第一章 邂逅 其の二
邂逅編 其の二を連続投稿致します。前話でお伝えした通り、今回は、一刀と斗詩の話です。拙い文章で申し訳有りませんが、読んで遣って下さい。
一人でも面白いと思って頂ければ幸いです。
斗詩視点
二人は件の男の元に近づき、斗詩が馬から降りたのに倣い、猪々子自身も馬から降りた。
(遠目でもキラキラしていたけど、この服…何で出来ているんだろう?やっぱり何処かの貴族の人なんだろうか?)
斗詩は、煌く服を真近に見て素直な感想を思っていた。
「なぁ、アンタ どこの貴族の人だい?連れの者達は、どうしたんだ?」
斗詩よりも先に、猪々子が件の男に声を掛けていた。
声を掛けられた男はと言うと、麗羽に向けていた視線を、無言で猪々子に送っていた。
「おい!お前 聞こえているのか?何処の誰だって聞いているだろう?!」
視線だけ向けられ無言のままの男の態度に、苛立ちを覚えた猪々子は、口調を荒げにして質問していた。
「ふむ…何時の時代でもそうだと思うが、人の名を訊きたいのであれば、まず己の名を述べるのが筋ではないのかな?御嬢さん方?」
件の男の発した内容に「はっ!」とした斗詩は、直ぐ様 返答を返した。
「失礼致しました。我が名は、姓を顔、名を良、字を瀞沁と申します。我が同僚の非礼 深くお詫び致します…文ちゃんも、名を名乗って!」
「うん?あぁ。アタイは、姓を文、名は醜、字を焔盛ってんだ。宜しくな!後は、斗詩に任せた!」
(しくじっちゃったかなぁ…麗羽様より偉い方だったら、どうしよう…てか、文ちゃん、砕け過ぎだし、丸投げしないでよぅ…)
斗詩は、件の男の指摘を受け非を認めた上で、名乗りはしたものの、本当に貴族だったらと思うと冷や汗を掻き、猪々子の丸投げに対して、心で泣いていた。
「丁寧な御挨拶痛み入る。私は、姓を北郷、名を一刀と言います。字は有りません。
顔良殿、文醜殿と御呼びすれば宜しいかな?」
二人の挨拶を聞き、男は自分の名を伝えた。
「はい。構いません。それにしても、珍しいお名前ですね。字も無いなんて…?
北…若しくは辺境の方に御住まいですか?」
訊き様に寄っては、失礼な内容だが斗詩には、それ以上良い言葉が思い浮かばず諦めて、素直に聞いていた。
「顔良殿、私の住んでいた世界では、姓と名のみで、字は誰一人無かったのです。それに北や辺境の出身でも有りません。何処かのお偉い方と思われている様ですが私は、貴族等では有りませんよ」
男は、斗詩に名前の説明をしていて、自分は貴族では無いとハッキリ言っていた。
(ほっ…貴族では無かったかぁ~…良かったよぉ~。でも、北でも辺境の出身でも無いって言う割には、この服の説明には成らないよね…)
「すみません。貴方が貴族で無いのに、その様な立派な服を着ているのは、何故ですか?まさか…貴方自身 盗賊とかでは…?」
と、自分の発言に驚きはしたものの、盗賊なら着ている服の辻褄が合うと思い、金光鉄槌に手を掛けていた。
「ははは!成る程!貴族でも無い私が、この様な服を着ている事は、確かに疑われても仕方ないですな!だが、この服は正真正銘 私の服ですよ。私の住んでいた世界の代物です。この時代には存在しないものですからな」
(え…?この人…最後の方に変な事言っていた様な…)
斗詩は、その男が発した最後の言葉に引っ掛かり、再度尋ねた。
「あ、あの…今 貴方は、其の服が『この時代に存在しない物』と言われました?」
何かの訊き間違いだろうと思いながら尋ねたが…
「あぁ…顔良殿の疑問…尤もですね。私の事について、少し長く成りますが、説明させてくれませんか?」
肯定と取れる返事を返され、説明をすると言われれば、素直に訊かなければと思い、斗詩は頷きながら猪々子を伺うと、『斗詩に任せた』と言わんばかりに頷いていた。
(もぉ~…文ちゃんたら、面倒事は全て私に投げるんだから…)
「では、お話しましょう…」
斗詩の心の嘆きを知らないままに、男は語りだした。
「私は、今 貴女達が生きている時代より約千八百年後の未来から、この世界に来たのです。ですので、私は、この世界の人間では無いと言えるでしょう…信じようが信じまいが、それは貴女方の勝手…私は、真実しか伝える事が出来ません。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
斗詩は、余りの話の桁が違う事に混乱していた。
「えっと…貴方は、私達が生きている時代より千八百年後の未来から来た?貴方は、この世界の人間では無い?」
斗詩は、男の発言を再度言葉にして確かめていた。
「はい。今 貴女が言われた様に、私は言いました。私が住んでいた所は、この大陸の東の海の彼方…日本と言う国です。今はまだ、国として成り立っては居ませんが…」
男の話の内容は、到底信じられない内容だったが、斗詩は、その男が目を見て彼は本当の事を話しているのでは思っていた。
(こんな澄んだ目をした人が、私達を騙す為に嘘を付いているとは思えない…それに嘘を付くなら、もう少し現実味の有る話をするだろうし…)
「ただ…」
男の話の内容を鵜呑みには出来ないが、嘘を付いている様にも思えないと感じていた斗詩が、男の言い淀む言葉に顔を上げた。
「ただ…私は、前に居た世界で一度死んだのです。」
「「な!」」
斗詩ばかりか猪々子も、これは理解したのだろう、二人同時に反応していた。
「お二人が驚くのも仕方有りませんよ…本当に私は病で死んだのですよ…ただ貴女方に解りやすく言うと…私の前に神様が現れて、もう一度遣り直す機会を与えられ、そして、この時代へ送られて来たのです。以上が、今この場に居る事の顛末です。」
斗詩は、驚き、混乱しながらも、男の話に耳を傾けていたが、話が終わったと男は、岩に腰を下ろしていた。
(これは…作り話にしては、大袈裟過ぎるし、かと言って嘘とも思えない…この時代の人間では無いか…そして、神様に生き返らせて貰った……………あれ?さっきの村で聞いた、噂話って…『流星に乗って天の御使いが現れる』だったよね…ま、まさか…この人が?…でも、それだったら、解る気がする…この人だったら、麗羽様を救えるかも!!!)
「文ちゃん!!全てを私に任せてくれる?」
斗詩は、一縷の希望を胸に猪々子に問いかけていた。
「んん?あぁ。いいぜ。アタイは、難しい事は解んないけど、斗詩の事信用してるから、好きにすればいいんじゃね?」
「ありがとう、文ちゃん!!」
「姫を何とかしたいのは、アタイも一緒だよ」
「うん」
斗詩は、猪々子も賛同してくれた事に安心し、男に麗羽や自分達の境遇を包み隠さず話すのだった。
一刀視点
顔良より訊いた内容は、話の最後に成るにつれ、酷いものだった。傀儡と成り、本人自身も暗愚に成っていたのだ。自然と一刀の顔は、渋いものになっていた。その一刀の反応を見た顔良は、焦りを感じた様に思えた。
「北郷様!本当に勝手を言う様ですが、麗羽様を…いえ、袁紹様をどうか助けて下さい!!もう…私達の手では、どうにも成らないのです。このままだと、長老達に食い物にされた挙句、用済みとばかりに殺されるのがオチです。どうか…どうか…お願いします。私で良ければ、好きにしてくれて構いません!それで…それで袁紹様が助かるのなら…グス…」
「アタイも斗詩と同じ気持ちだ!斗詩だけに辛い思いをさせる訳には行かない!アタイも好きにしてくれて良いぜ!だから、お願いだ…斗詩の願いを聞いてくれよ!」
涙を流しながら訴える二人を一刀は、見定めていた。
(二人の気持ちは、十分解った。この二人に思われている袁紹は、以前優秀な人物だった様だしな…毒に侵されて暗愚に成ってしまったのだろう…後は、本人次第か…よかろう!私が始めに出会ったのが袁紹達ならば、それが運命なのだろう?そうだろう?貂蝉さん!これから私が歩む道を確りと見届けよ!!)
一刀は、自分の気持ちを整理し、迷い無き瞳で二人を見た。
「二人の気持ち、確かに受け取った。神より授かった第二の命。袁紹殿の為に使う事を此処に宣言する。そして、君達二人にもな…」
一刀は、満面の笑みを浮かべて二人を見ていた。
「「えっ!」」
一刀に袁紹はおろか自分達も救いに入っていると、訊いて二人は顔を上げて一刀の顔を見た瞬間、二人の顔は、赤く染まっていた。
「当然だろう?君達二人は、袁紹殿の家臣であり、友であるのだろう?どちらか一人でも欠けたら、袁紹殿は悲しむだろうからね」
「…ありがとうございます!」
「アニキ!ありがとう!」
二人は、涙を流しながら深く、深く頭を下げていた。
「あ、そうだ…質問だが、二人は『袁紹殿』を呼ぶ時に『違う名』を呼んでいた気がするのだが…えっと…なんだったか…あ!『れい』」
「ちょっと待った!!!」
「それ以上は、駄目です!!!」
二人の必死の抵抗に合い、一刀は口を閉ざすしか無かった。
(こんなに必死で止めてくるとは…何か重要な事なのだろうか?)
一刀が考えていると、顔良が答え出した。
「あの…北郷様…真名って御存知ですか?」
「真名?いや、それは何だい?」
(なんだ?変わった呼び名だな…)
訊きなれない言葉に首を傾げる一刀の様子に斗詩は、頷いていた。
「やっぱり北郷様は、この時代の方では在りませんね…真名とは、字の如く『真の名』で、其の人物の象徴・本質を現す名前です。ですから、その本人が、真名を許してない人物から、真名を言われると侮辱した事と同義になり、殺されても文句が言えない。それ程の名前の重みが有るのです。ですので、くれぐれも、相手の真名を知っていても、本人より許しが有るまでは、真名を言わないで下さい。」
「あ、あぁ…解った…止めてくれて有難う…」
「いいって事よ!助けてくれって言っておいて、ブスッ!てのも嫌だかんな!!」
ハハッ!と猪々子は笑いながら言っているが、その様な死に方は御免だと、一刀は思った。
(やれやれ…難儀な風習だな…気をつけなければな…)
「あ!北郷様に麗羽様をお救いする願いを聞いて戴いているし、私の信頼の証として真名を預けたいのですが…」
「んん?斗詩が預けるってんなら、アタイも預けるぜ?」
顔良が、いきなり真名を預けると言い出し、顔良が良いならと、文醜も言い出したのだ。
(信頼してくれるのは、有り難いが…家臣が先に伝えると、袁紹殿の立場がな…)
「気持ちは有り難いのだが、先に君達の真名を私が受け取ったと成ると、袁紹殿の機嫌を損ねないかい?」
「「あ…」」
二人同時に答えていた。そこまでは、気が回らなかったのだろう…
「危なかったぜ…自分だけ除け者されたと、いじける所だった…」
「うん…そうだね…」
二人が安堵したのを頃合に一刀は、思っている事を告げた。
「これから、袁紹殿の下に向かうが、私に一切を任せてくれないかな?そして、覚悟を決めて欲しい…公正出来るなら良し、出来ないなら…他を考えるが…猛毒を抜くには、猛毒で対抗するかも知れない…どのような事に成っても、私を信じて欲しい…良いかな?」
これから共に歩むであろう人物の毒抜きをするにあたって、横槍が入っては元も子もない。故に二人には、厳しい事を言っておくべきだと一刀は思い、二人に告げていた。二人は、暫し思案したが意を決して一刀を見た。
「はい。北郷様にお願いした以上、覚悟を決めています。」
「アタイも、アニキに任せるぜ。姫を助けてくれよな!」
二人の返答に満足したのか、一刀は笑みを浮かべて二人に背を向け袁紹の下に向かいながら言うのだった。
「あぁ…共に歩むべき人物をこのまま朽ちらせる訳には、いかぬよ。…そして、君達三人が、本当の笑顔を取り戻せる様にしないとな…」
最後の台詞は、二人に聞こえない様に呟いていた。二人に聞こえたかは定かではないが、二人の顔が更に赤く成っていたのは、一刀の知らない事である。
だが、この三人の良い雰囲気を打ち壊す兵がいた…
「何時までこの わ・た・く・し!袁本初を待たせるのですの!!!」
一刀が共に歩むべき人物と言っていた、袁本初 その人であった。
如何でしたでしょうか?邂逅編其の二でした。次回は、麗羽を公正・修正させようとする一刀の話に成る予定です。作者自身も、試行錯誤している現状です。皆様に納得が行ける作品にしたいと思っております。
一人でも面白いと思って頂ければ幸いです。