず剣を抜く行為を軽々しいなんて………んん!?…………ふむ…………何か理由が有るのですか?…………理由を聞いても……遅く有りませんわね…………いいでしょう!!その理由とやらを聞いて差し上げますわ!!!それでも、納得行かなければ、その首貰いますわよ!!)
暫く無言で互いを見据えていたが、麗羽がゆっくりとではあるが、剣より手を離したのを合図に一刀も太刀を腰に戻した。
「御見苦しい所を御見せしましたわ。」
「はて?何か有りましたかな?」
麗羽は、必死に勤めて怒りを抑えていた。袁家の名を汚さぬ様に……そして、一刀も、わざとらしくは合ったが、何食わぬ顔で答えていた。
「……ふふふ」
「……ははは」
二人は、暫しの間 笑いあった。そう……互いの間に有る緊張と言う名の溝を埋める様に……
「北郷さん。貴方の仰る事も一理有りますわ。ですから、最後まで貴方のお話をお聞き致しますわ。ただ、最後まで話を聞いても、私が納得出来ない様でしたら、私を侮辱した罪に問わして頂きますわよ?それでも良ければ、続きを御話なさいな。」
「あぁ、了解した。」
麗羽は、笑った御蔭で少し冷静さを取り戻し、一刀に話の続きを促そうとしたが、先程一刀が言っていた内容に筋が見えないのか麗羽は一刀に問い質していた。
「北郷さん、貴方 先程『滅亡しなくても、遠からず私は歴史の舞台から降りる事に成る』と、仰いましたわよね?それは、どういう意味なのですの?」
一刀は、一瞬考えた感じで袁紹を見ていたが、一つ頷くと話し出した。
「ふむ…本来なら、自分で答えを導き出して貰いたい所だが…まぁ、よい……これは、顔良殿・文醜殿から聞いた話だが、袁紹殿…貴女、南皮城の改修の許可をしたそうですね?」
「えぇ。城壁はもとより内装にも、手を入れる様にしてますわよ。それが、どうしたと言うのですか?」
麗羽は、然も当然と言わんばかりの態度で答えた。
「その改修の為の資金は、何処から捻出するのですか?」
「我々袁家の者と、南皮の民達で出し合うのですわよ。何の問題があるのですか?」
(北郷さんは、何が言いたいのですか?問題など何も無いでしょうに。)
「では、南皮の民の現状を袁紹殿は、御存知なのですか?」
「えぇ!知っていますとも!!私の統治で、民達は裕福に暮らしていると、聞いてますわよ!」
(当たり前では有りませんか!この私、袁本初が統治してますのよ!)
「聞いて知っていると…では、御自分の目で民達の暮らしを見ては無いのですか?」
「えぇ。報告を聞いて問題ないのでしたら、見に行く必要は無いでしょう?」
(何も問題が無いのに、私が態々(わざわざ)民の様子を見に行く事などしなくても、良いでしょうに…埒が明きませんわね…)
麗羽は、質問に答えながらも、当たり前の事を聞いてくる一刀に焦れて来ていたが、次の質問から一刀の様子が変わっているのには、気づかなかった。
「では…長老達が、敷いている政は、問題無いと?」
「えぇ。長老方は、良く遣っていると思ってますわよ。」
「本気で言われているので?」
「本気も何も、長老達も民の事を思って政をしていますわよ。」
(長老達は、良く遣っていますわよ!名門袁家の名に恥じぬ政をしているに決まっていますわよ!)
麗羽は、長老達の政が悪く言われ、結果『自分が悪く言われているのでは?』とも、思っていた。
「……そうですか」
「そうですわよ?何の問題も有りませんわ!」
(結局 何が言いたいのかしら?私達には、何の落ち度も無いですのに。全く時間の無駄ですわね。……もう罰を決しても良いでしょう…)
麗羽が、一人考えに浸り、結果を出そうとした時
「袁紹殿……貴女は、自分で民と触れ合わない、長老達の意見を疑わず、その報告を全て信じてしまう……今 南皮の民達の現状を知らないまま改修の許可を与えた……税に苦しむ民達に更なる重税を貸せる行為…そして、長老達の真の姿を観ない行為……この事柄から貴女の行く末が見えてくるでしょう……?」
一刀の言葉に麗羽は始め首を傾げていたが、何を馬鹿な事をと言わんばかりにゆっくりと首を振り始めた。
「そんな事ありませんわよ。長老達が、自分の首を絞める様な事をする筈がないでしょう?馬鹿馬鹿しくて話に成りませんわ!」
麗羽は、あくまでも自分や長老達のする事が正しいのだと思っているのだ。
「では、今 お話した内容を私に話してくれた文醜殿・顔良殿をも、信用されないのですね?袁紹殿の事だけを考えている二人の思いをも、信用されないのですね?貴女の状況が状況だけに、言いたくても言えなくて泣いていた二人の気持ちさえ、貴女は軽視するのですね?」
「………………」
(猪々子と斗詩が、その様な事を………?私の事を思ってくれているあの子達が………?そして、あの子達が泣いていた…?)
流石の麗羽も、猪々子・斗詩の二人の名を出されては、即答が出来なかった。今の今まで一刀に感じていた怒りが、火が消えたように消え去り、麗羽は、目の前が真っ暗に成った気がしていたのだった。
再び二人の間に沈黙が訪れた。其処へ天の助けか猪々子と斗詩が現れた。
「ひめ~!野営の準備完了したぜ~」
「麗羽様・北郷様 準備が出来ました。どうぞ、こちらへ!」
その言葉に導かれ麗羽は、一刀や文醜達に声を掛けるでも無く、野営に向けてゆっくりと歩いていき、一刀は、その後姿を暫く見守っているのだった。
一刀視点
野営に設けて有る天幕の一つを与えられていた一刀は、先程まで兵達と一緒に食事をしていた。兵達とは、色々な話をした。生まれや家族、恋人、夢等有り触れた内容かも知れない。だが、此処は三国志の世界。現代の様に平々凡々と生活出来る様な環境では無い。死が隣り合わせの世界なのだ。だから、兵達だけではなく、民達も、その日その日を一生懸命生きて行くのだ。その兵達と話、触れ合う事で一刀自身も苛酷な環境に置かれている事を実感していた。そして、夕食を終え天幕に帰った一刀は、用意された寝床に腰を掛けていた。
(さて……大体の事は、袁本初に伝えた…後は、あの子がどうでるかだな……時折垣間見せる優しさ・心配りが、あの子の本質なのだろう…激情家の要素も有る様だが…あぁ…宦官の虐殺を史実の袁紹は、行っていたな…それを考えると、私の知っている歴史の袁紹とこの世界の袁本初は、大まかな部分で合っているのだろうな………さぁ…吉と出るか…凶と出るか…)
一刀が、一人思案に暮れていた時、天幕の外に人の気配が感じられた。
「そこに居るのは、誰だい?」
「!」
気づかれていないと思っていたのか、天幕の様子を確認しようとしていた人物は、オズオズと声を掛けてきた。
「あ、あの…顔良です……北郷様…少しいいですか?」
顔良の声は、今にも消え入りそうな声だった。
「あぁ。構わないですよ。どうぞ中へお入り下さい。」
一刀は、丁寧に声を掛けていた。
「失礼します……あ、あの…北郷様…麗…いえ、袁紹様にどんな事を話したのですか?」
顔良の言わんとする事は、大体解っていた。袁紹が野営に戻る時の態度が異常な程、落ち込んでいた為である。普通は、そうだろう。形上の信用等と、心から気を許した人物への信用を天秤に掛けている様なものなのだから…
「顔良殿・文醜殿に教えて貰った話に、私が知っている歴史・知識を上乗せして御話したのですが。何か問題でも起きましたか?」
顔良の表情が暗い物だったので、不味い事でも起きたのかと内心冷や汗を掻きながら、平静を装って話しをした。
「い、いえ…野営に着いてから袁紹様が天幕に篭ってしまって…食事も為されないので、どうしたものかと…」
(成る程…天秤が、未だに揺らいでいるのだな…それで良い…悩み悩みぬいて、答えを出した時 自ずと道は開かれるものだ…それが、悪い結果で有っても、本人は納得行くだろう…後は、周りの者が、上手く補佐して正しい道に導いてやれば良いのだ…)
「大丈夫…と言っても気休めにしか聞こえないでしょう…ですが、今の袁紹殿には、この時間が重要なのです。考える時間が…ね。貴女も、袁紹殿を信じてあげて下さい。」
気休めにしか聞こえない内容だが、実際に考える時間は必要なのだ。ここで考え抜いた結果がどう出るかは、解らないが…
「うん……そうですね。私達が信じてあげなくちゃいけませんよね!もう暫く様子を見守ります。有難う御座いました。」
顔良は、深々と頭を下げて礼を言った。
「アニキ!入るぜ!!」
そうしていると、文醜が威勢良く天幕へ入ってきた。
「あれ?斗詩。アニキの天幕で何してんだ?」
「ぶ、文ちゃん。いきなり入って来ちゃ駄目でしょ?
北郷様の許しを得て入るのが、礼儀でしょ?私は、麗羽様の様子が心配だったから、北郷様に相談してたんだよ。」
「まぁ、硬い事言うなって。そっか…確かに野営に入る時の姫の様子、暗かったもんな……あ!その姫がアニキを呼んでるぜ?」
「えぇ!文ちゃん、なんで早く言わないの?麗羽様 あんまり待たされると、怒るの解ってるでしょ?」
「いいじゃん。今 思い出したんだからさぁ…」
二人の掛け合いは面白そうだったが、袁紹を待たせるのも不味いと思い一刀は、切り出した。
「二人の仲が良いのは構わないのだが、待たせては袁紹殿の機嫌が損なうのでは無いのかな?」
「「あっ!」」
二人は声を揃えて見合わせていた。
「では、案内をお願い出来ますか?」
一刀は、二人の様子を細く笑みながらも、袁紹の天幕へと案内して貰うのだった。
如何でしたでしょうか………?
私なりに雰囲気や、心情・描写を出来る限り表したと思います。
…が、皆様が求める内容には、至って無い物だと思っております。
徐々にでは有りますが、工夫して頑張って行こうと思っておりますので、
生暖かい目で見守って遣って下さい。